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フィードバック<アドバイス?


#DIAMONDハーバードビジネスレビュー

昨年9月に「メンター制度をワークさせるために」をnoteに寄稿した。その際に、過去の経験から、優れたメンターを選ばないとメンター制度がうまく機能しない、そのためにはメンターのトレーニングが必要だ、と述べた。

そもそもメンターに何を期待するのだろうか。メンティーである自分自身がまだ経験していないキャリア・経験、将来の自分のキャリアプラン実現のためのアドバイス、自分が直接に築けない社内ネットワーク、業務上の困難で上司や同僚に相談するのが難しいものへのアドバイスなど。

メンターとメンティーのペアが良好な関係が保てるようになると、次に求めるのがフィードバックだ。

フィードバックの効用については「ジョハリの窓」がわかりやすい。

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出典:Wikipedia

横軸が「自分が分かっている」か「自分に分かっていない」か、縦軸に「他人に分かっている」か「他人に分かっていないか」をとる。「自分に分かっていない」が「他人に分かっている」を「盲点の窓」と呼び、この部分を自ら積極的に求めるのがフィードバックでは重要になる。

言い換えるとフィードバックを積極的に求める姿勢が無ければこの「盲点の窓」に気づくことができない、という訳だ。このためフィードバックを積極的に求める姿勢は、ハイポテンシャル人材が持つと言われる「学習意欲」と呼ばれるコンピタンシー(行動様式)の一つだと言われて来た。

今回引用したHBRの記事は、この通説を反対するもので、興味深い。その理由はフィードバックが、とかく過去の行動、とりわけ失敗に焦点を当てるためネガティブな影響を及ぼすことが多く、むしろ将来の行動に焦点を当てたアドバイスこそ求めるべきものだ、とする。

この話を見た時に想い出したのが、昔部下だった英国人部下が推薦していた「ソリューションフォーカス」(”Solution Focus")というアプローチだ。

解決志向アプローチと訳され、「従来の心理療法諸派とは異なり、原因の追究をせず、未来の解決像を構築していく点に特徴があり、結果的に短期間で望ましい変化が得られる」(出典:Wikipedia)ことから、短期療法(ブリーフセラピー)とも言われる。当時日本ではなじみが無かったため、図書館で数冊読んだ記憶がある。

上記説明にある通り、とかく問題解決型のマネージャーは原因をつきとめようとする。トヨタ生産方式の「なぜなに分析」(”5Whys”)が最たるものだ。職場の問題解決であればこの手法は有効だが、人の問題となると、原因追及はギスギスすることもあるだろう。このため心理療法では原因追及では無く、未来に焦点を絞った解決策を探ることで、原因追及で手詰まりになった問題を前進させていく、という。

当時数冊の本を読んだ上で私が「ソリューションフォーカス」に疑問を思った点は、「これでは反省が曖昧になるのではないか」というものだった。ロシェル・カップの古典的名著(?)「反省しないアメリカ人をあつかう方法」にある通り、日本では人材育成の常套手段である「反省」は必ずしも海外では求められない。これは日本人が異文化と接するときに最初に違和感を感じる部分だが、海外ではこのため原因追及を避ける方に行きたがるのはよく理解できる。

しかし「ソリューションフォーカス」は元々短期療法。長期に問題解決をするためのものでは無い

このHBRの記事は、フィードバックの3分の1がネガティブな効果がある、女性に関するフィードバックが役に立たないことが多い、といった証拠をベースにフィードバックでは無くアドバイスを求めるべきだ、としている。

極めて現実的な主張だとは思うが、それでも本質的な問題解決をしようとする際にアドバイスだけで良いのか。私の印象は、これは典型的な二項対立的な発想に陥っているように思う。

確かに現実の場では、有能なメンターに出会うこともままならないし、メンターが気を遣えば遣うほど実用的では無いフィードバックに終始することも多いだろう。

しかしそれは短期的な効果を求めているからであって、長期的・本質的な変化を求める場合には、アドバイスよりも抽象的なフィードバックは必要なのではないか

もちろんそうは言ってもメンターの能力や適性、強み弱みによってフィードバックの有用性は変化するだろう。その際は、あくまでも自分自身の力で方向づけや実用的なアクションを引き出すための「聴く力」が必要となってくるだろう。

大事なのはメンター・メンティーはペアによる作業であり、メンターにだけ責任を押し付けることはできない、という点だ。お互いが信頼し合って、Win-Winの関係を築いてこそ初めてメンターの関係はワークすることを忘れてはならない

(本記事の内容についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。メンター制度の企画やマスター・メンター育成をお手伝いいたします。




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