映画レビュー「本陣殺人事件」~石坂金田一以前の傑作ミステリー

横溝正史原作金田一耕助シリーズ第一弾の映画化。
高林陽一監督作品。
大林宣彦も音楽担当として参加。

市川崑版「犬神家の一族」の少し前に作られた作品であり、中尾彬扮する金田一耕助は洋風ジャケットにラッパズボン姿で登場。石坂浩二や古谷一行の金田一に見慣れている人は食わず嫌いな気持ちになってしまうかもしれないが、それをしてしまうのは惜しい良作。

自分が本作を面白いと感じさせられたのは、なんといっても映像と演出の良さ。舞台を60〜70年代ごろに置き換え、ロングショットを中心に画を構成することで、舞台となる旧家を取り巻く暗さや先の無さを過剰に語らず表現している。

そこにイタリア映画を彷彿とさせる艶やかで怪奇なクローズアップがこれでもかと丹念に組み込まれているので、映像的な掴みは抜群。聴覚を直接揺さぶるような効果音の使い方も見事。
緑と赤、黒のコントラストの力強さはハマる人には絶対ハマる。

そもそも個人的この事件はそのトリックよりも首謀者が「なぜそうするに至ったか」という考えが重要だと考えているので、それを活かすためにはこういった悪夢的な描き方が効果的であったと思う。原作ではさらりと書かれているラストの部分にもさりげなく独自解釈で描いている点も好印象。

従来的な金田一ものが好きな人にとってはやや取っ付きがたいかもしれないが、いわゆる「ATG」的なものを好む人にはおすすめ。

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