見出し画像

ヒッチハイク体験記初稿

はじめに
私はヒッチハイクをする。アルバイトでお金を貯めて、ヒッチハイクで旅行して日本の47都道府県を制覇しようと夢見ている。このヒッチハイクの体験で色んな人の話を聞いた。話したテーマで最も多いのは、これまでの生い立ちについてである。これまでにどんな職業についてきたのかについて、ヒッチハイクで載せてくださった方々から聞くことが多かった。このヒッチハイクで聞いてきた話をまとめてみたのが今回の文章である。

1、港北から日光市
華厳滝を見にいくためにヒッチハイクをした時のことである。2021年の秋でコロナウイルスが多少落ち着いていた時であった。名前は佐々木さんという人だった。彼に声をかける時、軽自動車から力士のような方が出てきた姿が妙に印象に残り声をかけた。
「すみません。今ヒッチハイクをしていまして、途中まで載せてもらえませんか?」
「あぁ…どこまで?」
「最終的に栃木県の日光に行きたいんですが、途中の首都高速を北に抜けたあたりのパーキングまでお願いしたいです。」
「ん…まぁ、いいよ。行こう。」
「ありがとうございます。」
「トイレだけちょっと行かせてくれ。」
「分かりました。本当にありがとうございます。」

数分、佐々木さんはトイレから戻ってくると自販機に行き飲み物を奢ってくれた。佐々木さんは飲み物を買いながら、「いや、ヒッチハイクみたいなガッツがあること、好きだよ。」と私に言ってくれた。
私は「ありがとうございます。いやー,何回も色んな人に頼んでいたんですけど、全然捕まらなくて1時間近く粘ってました。」
「そうか、それは俺が捕まって運がよかったね。助手席を今から開けるから少し待って。」
「はい。」

