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第4話「世の中はコインが決めている」

 駅のターミナルに沢山の人たちが集まっている。これもまた、いつもの光景だった。集まって来る人々は毎日暇なのかと思ってしまう。

 白いタスキをかけた男性が一人、行き交う人々や集まっている民衆へ演説をしていた。

 演説内容は非公認の団体批判。男性は一般市民だが数年前から毎朝、街のターミナル前で演説を繰り返していた。

 初めは見向きもされてなかったけど、男性の熱い演説が民衆へ伝わったのか、こんな風に毎日、男性の演説を聴きに人々が集まっていた。

 ターミナルのタクシー乗り場で客を待ってる運転手さえも、仕事そっちのけで演説を熱心に聴いている。僕も一度だけ聴いてみたが内容自体は薄くて共感できなかった。そもそも、男性の主張は核心をついていない。なんて言うか、遠回しの意見ばっかりなんだ。

 まぁ、僕一人が共感しなくても他の民衆たちの支持率は高い。なんて思いながら、僕は人混みを掻き分けて駅の入り口へ向かった。途中で誰かが野次を飛ばしている声がする。

 これも、いつもの光景ではあった。

すると、改札口に近寄ったとき僕の肩を誰かが叩いた。振り向くと知り合いの正論(せいろん)くんが居た。

「おはよう、珍しいね。もしかして早番?」と僕は訊いた。

「そうなんだ。店長から連絡があってね。急で悪いんだけど、出勤してくれないかって」と正論くんが耳たぶを触りながら言う。

 話しながら耳たぶを触るのが、正論くんのクセだった。何故耳たぶを触るのか訊いてみたが、理由なんて無いと言ってきた。

 理由を知りたければ、理由ある生き方をすれば良い。その答えに関しては僕の中でイマイチしっくりこなかったけど、正論くんがそう言うならそうなんだろう。人は深く考えれば考えるほど、深い森へ迷ってしまう。つまり出口のない答えが待っているのだ。

 僕たちは同じ電車に乗って職場へ向かうことにした。僕たちが知り合ったのは職場。年齢は変わらないと思うが、正論くんは色々と面白い話を聞かせてくれる。

 今回も電車に乗ってる間、正論くんは不思議な話を僕に聞かせてくれた。話のネタは職場で起きた出来事。どんな面白い話なんだろうか。僕は期待して耳を傾けるのだった。

第5話につづく

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