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スタートアップとの協業が「新たな価値創出」の可能性を拡げる

写真中左:博報堂 ミライの事業室 室長 吉澤 到
写真中右:quantum 代表取締役社長 兼 CEO 高松 充
写真左:博報堂DYメディアパートナーズ ビジネスイノベーション局 GM 笠置淳行
写真右:聞き手/博報堂DYホールディングス 戦略投資推進室 兼 「with Startups Topics」編集人 岸田泰幸

外部連携によるイノベーションの加速が成長の鍵となる──。博報堂DYグループはそのような考えを推進し、先端的なテクノロジーや新しいビジネスモデルを生み出している外部のプレーヤーとの積極的な連携を実践しています。今回は、グループ内でスタートアップとの協業による新規事業開発に取り組んでいる3つの組織のリーダーに話を聞きました。

スタートアップとのさまざまな連携の形

──今回は、スタートアップとの協業の内容や、そこにかける思いなどを皆さんに聞いていきたいと思います。まずは、それぞれの組織の概要を説明してください。

吉澤 博報堂グループは主に広告マーケティングの領域で事業を行ってきていますが、昨年度から設置した「ミライの事業室」は、それ以外の新しい領域で事業を立ち上げることをミッションとする組織です。

①文中 吉澤さん

コンセプトは「チーム企業型事業創造」です。これは、スタートアップや大学、クライアントなど外部のプレーヤーとの協業によって、博報堂グループ単体で挑むのは難しい新たなビジネス、大きな社会課題に取り組んでいくための取り組み方です。現在、「スマートシティ」「コマース」「エンターテインメント」「ウェルビーイング」「コミュニケーションインターフェース」の5つのテーマを掲げ、新規事業開発や実証実験を進めています。

高松 quantumは、欧米を中心に年々数が増えている「スタートアップスタジオ」の一つです。ハリウッドのムービースタジオが名映画を生み出すように次々にスタートアップを生み出していく──。それがスタートアップスタジオの役割です。スタートアップ、あるいは新規事業を生み出すには、事業構想、ビジョン策定、クリエイティブ、エンジニアリングなど、さまざまな分野の専門家が必要です。そのような専門家が社内に数多くいるのがquantumの特徴です。

②文中 高松さん

quantumのスタートアップ/新規事業のつくり方には、大きく3つの方法があります。1つは、大企業の新規事業開発を支援し、場合によってquantumもその事業に共同参画する場合。1つは、社内のファウンダーが事業を立ち上げる場合。そしてもう1つが、スタートアップの事業にquantumの様々な分野の専門家が支援・協働していく場合です。これらの方法によって、これまでに二桁の製品・サービスを開発し、事業化してきました。

笠置 博報堂DYメディアパートナーズは、放送局や新聞社、デジタルメディアなどの媒体社や、スポーツチーム、エンタテイメント企業などのコンテンツホルダーをパートナーとするビジネスを手掛けています。社会全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいる中、媒体社やコンテンツホルダーの多くは新しいビジネスモデルを模索されています。

③文中 笠置さん

ビジネスパートナーである博報堂DYメディアパートナーズにできることは、新しいテクノロジーやビジネスモデルをもったスタートアップと媒体社やコンテンツホルダーをつなぎ、新しい価値を生み出していくことです。広告を軸とした従来型のパートナーシップだけではなく、テクノロジーやビジネスモデルを軸とした新たな連携に向けた取り組みを、現在進めているところです。

スタートアップとの協業から生まれたサービスやソリューション

──これまでの具体的な協業の取り組みについてお聞かせください。

吉澤 ミライの事業室では地域内の野菜共同配送サービス「やさいバス」との協働に取り組んでいます。生産者が所定の場所に野菜を置くと、巡回トラックがそれをピックアップし、地元のレストランやスーパーに届ける──。それがやさいバスの基本的な仕組みです。我々のメンバーの一人が2017年から、このサービスのビジネス設計やUX(顧客体験)デザインをお手伝いしていたのですが、そこから一歩踏みこんで、現在は資本業務提携を行っています。

④文中 やさいばす

私たちには、「新しい産業モデルをつくりたい」という思いが強くあります。単に効率的にお金を稼いでビジネス拡大のみを目指すのではなく、生活者の幸せを中心に置いたモデルをつくりたい。一般的な農作物の流通は、地方で収穫した野菜を大都市の青果市場に運び、そこからさらに地域のスーパーや八百屋さん、飲食店などに運ぶモデルです。これは、長距離輸送に伴いCO2の排出量も多いし、野菜の鮮度も落ちていくという面がある。しかし、生産と消費を地域で結びつける仕組みをつくれば、物流コストは大きく下がり、野菜を新鮮なうちに生活者に届けることが可能になります。それに挑戦しているのが、新しいモデルであるやさいバスです。

