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身近にあったゆでガエル

昨日私が働く会社で幹部会議が開催された。

役職的には私は幹部ではないのだが
新商品開発を実質統括しているので
私も招集されている。

そんな会議の中で営業から数字の報告が
上げられた。

私の働く会社では一つ核となる商品があり、
それを販売するビジネス領域ごとに
3つの営業部に分けて販売を行っている。

そのうち一つの営業部Aは会社が始まって以来ずっと
売り上げの中核になっていたのだが、
ここ数年の売り上げは減少傾向にある。

だが、我々の会社自身も値上げをしているので
売上数自体は減っていても一見すると
売り上げ数字自体は横ばいの様に見える。

それ以外の営業部B、Cはというと、
現時点では会社の中核ではないというものの、
新たな販路開拓に向けて非常にアグレッシブに
取り組んでおり、
数字は明らかに数年で上昇している。

一通り営業部から数字の説明を受けた後、
質疑応答の時間になったので、
私は営業部Aの売り上げが一見すると横ばいだが
販売数量で見ると明らかに落ちており、
その要因が何なのかを尋ねた。

顧客がそもそも商品を使わなくなったのか、
それとも競合他社の商品に切り替えたのか、
はたまた全く違うソリューションによって
私たちの商品自体の存在価値が脅かされているのか、
それがわからないことには対処のしようがない。

商品開発担当としてぜひとも
顧客にもう一度購入してもいいと思えるような
商品に仕上げたいという気持ちで
その質問を投げかけたのだが、
その質問を受けた営業部Aの責任者は
「市場が成熟している」などと
お茶を濁すような回答をした。

私は幹部でもなければ社長でもないので
別に彼らの数字にケチをつけたいのではない。

どうすれば数字を伸ばして業績に貢献できるか
自分たちにできる事を知るために
ヒントが欲しいという気持ちで
質問を投げかけただけである。

だが、営業の責任者は明らかに
はぐらかすような回答で逃げているように
私の目には見えた。

なので、私の質問に責めている意図はなく、
営業として顧客の声が欲しいのだと
再度投げかけてみたが、
結局明確な回答は得られないままであった。

彼らは顧客を訪問して営業活動を
しているはずなのに、
一体なぜ私の質問に答えられなかったのか。

とてもモヤモヤしながら幹部会議が終了すると
営業部B、Cの責任者が私を呼び止めた。

彼らは私の質問が核心をついていて
とてもよかったと言いながら、
営業部Aがなぜ回答できなかったかの理由を
教えてくれた。

先ほども書いたように営業部Aは長らく
私たちの会社の中核となるビジネスを担っていた。

そこには決まった顧客がおり、
その顧客からは定期で決まったオーダーを頂ける。

なので私たちの会社は比較的不景気な状況でも
安定してビジネスを続けることができた。

だが、そのような状況が続いた影響で
顧客自身も市場でどのようなものが求められているか、
エンドユーザーが商品に対してどう思っているかという
大事な情報に全く目を向けなくなっていった。

そうしているうちに人員確保が難しい状況が来て、
余計にエンドユーザーから市場の声を
聞く機会が少なくなり、
気が付くと顧客が商品から離れているという状況が
起こっているというのである。

よく水から徐々に加熱した鍋の中に入れたカエルは
変化の小ささに違和感を持たず、
気が付くとゆであがっているなどいう話を聞くが、
まさにこのビジネスもゆでガエル状態に
なっているのである。

それ故に数字が下がっていることに対しても
明確な理由がわからず、
その対応として何をしたらいいのかも
わからない状態になっている。

営業部B、Cの責任者も色々調査して
この事態に気が付いたらしく、
この事態を早急に解消しなければマズいということで
緊急でプロジェクトを立ち上げることになった。

かつて社内で花形であった営業部署だが、
その慢心が仇になり、
市場全体が顧客から目を背けてしまった。

あらゆる商品や市場にはフェーズがあり、
市場に認知されて売り上げが伸びる時期や
競合品が出回って価格競争が起きる時期などが
あるのは間違いない。

だが、そのような変化が起こる中でも
着実にビジネスとして成果を出す企業はある。

それは市場の変化に的確に対応して
商品やサービスの形を変化させているからである。

そして、それをするためには
営業活動で得られる情報をヒントに推測し、
仮説検証をするしかない。

この仮説検証を怠たった企業は
変化に気付くことができず
気が付くとゆでガエルになってしまう。

まさに私達の中核となるビジネスは
ゆでガエルになる寸前だったのである。

本来ならばこのことにもっと早く気づき
対応をしなければならないのだが、
営業部Aの責任者としては自分たちが
既に熱い湯の中にいることを
知られたくない気持ちが強く、
顕在化しにくいような数字の見せ方をしていたらしい。

営業の仕事はどうしても数字を求められるので
自分の成績がいいように見える数字を
アピールしたくなる気持ちはわからないではない。

だが、それが行き過ぎると自分たちでも
その状態で問題ないと勘違いしてしまい
危機感が薄れてしまうことにもなる。

ここからどのように巻き返しを図るのか、
大きなテコ入れは必要になるだろうし、
営業部Aの責任者からすれば面白くない変化になることは
間違いないだろう。

しかし、会社の存続のためにも今一度
ビジネスをあるべき姿に戻していきたいと思う。

問題点が見えた時は病気が判明したときの様に
一瞬暗い気持ちになるが、
問題点が見えたということは、
後はそれを解決するための道を探し、
前に進むだけということなので
とても前向きなことなのである。

今日も前を向いて歩いていくつもりである。

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