HCIの伝説論文集 Part.2
どうも。東京大学の青木と中條です。HCIアドベントカレンダー19日目ということで、HCIの伝説論文集 Part.2です!Part. 1はひたすらに伝説級の論文を紹介しましたが、今日はHuman Computer Interactionのテンションの上がる論文を有名な先生ベースで紹介していきたいと思います。
今回はCG × HCI と 教育 × HCI の二本立てです!
Bernd Bickel
Austria ISTでFabrication、つまり3Dプリント系の研究をしている先生で元々Disney Researchの研究者でもあります。3Dプリントと言ってもプリントの材料に注目しているもの等がありますが、この方は動きや構造等に対して数理的なアプローチをする研究が多いです。
Design and Fabrication of Materials with Desired Deformation Behavior
これは伸び縮みする物体のデザインができる研究になっています。具体的には複数の伸び縮みするマテリアルの変形の仕方を測定し、そのデータをもとにユーザが欲しいと思っている変形の仕方や変形の度合いを再現するようなプリントの仕方を自動で提案してくれるシステムになります。ここでいうプリントの仕方というのは複数の素材をどの位置にプリントするかということです。
これは色んな素材にも適応可能なので、変形の仕方や度合いにのみ注目するのであればかなり汎用的な伸び縮みする物体をデザインできるでは?と思わせてくれますね。
Computational Design of Mechanical Characters
これはユーザの思う通りに手の先や頭が動くように、うまく沢山の歯車をどのように取り付ければいいのかを自動で自動で計算してくれます。また歯車の大きさ等も同時に考えており、動画にあるような動きを再現できるようになります。もちろん関節のあるモデルであれば、手や頭のないモデルに対しても動きます。計算の順序としては複数の機構の中から適切な機構を選び、その後歯車の半径などのパラメータを指定された動きに近くなるように最適化するというものです。
実は今年にまたこれに関連する研究も出ていていますね。
Olga Sorkine-Hornung
ETH(エーテーハー)というスイスの大学の先生でモデリングやFabricationをHCIの視点から研究しています。かなり広い範囲のCGとHCIを扱っている先生でどの研究も最高です。
Monster Mash
この研究はwebサイトで実際に無料で使えるので、まず皆さんに使ってみて欲しいです!!
使ってみるとわかると思うのですが、物凄く使いやすいですよね。こんな簡単に3Dモデルを作れて、実際に動かすこともできるんだという感じがします。正にこの研究の肝はそこで、相互衝突等をユーザが考えなくて良い変形モデルを提案しています。また視点を変えずにアニメーションを簡単に作れるところも魅力的です。
ちなみにこのデモで使われてるモデリングの方法だったり、変形の方法だったりの元の論文を書いているのは前回紹介したTeddyの研究をしていた五十嵐先生です。
Developable Metamaterials: Mass-fabricable Metamaterials by Laser-Cutting Elastic Structures
3Dプリントはプロトタイピングには有用ですが、印刷にすごく時間がかかってしまうという問題に対し、紙で3Dモデルを作って早くモデルを作ってしまおうという趣旨の研究です。これはユーザが入力した3Dデータを基に紙に切れ込みをレーザーカッターで入れて、それを組み立てるだけという印刷をしない手法によりすごく早いプロトタイピングが可能になっています。加えて基本的には柔らかいですが、上からの力に対する硬さも変えることができます。
Chinmay Kulkarni
工学をバックグラウンドに,参加者同士の知識や経験の共有,あるいは効果的なインタラクションの設計などを支援するシステムやプログラム(広義)の開発とその評価を行っています.いわゆる教育工学をHCIの視点から捉えて研究されている点がユニークです.
Successful Online Socialization: Lessons from the Wikipedia Education Program
大学生に対して,Wikipediaの記事の編集を授業の課題として行ってもらうプログラム「WikiEdu」を評価した論文です.オンラインコミュニティーを持続的に運営していくためには,新しい人を継続的に引き入れた上で,コミュニティの一員となってもらうことが大切ですが,それは容易ではありません.
そこで,コミュニティの組織化に関する知見を用いて,チュートリアルやトレーニング,ガイドラインの策定などを行った上で,課題としてWikipediaの記事の編集をさせたところ,従来の方法で編集に参加した人よりもより継続的に編集を行うようになったことがわかりました.また,授業内で他のメンバーと共に共同活動で編集を行ったメンバーは,個人で編集をしたメンバーよりも高い質の編集をしていたことがわかりました.
オンラインにおけるコミュニティの形成と,新たなメンバーの受け入れの重要性は,コロナ禍における企業や学校などにおいて非常に高まっています.この研究は,オンラインにおけるコミュニティ形成の一事例として参考になるでしょう.
