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玉ねぎの皮問題

こちらでは最近、風の強い日が多い。強すぎると店では対応に追われることになる。
正面入り口には手動の扉が二つあるのだが、これがいきなり勝手に開いたりすると大変危険なので、警備員が鍵を閉めてしまう。そして『強風の為、閉鎖しております。恐れ入りますが自動ドアをご利用下さい』という注意書きを貼り付けた三角コーンを二つドアの前に置いて、通せんぼのバーをかける。
自動ドアは当然普通に開閉するようにしてある。だが、強風時は開くと同時に軽い商品(スカーフなど)が飛ばされたりすることがあり、しょっちゅう入り口近くの商品を見に行かないといけなくなる。風があまりにも酷い時は、一時的にレイアウトの変更をしたりすることもある。

販促用の立て看板なども倒れることがある。今だとおせちの予約の宣伝用看板などがこれだ。
従業員がドア付近に居るのは開店時と閉店時だけだから、倒れたことは大抵の場合、入ってきたお客様が知らせに来て下さることでわかる。すいません、お怪我はございませんでしたか、とお詫びして速攻で店内に撤去することになる。稀に巡回中の警備員が見つけることもあり、この時は対処してもらえる。
看板は誰が撤去するとは決まっていないが、正面入り口に最も近い私達が声をかけられる確率が最も高い。発泡スチロール製なので重くはないが、自分よりかなり背の高い看板をよちよちと運ぶことになる。あんまりやりたくない作業である。

朝の掃除の時も厄介ごとが増える。
私のいる靴・服飾雑貨売り場の隣は青果売り場である。青果売り場では毎朝、青果担当の職員が忙しく陳列に精を出している。
商品の中には当たり前だが玉ねぎがある。入荷後、ある程度皮を落としてから陳列する。
ここで働くようになってから知ったのだが、実は玉ねぎの皮は普通の燃えるごみとは別に捨てる場所が設けられている。濡れたゴミに混ぜずに、少しでも業者に出すゴミの重量を軽くして収集にかかる費用を押さえよう、という工夫らしい。なので夥しい量の薄い茶色の皮が一か所に集められている。量が凄い為、蓋は出来ないらしい。
捨てられている場所はバックヤードの入り口付近だが、ここにはいつも強い風がまともに吹き付ける。酷い時は搬入口のシャッターを閉めてしまうのだが、時間帯によってはそういう訳にもいかないので、吹き曝しであることも多い。
もうおわかりだろう。この風のせいで、集められた玉ねぎの皮が舞い上がり、一部が店内に入り込んでくるのだ。入ってくるのは勿論、バックヤード出入り口からすぐの、私達の売り場である。
私達はこれを『玉ねぎの皮問題』と呼んでいる。

お掃除シートで集めると、普通のゴミはちゃんとシートに絡まってくれるか、大人しく寄せ集められてくれるのだが、玉ねぎの皮はなかなか反抗的で、思うようにいかない。ちょっとした風に吹かれて靴の棚の下に入ってしまったり、下手すると舞い上がって、たった今綺麗に拭いたばかりのところに着地してしまう。
お掃除シートがダメなら箒と塵取りで、と思うのだが、回収しに行ってみると既にとんでもない所に移動していたりして、始末に負えない。
とっても掃除しにくく、時間が余計にかかる。掃除機が欲しいが、支給は無理だそうだ。面倒だが、いちいち手で拾うのが一番確実である。

これからの季節は『大根の葉っぱ問題』も勃発する。
葉つき大根を置くようになると、どうしても細かいちぎれた葉っぱが売り場に落ちる。クリンネスさん(清掃業者)がいつも丁寧に拭いてくれているが、全部を取り切るのは無理である。忘れられてシナシナになった葉っぱの小さなきれっぱしが、風に吹かれてこちらにやってくる。
コイツはシナシナの癖にやたら鮮やかな緑色をしているので、我が売り場の落ち着いた雰囲気の床だと大変目立つ。お掃除シートで絡めとりたいところだが、玉ねぎの皮とは逆にやや湿っている為、絡まりにくい。
素直に塵取りに収まってくれるので、こちらは箒と塵取りの出番である。しかし手間がかかるのは玉ねぎの皮と同じだ。

キャベツやその他の野菜くずはこっちに来ることはないのに、この二つのゴミは何故かいつもやってきて、我々朝のお掃除係を悩ませる。
靴売り場に玉ねぎの皮や大根の葉っぱが落ちているなんて、なんだかパッとしない。不潔な感じだってする。商品まで今一つに見えてしまうだろう。
だから私は今日も開店前に、フワフワ逃げる玉ねぎの皮を一生懸命追っかけているのである。