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後で記憶に残るのは特別なことよりも何気ない景色

先日家族でイオンに出かけた。

目的は息子のサッカー用靴と
娘のサンダルを買うこと。

私は買い物をするときに目的以外のことはせず
淡々と目的のものを買いたい派なのだが、
妻は私と全く正反対である。

一緒に街に出かけた時には妻のウインドウショッピングに
付き合うのだが、
今回のように明確に買うものが決まっている時は
できるだけ早く目標のモノを購入して
ミッションを果たしたいので、
妻は息子とスポーツ用品店、私は娘と靴屋に行くことにした。

娘と一緒に店内をウロウロしていると、
娘がある店の前で足を止めた。

その店は石屋さんである。
石屋と言っても墓石を売っているのではない。

カラフルな色んな石やアクセサリーを売っている店である。

店先に並べられたキラキラ光る石に
娘は目を奪われてしまったらしい。

そのまま少しの間店先で色んな石を夢中で見ていたが、
いまの私たちにはミッションがある。

娘に「先にサンダルを買いに行こうか」と言い
何とかその場を離れることに成功した。

そうして靴屋にたどり着き、娘とサンダルコーナーを
みたのだが、娘が欲しがっていたものは
その店には置いていなかった。

幸いそのイオンの中には他の靴屋も入っていたので
私たちはその店にも向かうことにした。

ところが、その店にもそのサンダルは置いていない。

こうなるともうお手あげである。

残念ながらこのイオンにはなかったと
妻と息子に報告しようと私達はスポーツ用品店に向かった。

妻と息子はああでもないこうでもないと言いながら
色んな靴を出しては試し履きをして
どれを買うか悩んでいた。

狙っていたサンダルがなかったことを
妻に報告すると、
娘がおもむろにこんなことを言いだした。

「あのな、今日欲しかったサンダルはなかったんやけど
そのサンダルよりも欲しいものを見つけてしまってん」

私の頭の中でピンとくるものがあったが、
そこはあえて黙っていることにした。

すると妻は娘の提案を受け入れ、
後で一緒にそれを見に行って、いいと思ったら買うと
約束したのである。

妻の心にあの石屋が刺さるかどうかで
娘の欲しいものが買えるかどうかが決まる。

そう思いながら、私達は取り急ぎ息子の靴を
購入して、その石屋に向かった。

店が近づいてくると娘の目も石と同じように
キラキラと輝いてきた。

「ママ、見て。ここに私が欲しいのがあるねん」
そう言いながら妻を誘導する娘。

見てみると軒先に置かれていたクリスタルでできた
クマの人形を娘は既に手にしていた。

さて、この店での妻の反応はどうだろうか。

そう思って見てみると、妻も娘と変わらないぐらい
キラキラした目で店内を眺めていた。

どうやら娘と同じく妻の心にもこの店は
刺さったらしい。

そこから、色んな議論を経て、
娘は欲しかったクリスタルのクマを
買ってもらえることになった。

レジでキラキラと光るクマをもって
嬉しそうに並ぶ娘を
私は早々にこの店に飽きた息子と一緒に
店外から眺めていた。

そのとき、私の頭の中にふとある光景が浮かんだ。

それは私たちの結婚式での一場面である。

新婦父のスピーチで義父がこんなことを
語っていたのを思い出したのだ。

妻がまだ小さかった頃、
出かけた先で偶然見つけた赤いカバンを
どうしても欲しいと妻は義父にねだり、
それを買ってやるととても嬉しそうだったという
エピソードであった。

娘はまだ5歳であるが、もしかすると
将来彼女が結婚する時に、
この時のクリスタルのクマを思い出すのかもしれない。

なんだかそんなことを思うと、
少しの寂しさと共に、
この一瞬を大事に過ごさなくてはならないという
気持ちがふつふつと心に湧いてきた。

何年か経つと私達は色んなことを忘れてしまう。
それは人間の仕組み上仕方がないことであるが、
案外時間が経っても憶えていることとは
このような何気ない光景なのかもしれない。

娘が大事そうに部屋に飾ったクマと
息子が週末の試合に向けて磨いていたサッカー靴を見ながら
既に過去になった素敵な記憶を思い返す早朝であった。

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