夢で会う人
わたしは金縛りにあうと夢をコントロールできる。
初めて金縛りにあったのは小学生の頃。
金縛りにあうと壁からたくさん怒った人の顔が浮き出てきたり、部屋の隅に髪の長い女の人が立っていたりするような幻覚を見ていた。
知らないおばあさんに首を絞められたこともある。
だけどわたしはこれが、自分の脳みそが作り出している幻覚だと知っていたし、そう強く感じていた。
10年以上癖になってしまっている金縛りを繰り返すうちに、いくつかのパターンと対策を見つけた。
まず、金縛りにあう前に耳元で自転車のペダルを強く漕ぐ音のようなものがする。そのあとすぐに、正座を解いた後のような痺れが全身をめぐる。
これがとても気持ち良い。
自転車のペダルの音が聞こえたタイミングで頑張って体を起こせば金縛りにあう前に目覚めることもできる。
最初の頃は、体を押さえつけられているような感覚があり息ができず金縛りは苦痛でしかなかった。
だけどそれは何年かで自然と無くなった。
代わりに、金縛りの最中に見ている夢をコントロールできるようになった。
怖い顔が出てくる前に、別のことを思い浮かべる。するとそれはわたしの思ったままにすり替わるようになった。
このタイミングで、体に力を入れて気合いで起き上がると金縛りを解くことができる。
だけどこれはとても疲れるので、金縛りが怖くなくなってからは、そのまま自分のしたいことを思い浮かべて遊びながら自然と目が醒めるまで夢の中をフラフラするようになった。
明晰夢というやつだと思うんだけど、あんまりよくないらしいね。
そう思いながらも、金縛りにあうとそれを楽しんだ。
そして今朝、布団の中でうとうとしていると耳元で自転車のペダルの音が聞こえた。
首のあたりがビリビリしている。
ぼんやりとだけど部屋の隅に黒い人のような影が見える。
その影が誰なのかすぐにわかった。
わたしが作り出し、そして作り変えた幻覚だとわかっていても愛おしかった。
夢の中で、わたしは遠い外国の懐かしい道でその人と二人で立っていた。
冷たく痛い風もコートやマフラーのかざばる感覚もこんなにリアルなのに、あーあ夢なんだ。この人にも現実では二度と会えない。
泣き始めるわたしにその人は、
「夢の中で何度でも会えるよ。君がわたしを作ったんだ。またおいで。」
と言った。
夢の中でわたしの顔は引きつったと思う。
幻覚の人物が、夢だと自覚しているパターンは初めてだったしそれについて指摘してくることも初めてだった。
急いで目を覚ました。
何年振りだろう、こんなに恐ろしい夢は。
明晰夢って夢を見ている本人がそれを夢だと自覚していることだと思うんだけど、登場人物たち(わたしの脳みそが作り出した幻覚)が夢だと気づいている場合、それは現実とつながってしまうんじゃないかな。
本当に怖かった。
できればもう金縛りにあいたくないし、夢の中で遊ぶのはやめようと思う。
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