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芸術未満

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「芸術」に憧れ、反発し、惹かれながらも怠惰に流れがちの美術部学生。美と性は不可分か、異性らの面妖な美は聖なのか俗なのか。めまいのする青少年新懊悩記。
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2021年6月の記事一覧

付き合っている先輩たち / 芸術未満 28

「大学でも下宿でもいつも一緒なのか。『付き合う』というのはひょっとすると息苦しいのかも知…

『新婚さんいらっしゃい』の夫婦みたいな / 芸術未満 27

 大学はショッピングモールのようだった。下田も勿論、学生たちは学徒などというよりも消費者…

十月書房の神秘学本 / 芸術未満 26

 ある時、下田はいつものようにパイプ葉の匂いを感じながら茫漠たる気分で神秘学や美術書の前…

十月書房で乱歩翁がパイプを燻らせる / 芸術未満 25

 一人暮らし用の穴ぐらでもあるかのような宇治小倉の小部屋に一人で帰っても気が重く、面白く…

彼らは笑顔写真をハサミで切り抜かれ、体裁良い無害ぶりを振りまいている / 芸術未…

 神聖化された像が、どんな苦痛でも一瞬で取り除いてくれるということは恐らくない。「苦痛や…

まるで宇宙船に連れ去られたという人物の話を聞くような気分であった / 芸術未満 23

 下田と大橋はそれぞれ別の高校に行ったが、家も近所だったので時々会った。ある日大橋が遊び…

透明なフォークが紙皿に置かれている / 芸術未満 22

 下田には幼年時に『勇者ライディーン』や『鋼鉄ジーグ』を一緒にテレビで見た大橋ケンゴという名の友人がいた。彼は下田の数少ない友人であったが、名古屋に引っ越してしまった。その後、下田も西宮に移り住んだが、中学のときに親の都合で横浜にまた戻ることになった。  その教室に大橋ケンゴがいた。  彼はやはり下田と同じように、数年前に戻ってきていたらしかった。  日当たりの良い教室で、大橋は友人らと楽しそうにふざけていた。入学式であるのに彼は女子らと軽口を叩き合って交流している。彼

夏の青い網戸 / 芸術未満 21

 子供の頃、夏休みの旅先で下田は早朝に目覚めた。ログハウスのような部屋は青い網戸から涼し…