Peer and self-assessment in massive online classes
近年,学校や大学といった教育機関の枠を超えて教育をより開かれたものにする「オープンエデュケーション」という潮流が広まっており,特にMOOC(大規模公開オンライン講座)は多くの人に利用されていますが,同じ教材を使って非常に多くの人が学習するため,通常の授業のような教員による評価とは違う仕組みが必要になります.
この研究では,MOOCにおける学生間の相互評価や自己評価を,教員による評価と比較することで,その妥当性を評価するとともに,相互評価の値を教員による評価に近づける(相互評価の質を高める)ために必要な工夫を検討しました.
結果として,相互評価と教員による評価には強い相関があることがわかったほか,相互評価の質を高めるためには,学生が行った相互評価自体に対する評価を教員が行うことや,予め例文や評価基準(ルーブリック)を作っておくことが重要であることがわかりました.
コロナ禍において,MOOCのユーザーが急速に拡大しただけでなく,大学の授業のあり方も変わってきています.ピアレビューに関する研究の重要性はさらに高まっているといえるでしょう.
Mitchel Resnick
MITメディアラボの「ライフロングキンダーガーテン(生涯幼稚園)」という研究グループにおいて,あらゆる境遇や年齢の人が創造的な学習体験を得られるように支援するシステムやプログラムの開発・評価を行っています.プログラミング言語「Scratch」の開発でも有名です.
All I Really Need to Know (About Creative Thinking) I Learned (By Studying How Children Learn) in Kindergarten
タイトルを和訳すると「本当に学ぶべきことは全て幼稚園で学んだ」.研究グループの名前にもなっている「生涯幼稚園」という概念を説明した論文です.
伝統的な幼稚園においては,幼児はお城を作ったり,絵を描いたりといった活動の中で,自分の作りたいものを想像(IMAGINE)し,それに基づいてものを作り(CREATE),作ったもので遊び(PLAY),作ったものを他の人と共有して(SHARE),その経験をふりかえる(REFLECT)ことで,また新しいアイデアを想像(IMAGINE)するというサイクルを繰り返すことで,創造的な思考を手にしていきます.コンピューターやテクノロジーを適切に活用することで,生涯に渡って「幼稚園型」の学習体験を得られるという提案を行いました.
Extending Tangible Interfaces for Education: Digital Montessori-inspired Manipulatives
MITメディアラボの石井先生が提唱した「タンジブルインタフェース」(詳細はこちら)の教育分野への応用可能性を提案した論文です.筆者は,レゴブロックや数字ブロックなどの学びを促進するためにデザインされたオブジェクトには,「触覚や視覚,聴覚などのさまざまな感覚が使われる」「使いやすい」「複数人でも同時に使える」などの利点があることを述べた上で,それらのオブジェクトにコンピューターを接続した(すなわちタンジブルインタフェースにした)場合の効果を確認し,それが幼児にとって使いやすく,活動や学びを促進することを示しました.
終わりに
どうだったでしょうか?まだまだ有名な先生方、時間を何年も進めた研究が沢山あります。本当にどの先生、研究も最先端を行っている感じがひしひしと伝わってきます。それに今回紹介している研究は10年前のものもありますし、そのことを考えるとさらに感激というか、もう怖いですね。
では、またあれば第三弾に!
最後に自己紹介
東京大学の学部三年生の青木俊樹です!五十嵐CRESTでアルバイトをしていて、川原万有情報網プロジェクトの研究協力員です。ファブリケーションとインタラクションの研究をしています。夏はUBCのAlla Sheffer先生のところでCGとインタラクションの研究をしていました。
https://sites.google.com/view/toshikiaoki
東京大学の学部三年生の中條 麟太郎です!CMCにおける感情伝達の研究や、教育工学とHCIの研究をしています。教育工学の知見を用いて効果的な意見集約を実現するWebツール「LearnWiz One」を開発しています。
https://sites.google.com/view/rchujo
2021年12月19日 @hci_cg_student, @rintaro_chujo
Reference
Bickel, B., Bächer, M., Otaduy, M. A., Lee, H. R., Pfister, H., Gross, M., & Matusik, W. (2010). Design and fabrication of materials with desired deformation behavior. ACM Transactions on Graphics (TOG), 29(4), 1-10.
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Dvorožňák, M., Sýkora, D., Curtis, C., Curless, B., Sorkine-Hornung, O., & Salesin, D. (2020). Monster mash: a single-view approach to casual 3D modeling and animation. ACM Transactions on Graphics (TOG), 39(6), 1-12.
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Kulkarni, C., Wei, K. P., Le, H., Chia, D., Papadopoulos, K., Cheng, J., ... & Klemmer, S. R. (2013). Peer and self assessment in massive online classes. ACM Transactions on Computer-Human Interaction (TOCHI), 20(6), 1-31.
Resnick, M. (2007, June). All I really need to know (about creative thinking) I learned (by studying how children learn) in kindergarten. In Proceedings of the 6th ACM SIGCHI Conference on Creativity & Cognition (pp. 1-6).
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