「改めて、大神と言います。よろしくお願いします。」
「佐々木です。よろしく。」
「あの、本当にありがとうございます。中々捕まらなくて…。」
「何人くらい。」
「ここだと、51人くらいに声かけました。」
「数えてるんだ。」
「数えると精神がなぜか安定するんです。」
「そう。これが最も長い時間待った回だったの?」
「いえ、上郷サービスエリアってところで107人捕まらなかったことがあります。」
「まじかよ…。よく頑張ったな。俺だったら途中で辞めてるな。ハハッ。」
「おっしゃる通りで本当にやめてやろうと思いましたが、ヒッチハイクって一度始めたら辞め方がわからないので嫌になっても続けるしかないんですよね。」
「なるほど。」
「だから、辛くなっても次こそは成功させるって思い続ける、いわば心の筋トレをやってるみたいな感じです。」
「なるほどねー。心の筋トレか。いい例えだな。」
「ありがとうございます。」
「なんでヒッチハイクしたの。」
「今コロナの影響でサークルもアルバイトも思うようにできないんです。だから他人と喋る機会がなくなって、誰かと喋りたいなと思ってやってるのが一つの理由です。」
「うん。」
「他には、自分に自信が無くて,自信をつけるためにやってます。」
「どういうこと?」
「高校生の時に大学受験一本で頑張ってたんですけど、頑張りきれなくて、人間関係も全くうまく行かなかったんです。今思えば高校生の自分は馬鹿でした。高校生活が終わって浪人を経験して頑張ったんですけど、それでもダメで地元の私立大学に行くことになって、その結果に満足できていない中、コロナの影響を入学の時から受けてしまい、自信がなくなりました。このままじゃダメだと思って、漫画にあったヒッチハイクをやってみようと思ったんです。そしたら去年、名古屋から京都まで行けたんですよ。だからこのノリでやってみたらもっと自信つくんじゃないかなって思ってやってます。」
「そうなのか。それで自信はついたの?」
「そうですね。ヒッチハイクでついた自信で、資格の取得とか、イベントの運営とか大学でやったりしたので、新しいことに挑戦することには抵抗がなくなりましたね。前よりも自分はフットワークが軽くなったと思います。」
「それは、いい経験をしたねー。歳をとると足枷が多くなって挑戦しようと思わなくなるよ。結婚とかするとリスクとか取りたく無くなるからね。」
「よく聞きます。守らないと行けないものが多くなるということですよね。」
「うん。まぁ、それもある。あとは体力と時間かな。最近この二つが全くないんだよね。」
「そうなんですか。体力がないようには、お見受けできませんけれど…。」
「いや、こんなけ太ってると運動もしたく無くなって、そのまま不健康になる道を辿るんだよ。ハハッ。」
「いやいや。まだまだこれからじゃないですか。趣味とかは無いんですか?」
「いや、これと言った趣味はないかな。というよりかは最近趣味なんてする余裕もないな…。」
「と仰いますと?」
「まぁ人生色々あるってことだよ。」
「はぁ…。」
「そうか。大神君は大学生か…。羨ましいな。」
「佐々木さんの大学生活はどんな感じでしたか。」
「俺?うーん…横浜の国立大学の理系の学部に行って1人暮らしだった。よく友達とかとお酒飲んでたよ。」
「いいですね。まさにそういうことを僕もやりたいです。」
「ハハ。まぁコロナだから仕方がない。あとは、就職活動をまともにやらなかった感じかな。変なプライドを張って俺はなんとかなるとか思ってた。」
私はこの時、「そうなんですか。」と返したが、何か佐々木さんが語りたそうにしていたので、私は少しの間黙っていた。
佐々木さんが、
「大学生で一人暮らししている友達とかいる?」と私に聞いた。
「1人長崎から愛知に来て一人暮らしをしている人を知っています。」
「そうなのか。君は実家暮らしだっけ。」
「はい、そうです。一人暮らしに憧れてます。」
「確かにいいよ、一人暮らしは。俺、人体実験が好きなんだよ。」
私はこれを聞いて急に寒気がした。心の中で何をいいん出すかと思った。しかし、佐々木さんは
「一人暮らししてたところが新築の木造のアパートだったんだ。2回に住んでいたんだけど、暮らしているうちにふと思ったことがあったんだ。何かっていうと、この部屋には一体何人いるんだろうと思ってね。理系らしく床の表面積を計算して考えてみたんだけど、一回計算をしだしたら本当か確かめたくなって、友達を呼び集めたんだ。」
「ほう…。中々興味深いですね。」
「それでさ、飲み会とかで知り合った友達とか呼び寄せて確か狭い俺の部屋に確か41人くらい入って計算と3人くらいの誤差だったのを覚えてる。」
「なるほど、さすが理系ですね。」
「でもさ、その、閑静な住宅街の中で俺の部屋のアパートに友達をその時実験だって言って60人近く集めちゃってさ、俺の部屋に俺と同じくらい太った人がアパートにぞろぞろ入っていくもんだから、火事なんじゃないかって心配されて消防と警察に通報されたんだよ。」
「ハハハ。本当ですか。」
「想像してみなよ。アパートの螺旋階段に人が並んでどんどんアパートの一室に入っていくんだよ。」途中の30人入った後くらいから床がちょっとギシギシ音を立て始めてさ。」
「アパートの部屋が限界を迎えたんですね。」
「そうなんだよ。何人入るかどうかは考えてたんだけど、このアパートの2階が何キログラムまで耐えられるかってことは考慮していなかったから、途中でギシギシ音が酷くなってそこでやめたんだよね。ハハハ。」