高松 最近quantumが始めた新しい取り組みが、「QAL startups」です。QALとは「クオリティ・オブ・アニマルライフ」、つまり動物の生活の質を意味します。QAL startupsとは、その向上を目指す取り組みの名称であり、獣医療の事業者3社とともに新たに創設した合弁会社の名前でもあります。その3社とは、動物用の栄養補助食品などの企画、製造、販売を手掛けるQIX、獣医学専門誌などを発行するエデュワードプレス、そして獣医療関連の動画配信サービスを行うエレファントピクチャーズです。この合弁会社自体、名前のとおり「ペットビジネスにおけるスタートアップスタジオ」という性格をもっています。

⑤文中 qix

現在、この会社で3つの事業を立ち上げる準備を進めています。1つめは、エデュワードプレスがもつ全国6000病院の獣医師の情報をペットオーナーに正しく届けるプラットフォーム事業、2つめは、動物病院のオンライン相談や訪問診療の仕組みづくりを支援する事業、3つめは、ペット向けサプリメントの開発・販売事業です。

QAL startupsの社長は、盲導犬の育成ボランティア「パピーウォーカー」の体験者で、人と動物がよりよく共存していける社会をつくりたいという強い思いをもっています。そのような思いも、この合弁会社の実現に繋がっていますし、今後の活動に対するエネルギーになっていくと思います。

笠置 博報堂DYメディアパートナーズは、この6月、ブロックチェーン型超高速データベース「Grid Ledger System」を開発したアーリーワークスとの協業を発表しました。このプロジェクトは、博報堂DYメディアパートナーズ社内の新規事業開発プロジェクト「PlayAsset」とアーリーワークスとの連携によって、ブロックチェーンを活用したソリューション開発を目指したものです。ブロックチェーンのメリットはセキュリティレベルの高さにありますが、一方で処理速度やスケーラビリティの点で課題もあります。アーリーワークスとの協業によって、その課題を解決できると私たちは考えました。

⑥文中 アーリーワークス

博報堂DYメディアパートナーズには、媒体社やコンテンツホルダーとの広範なネットワークがあります。一方、アーリーワークスのような優れたスタートアップには、自分たちの技術・プロダクトによって世界を変えてやるといった強い思いがあります。そのそれぞれの強みを掛け合わせれば、媒体社やコンテンツホルダーに大きな価値を提供できるはずです。具体的には、媒体社が主催するイベントやスポーツチームのチケット販売などにソリューションを提供していけると考えています。私たち自身がスタートアップになった気持ちで、失敗を恐れずにどんどんご提案していきたいですね。

ウィンウィンの関係をつくるために

──スタートアップと協業することの意義や、協働を進めるうえで意識していることを聞かせてください

吉澤 スタートアップは、ある特定の領域に関する深いナレッジをもっています。専門分野における課題が何で、それをどう解決していけばいいのか。その視点の解像度が非常に高いのが強みだと思います。私たちは、スタートアップの皆さんとおつきあいすることによって、そのナレッジや視点を学び、自分たち自身のナレッジレベルを上げていくことができます。それがスタートアップとの協業がもつ大きな意味です。
一方、博報堂DYグループには、幅広い産業分野で数多くのクライアントとおつきあいをしてきた経験があります。したがって、産業を横断して俯瞰する視点を備えています。そこから例えば、「ある特定の課題解決のために開発されたテクノロジーをまったく別の領域に応用する」といった発想が出てくることがしばしばあります。そのような発想力が、私たちからスタートアップに提供できる価値と言えると思います。

高松 大企業とスタートアップでは「常識」が異なることが少なくありません。大企業側は自分たちの常識こそが世の中の常識であると考えがちですが、新しい事業を協働で立ち上げる際は、むしろスタートアップ側の常識に合わせていく必要があります
また、スタートアップとの協業を成功させるには、スタートアップの皆さんへのリスペクトが欠かせません。リスクを背負いながら新しいチャレンジをしている勇気、そして大企業のサラリーマンが敵わない彼らの尖った能力とスピードに対するリスペクトです。それを絶対に忘れてはいけないと思っています。

笠置 スタートアップの皆さんは、私たちにはない視点で世の中を見ています。お話をしていると、自分たちの思考が凝り固まっていたことに気づかされることが少なくありません。新しい視点、発想法、挑戦するマインドなどを吸収させてもらって、私たち自身のエネルギーとしています。
もっとも、スタートアップ側に経営のキャパシティや人材力がどのくらいあるかを把握しないままで話を進めると、行き違いや意識のずれが生まれることもあります。お互いを理解し、何がやりたいのか、何ができるのかをしっかりと共有することが必要です。企業と企業の関係といっても、実際に物事を動かすのは生身の人間ですから、人対人のコミュニケーションが何より大切だと思います。

