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第34話「鳩が飛ぶのを見てみたい」

住宅街を抜けて細い道に出ると、車は雑木林の裏手へ移動した。車を停車させると大貫咲がドアを開けて、雑木林の向こう側に見える建物を見上げた。数十年振りに校舎の屋上が黒いシルエットになって見えた。木島たちが入学した当時、新学校で地元の子供たちが一斉に入学したものだ。

まさか、青春時代を過ごした高校に訪れるなんて思わなかったのか、大貫咲の表情は懐かしさで喜んでいるように見えた。木島は隣に並ぶと、煙草に火を点けて一服しながらあの頃の自分を懐かしむのだった。

そんな二人を後ろから尚美が見つめて、そばに寄ると大貫咲へ話しかけた。

「お母さんが入学した頃、時代的に子供が沢山居たから生徒の人数も多かった。でも、今となっては数も減り、一部校舎を使わなくなったそうよ。だから旧校舎として残っているの」

「その旧校舎で身を隠してた。実は母校で教員として働いていたんだ」と木島直樹が言った。

「そうなんだ。全然知らなかった。でも、学校を選ぶなんて危ないんじゃない」

「まぁ危険には変わりないが、昼間は生徒が居るし、まさか、逃亡犯が隠れてるとは思わないだろう」

「確かに盲点だわ。それで、今からどうするの?」と大貫咲が質問した。

「旧校舎に行く。話はそれからだ。さっきも言ったけど、俺たちの知ってることは話すつもりだ」

「それは、あなた達の関係も教えてくれると思って良いかしら?」

大貫咲の言葉に、木島直樹と尚美が目を合わせて頷いた。数十年振りに訪れた高校で何を語るのか。そして、二人の関係は?

一旦、車を雑木林の奥へ隠すように移動させると三人は旧校舎に向かって歩き出した。時刻は真夜中、朧気な月が雲間に隠れては神秘的な月明かりを差し込んでいた。

校舎の裏に回り、事前にチェックしてあるのか防犯カメラの映らない場所を選びながら校庭へ踏み入る。真夜中の学校は少し不気味で窓を見るたびに、誰かが覗いていないかと思ってしまう。

「懐かしいわね。私たちが過ごした校舎は変わってない。旧校舎ってどこになるの?」

「体育館の裏にある実験室だよ。覚えてないか、科学部の為に俺たちが二年生のとき建てられた校舎だよ」木島はそう言って、グラウンドの端から体育館への道を進んだ。

「科学部か、なんかあったわね。誰だっけ、マニアックな奴いなかった?」

「黒川イサムだろ。父親が科学者でクラスで浮いてた奴だ。そいつも同窓会に参加してたの知ってるか?」

「そうなの、知らないわ。黒川イサムねぇ。正直言うと顔が思い出せない。同窓会ってそうじゃない。でも、後藤くんは同級生の名前を言い当てたわ。今だから言えるけど、木島くん随分変わったよね。私、後藤くんに会場で見張ってろと指示を受けてたけど、ホントにわからなかったの。その手の甲に彫られたタトゥーを見なきゃ。木島くんだって確信はできなかった」大貫咲がそう言うと、木島直樹が急に立ち止まった。

「後藤にはわかるんだよ。俺たち同級生の名前と顔が一致することを」

「どうして、事前にリサーチしたってことかしら?」

「笹村京子だよ。あいつも組織の一員だ」

「笹村京子って、あの生徒会長で同窓会の幹事してた」

「先に話すけど、メンバーの中に俺たちの同級生が何人かいる。一人は笹村京子。もう一人は黒川イサム。彼らは同窓会で、ある計画を立てている。それは・・・・・・」

全ては仕組まれたことだった。あの数十年振りの同窓会も、三年前の夜の出来事の真実を知る為だと。同級生たちで構成された組織。

彼等の目的とは?

夜の学校は、不気味ぐらい静寂に包まれていた。

第35話につづく

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