「では,アパートは破損したということですか?」
「幸いそれらしい傷とかは見当たらなかったんだけど…
床が少し凹んだんだ。少し分かりにくかったんだけど、2階の部屋の床を41人で下に押したからそれで少しね。」
「管理人さんすごい怒ったでしょうね。」「そうそう。それで怒られもしたんだけど、その前に60人くらいの人だかりが消防も警察も来て周りの家の人たちも来たからなんだかんだでちょっとしたフェスくらいの人が集まった感じになっちゃってさ。管理人さんには二度と実験するなって言われたよ。」
「ハハ。それはそうですよ。」
「でもそれを就活でしたら結構受けてさ、結構いいところまで行ったんだよね。」
「そうなんですか。理系らしくて面白いから、好印象だったんでしょうね。」
「そうそう。大神君もやってみなよ。」
「やってみます。ハハ。」
「あと就職活動はできるならちゃんと大手に行くために対策しておいた方がいいよ。」
「あー,まぁそうですね。頑張ります。と言っても不安でいっぱいですけど。」
「俺は就活真面目にやらなかったから今そのツケが回ってきているというか、実は俺今無職なんだよ。」
「え,そうだったんですか。」
「うん。コロナでさ、前勤めてたお店が潰れて再就職活動中でさ。これまでに数件、転職先を受けてきたんだけど上手くいかなくて、実は今、転職先の面接を終えて千葉に帰ってる最中だったんだよね。」
「そうだったんですか。それは辛かったですね。」
「これまで面接を何回か受けてきたけど、中には舐めた態度で見下してくる奴もいてさ、あいつ本当に今沈めてやろうかって思った事も何回もあったな。」
「そんなに面接官酷かったんですか。」
「そうだね。こっちの話なんてまともに聞いてくれる姿勢を見せてくれたら恩の字だよ…。いや、ちょっと思い出した。ごめんね。こんな愚痴に付き合わせて。」
「滅相もございません。」
「それで再就職は今の所どこも厳しくてさ、面接も何回受けたかわかんなくなってきたな。」
「大分苦労されているんですね。」
「学生の内に大手の企業行っておけばもっといい人生を送っていたかもしれないって思うことも最近増えたね。だから、大神君は就職活動とかするなら頑張ってな。」
「はい。頑張ります。でもコロナとはいえ、理系で偏差値も高い大学を卒業されてるわけですから上手くいきそうと思いますけれど。」
「世の中、学歴は入口だけでしか見られないよ。確かにエントリーシートに有名大学卒業って書けばちょっとは話聞いてやろうかって相手の人はなるんだ。でも実際に話すと、学歴なんかよりも人をまとめて結果を出せる人間なのか、学歴以外の要素を面接で徹底的に見られるからね。そこで有名大学卒業の事実は役に立たなくなる。学歴がいいのは、顔がいいのに似ているよ。人の本質を全く表していない。」
「そうなんですね。私は浪人してまで大学受験をしたので、いまだに学歴に対してコンプレックスを感じます。でもそこじゃないんですね。」
「そうだね。さっきも言ったけど、きっかけをもらう時に学歴は有効だよ。でもきっかけをいい結果にするかどうかは全く別の問題だね。」
「そうですね。では、きっかけをいい結果にするにはどうしたらいいでしょうか。」
「まずは、周りの人を大切にする事が必要だなって最近思ってるよ。仮説に過ぎないけどね。俺は前の職場でそれができてなかったんじゃないかなって最近反省してる。上司とか苦手であまり話さなかったんだ。今後もそういう苦手な上司とかは出てくると思う。その時に上司を嫌うのは別にいいんだ。でも相手が人間であることを忘れてはいけない。たまには感謝して言葉だけでも贈ればよかったんじゃないかななんて思ってる。」
「そうですか。そこまで考えられてるなら面接でそれを話せば良さそうですね…。あっ、出過ぎた事を言ったようですみません。」
「うん。まぁそうだな…。うーん、そういえばだけど,このまま日光まで行ったるわ。」
「え、本当ですか?」
「うん、まぁ気が向いた。東照宮の近くでいい?」
「あ,はい。本当にありがとうございます。」

この後私は自分の過去のことなどについて話し、そのまま日光まで佐々木さんに乗せてもらった。日光に到着し、いよいよ佐々木さんとお別れをした時に彼はご飯を奢ってくれた。その時のご飯がとても美味しかったのをよく覚えている。お礼を言い,別れて数日後にLINEで佐々木さんが私に言った。

大神君、ヒッチハイクでは俺と喋ってくれてありがとう。ヒッチハイクで乗せた時、就職の面接の後で手応えがなくて、憂鬱だったんだ。でもあの後、再就職活動がうまくいき出して、順調になってきたよ。大神君と話せて運気も上がって本当に良かった。ありがとう。また東京に来たらご飯でも行こう。待ってるね。

このメッセージを見た時、私は感動して泣いた。ヒッチハイクをしていると時々、無料で旅行している事に怒ってくる人もいて、自分のやっていることが空虚に思えた事が何回もあった。でもこう言った形で誰かの心の支えに自分が貢献できた事を大変嬉しく感じた。最近連絡をとっていないから、今度連絡をしようと思う。またあの時みたいに話しましょう。

ここから先は

4,112字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が参加している募集

#わたしの旅行記

519件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?