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第9話「鳩が飛ぶのを見てみたい」
ホールを出ると、ロビーに何人かの同級生たちが集まっていた。ビンゴ大会に参加もせずに同窓会をきっかけにして、親密な関係を築こうとする男女がヒソヒソと話をしているようだ。私のことなんか気にすることなくお喋りに夢中だ。
懐かしい再会なんて、ただの口実で同窓会というのは男女の出会いみたいに思えた。トイレの方へ歩き出すと、ちょうど長い廊下の先を曲がろうとする市川夏菜子の姿が見えた。
やっぱりトイレに行くみたいだ。ここはチャンスだと思い、私も彼女の後を追いかけるように早足で向かった。
突き当たりの廊下を曲がると目の前にトイレを発見。一旦化粧室を覗くと他に人は居なかった。一番奥の個室に誰かが入っていたので恐らく市川夏菜子だと思われる。
私は確認してから廊下へ戻ると、彼女が出て来るのを待った。
誰にも邪魔されずに話をしたい。願わくば少しだけ時間を取ってもらい、二人っきりで話したい。だけど、彼女と学生時代は面識がなかったので、いきなり話しかけられたら驚くだろう。しかも、私が聞きたいことは大神日和のこと。
日和があの日、何故一人で孤独死したのか知りたかったのだ。市川夏菜子は日和と親しかった。確信は持てないが、元夫の浩史から聞いた。あの話がホントなら、日和の死が誰かの手によって偽装されたとわかる。
それが、私の知りたかったことだ・・・・・・
五分程待っていると、トイレの方からドアの開く音が聞こえた。このあと市川夏菜子が出て来る。幸いにもトイレに来る者も居ない。私は大きく息を吸って、彼女が出て来るのを今か今かと待ち続けた。
エアーシャワーの音が微かに聞こえたあと、出入り口から一人の女性が出て来た。次の瞬間、私は自分の目を疑った!?
全く別人の女性が出て来たからだ。しかも、同級生でもなくホテルに来ている客のようだった。婦人は私の顔をチラッと見てから立ち去って行く。信じられないが、市川夏菜子はトイレに居なかった!
だったら、どこへ向かったのか?
トイレの先は連絡用通路に通じるドアがあったけど、まさか、そっちの方へ行ったのか。それしか考えられない。一体、同窓会を抜け出して、どこへ行くつもりなのか。連絡用通路に通じるドアの前に立つと、私はゆっくりと重たいドアを開けた。
「どこへ行くんだ?」
ドアを開けて向こう側へ行こうとした瞬間、私の背後で誰かが声をかけて来た。振り向くと同級生の一人、後藤是清が立っていた。
気難しい表情で見つめられると、悪いことはしてないけどバツが悪い顔になってしまう。
「和泉、お前も何か知ってるのか?」
「ん、何かって?どういう意味で言ってるのよ!?」と私は後藤くんが何を言っているのかわからなかったので疑問のある顔をした。
後藤くんは数秒ほど沈黙したあと、背後を気にしながら、ゆっくりと私の方に近づいた。その表情に緊迫感を感じたので、抑えていたドアから手を離すのだった。
果たして、後藤是清は何を知っているのか?そして、市川夏菜子はどこへ行こうとしているのか!?
このとき、私の胸の鼓動は高鳴っていた。
第10話につづく
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