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映画レビュー「すばらしき世界」~西川美和が描くヤクザ出所物語の妙

いわゆる「改心もの」「出所もの」的なジャンルがある。

直情的で侠客気質の主人公が何かしらできごと(たとえば出所)をきっかけに、これまでの行いを改め社会の一員として真っ当に生きようとするタイプの物語だ。

そして大抵の場合、自身の性格や信念が災いして更生は失敗、主人公はせっかく劇中で築きあげた評価や地位を全て失い、不幸な結末を迎える。

だが、その一方で何かしらの行動をやり遂げているので、本人は精神的な満足を感じているといったパターンが多い。

すごくストレートに言えば「俺にはやっぱりこの道しかねえんだ!」と開き直る類の話である。

その手の作品としてはたとえば「鬼火(原田芳雄主演)」や「竜二」などがある。物語の流れから考えれば「レスラー」や「どついたるねん」も入るかもしれない。

「座頭市鉄火旅」「静かなる男」はちょっと違うか。

今回の西川美和監督の最新作「すばらしき世界」は、そうしたタイプの作品であると個人的には感じた。

役所広司扮する三上という老人は不幸な生い立ちもあってか人生のほとんどをアウトローとして過ごし、身体にはかなり目立つ入れ墨と刀傷が入っている。

だが根っからの悪というわけではなく、弱者へのいじめは決して許さない。考えるよりも先に手が動く、かなり昔気質の人間である。

だからこそ、更生はうまくいかない。すぐにカッとなってしまい他人と対立を繰り返してしまう。社会的な”常識”もないのでとにかく行く先々でトラブルを引き起こす。せっかくよい関係を築けた人物に暴言を吐いてしまい、激しく後悔するといった場面もある。

そうした人物は下手をすればまったく魅力のない自己中心的な描き方をしてしまうところなのだが、役所広いわゆる「改心もの」「出所もの」というべきジャンルがある。

直情的で侠客気質の主人公が何かしらできごと(たとえば出所)をきっかけに、これまでの行いを改め社会の一員として真っ当に生きようとするタイプの物語だ。

そして大抵の場合、自身の性格や信念が災いして更生は失敗、主人公はせっかく劇中で築きあげた評価や地位を全て失い、不幸な結末を迎える。

だが、その一方で何かしらの行動をやり遂げているので、本人は精神的な満足を感じているといったパターンが多い。

すごくストレートに言えば「俺にはやっぱりこの道しかねえんだ!」と開き直る類の話である。

その手の作品としてはたとえば「鬼火(原田芳雄主演)」や「竜二」などがある。物語の流れから考えれば「レスラー」や「どついたるねん」も入るかもしれない。

「座頭市鉄火旅」「静かなる男」はちょっと違うか。

今回の西川美和監督の最新作「すばらしき世界」は、そうしたタイプの作品であると個人的には感じた。

役所広司扮する三上という老人は不幸な生い立ちもあってか人生のほとんどをアウトローとして過ごし、身体にはかなり目立つ入れ墨と刀傷が入っている。

だが根っからの悪というわけではなく、弱者へのいじめは決して許さない。考えるよりも先に手が動く、かなり昔気質の人間である。

だからこそ、更生はうまくいかない。すぐにカッとなってしまい他人と対立を繰り返してしまう。社会的な”常識”もないのでとにかく行く先々でトラブルを引き起こす。せっかくよい関係を築けた人物に暴言を吐いてしまい、激しく後悔するといった場面もある。

そうした人物は下手をすればまったく魅力のない自己中心的な描き方をしてしまうところなのだが、役所広司の非常に高い演技力がそうした失敗を許さない。「厄介さ」と「親しみやすさ」を両立させ、言葉以上に心を語る。主人公がほぼスクリーンに出続けているこの作品では、その巧みさをしっかり楽しむことができる。

そして、本作を特別たらしめているのがそのストーリー、特に登場人物の感情の描写である。

先ほど書いた通り、この作品の主人公である三上は更生を目指してさまざまな壁にぶつかり、その過程でいろいろな人物と関係を築いていく。

特に重要なのが、主人公ともっとも対立し、もっとも協力的な人物となるフリーライターの津乃田だ。後半、彼は三上が迎える大きな転機のきっかけを作り出すこととなる。

だが、これからこの作品をご覧になられる方、もう一度観るという方は、彼の言葉によく注意してほしい。

彼は三上がこれまで「いかにもなヤクザの悪行」に手を染めてきたから、それを反省し更生しなければならないというスタンスで発言している。そういった真面目な人間であるからこそ、おせっかいなほど非常に協力的なのだ。

さらに言えば、彼はこれまで悪いところで生きてきた三上を、「真っ当な」こちらの世界に戻そうとしているのだ。

さらに簡略化するなら「ムショ」から「シャバ」に戻ってほしいのだ。

だが、これをエモーショナルなメッセージとして素直に受け取ってよいのだろうか。

結局のところそれは「更生」ではなく「順応」に過ぎないのではないだろうか。

よい人間になるのではなく、シャバで問題を起こさない人間となるだけではないだろうか。

後半の希望に溢れるシークエンスの中でも特徴的なあの場面。個人的には、周囲の人間の会話やアップ多めのカットに例えようのない不気味さを感じた。

そうした関係と会話の結果、三上は本当に更生できたのだろうか。
三上があの時発した言葉を「彼」が聞いていれば、果たしてどうなったのだろうか。

いや、そもそも「彼」は今後どうなるのだろうか。

そして、三上は精神的な幸福を得られたのだろうか。

三上の結末ばかりに気を取られがちだが、劇中で彼が助けた人物を無視することはできないのではないか。序盤、三上があそこで行動を起こさなければ、後半「彼ら」があのようなことをするのを見ることはなかったのではないだろうか。

西川美和と言えば、これまで「ディア・ドクター」「夢売るふたり」など何かしらの犯罪をしでかした人間を主役に据えた作品を多く手がけている。

そのような人物の描いたヤクザの出所物語は、さすがに一味違った。

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