外部連携を推進しながら、「新しい価値の創出」に挑戦し続けていく

──スタートアップとの連携には、博報堂DYグループの可能性を大きく広げる可能性がありそうです。最後に今後のビジョンをお聞かせください。

吉澤 先ほども述べたように、私たちの大きな目標は、新しい社会をデザインすることです。これまでの大量生産、大量消費に代わる新しい豊かさを生み出せるような社会システムをデザインしていきたいと私たちは考えています。そのためには、博報堂グループ自体も変わらなければなりません。さまざまな企業とのネットワークやクリエイティビティを生かし、産業の垣根を超えた協業を進めながら、新しい社会への動きをドライブしていけるような会社になる。そのための取り組みをこれからも進めていきます。

高松 quantum発足からの4年間で60社を超える企業と共創させていただき、新規事業を立ち上げてきましたが、まだ社会を変えるほどのインパクトは生み出せていません。quantum設立時、私たちは「生活者発想でのオープンイノベーション」というビジョンを掲げました。生活者の課題やニーズに寄り添い、生活の在り方をよりよくしていくような事業を創り出すということです。そのビジョンの実現を引き続き目指していきたいと思います。

笠置 社会やビジネス環境の変化に合わせ、媒体社やコンテンツホルダーは真剣に変わろうとしています。私たち自身も変化しないと生き残っていくことはできません。重要なのは、ともに変化し、成長していくことです。そのような変化に必要なのが、スタートアップを始めとする外部のプレーヤーとの連携です。「変化のための協業」に注力していきたいと考えています。

──博報堂DYグループでは我々グループにとっての新規事業開発にグループ各社が取り組んでいます。その際に、スタートアップとの連携による新規事業開発を実践し始めている会社・チームが複数存在します。博報堂DYグループ各社の持つネットワークやビジネス基盤、多様性に富む人材とスタートアップが有するテクノロジーや先進的なビジネスモデルを掛け合わせることで、よりスピーディーに、よりインパクトを大きく事業を推進していける可能性があると改めて感じました。
博報堂DYグループでは、外部連携によるイノベーションの加速を標榜しています。今後、さらにスタートアップとの連携が推進していけるためにも活動を継続していきたいと思います。

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吉澤 到
博報堂 ミライの事業室 室長

07.プロフィール 吉澤さん

1996年博報堂入社。クリエイティブディレクター、コピーライターとして国内外の大手企業のブランディング、ビジョン開発を手掛ける。その後、海外留学を経て、イノベーション専門部門のマネージャー兼グローススタジオTEKOのメンバーとしてクライアントの事業成長に従事。2019年より現職。ロンドン・ビジネス・スクール経営学修士(MSc)。
著書に「イノベーションデザイン〜博報堂流、未来の事業のつくり方」(日経BP社)


高松 充
quantum 代表取締役社長 兼 CEO

08.プロフィール 高松さん

1989年博報堂入社。営業職、日本大使館出向を経て、創設に参画したTBWA HAKUHODOへの出向中にquantumを創業。”Be a Founder”の実践に努め、QAL startupsだけでなく、貴重な純国産シルクを原料とするスキンケアブランド「QINUDE」の立ち上げや世界の水問題の解決を目指すスタートアップ「WOTA」へのハンズオン投資など、0→1(事業開発)と1→10(事業成長)の現場に身を置いている。


笠置淳行
博報堂DYメディアパートナーズ ビジネスイノベーション局 GM 兼 博報堂DYホールディングス 戦略投資推進室

09.プロフィール 笠置さん

2003年博報堂入社。同年12月に博報堂DYメディアパートナーズに。テレビメディアを担当、タイム・スポット広告のバイイング業務に従事した後にテレビのデジタル化を起点とした新しい広告商品企画や動画配信業務などを担当。昨年よりビジネスイノベーション局に異動し媒体社やコンテンツホルダーの方々との新しい収益開発をミッションに新規事業開発に取り組んでいる。


岸田 泰幸
博報堂DYホールディングス経営企画局事業開発グループGM 兼 戦略投資推進室 兼 博報堂経営企画局 兼 事業投資戦略室
with Startups Topics編集人

10.プロフィール 岸田さんリサイズ

1998年博報堂入社。飲料メーカー・製薬企業などの広告・マーケティングを担当。その後、人事、秘書役を経てquantumに参画。quantumでは大企業とベンチャー企業によるオープンイノベーションの推進などを担当。2017年より博報堂DYホールディングス経営企画局。昨年より博報堂DYグループとCVC出資先企業との連携の窓口を担当。

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