在間 ミツル

エッセイスト。身の回り半径3m以内で起きたこと、感じたこと、考えたことを綴ります。 お…

在間 ミツル

エッセイスト。身の回り半径3m以内で起きたこと、感じたこと、考えたことを綴ります。 お気に入り記事は有料で公開(不定期)。申し訳ありませんが、諸事情により2024年4月以降当面コメント返し出来ません。

マガジン

  • My Favorite Works

    私の心に響いた素敵な記事。笑いあり、涙あり、感動あり。忖度なし、下心なし、計算なしで私が読み返したくなる作品ばかりです。

  • クラリネット諸々

    愛するクラリネットとの関わりあれこれを綴りました。

  • 夫と私

    多動、整頓ベタ、デベソ、異常な集中力、の夫とのすっとこどっこいな日常です。

  • 忘れられない先生まとめ

    私の出会った個性的で人間味溢れる先生方の思い出です

  • 関東と関西

    関東に住む関西人の感じた事を綴りました。

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海は必ず凪ぐ

ちょっと前まで、私は夢なんて持っていなかった。この歳で夢を語るなんて、バカげたことだと思っていた。そしてどうやって死にゆくか、いかにこの世に未練なく、きれいさっぱり自らの生きた恥ずかしい痕跡を消すか、そんなことばかり考えていた。 世の中は怖くて厳しいもので、生きることは辛く苦しいもの。他人は先ず警戒し、おそれ、避けるべきもの。そんな風に感じていた。 この世は限りなくグレーで、自分はその中で辛うじて生存を許されている存在、ぼんやりとだが、そんな気がしていた。 上手く行かないこ

    • 信じて、任せて、見守って

      先日、母からこんな連絡をもらった。 『お父さんが○○ちゃん(息子の名)の就職はまだ決まらないのか、と言ってイライラして私にあたってきます。まるで認知症のようです。良い報告をお待ちしています』 文面を読んで、相変わらずだなあと苦笑いした。 大学四年生の八月を過ぎて就職先を決めていないのは、世間的には確かにおかしいのかも知れない。心配もするもの、なんだろう。 それにしても、母の言葉にはツッコミどころがいくつかある。 先ず主語を『お父さんが』としていること。 自分ではなく、『父が

      • やってみなさい

        私がクラリネットを習い始めて数年経った頃の話である。 所属していた楽団の音楽監督のY先生は、練習の度に 「バスクラリネット、なんとか出来ませんか?」 と仰っていた。 吹奏楽団に於いて、バスクラリネットは木管低音と呼ばれるグループに属する。私のような音楽を専門に学んだことのない人間にはあまり深く理解はできないのだけれども、指導をして下さるプロの先生方はこの楽器が編成にないと、必ずと言って良いほど誰かに吹かせたがる。 Y先生も例外ではなかった。 バスクラリネットは、学校の吹奏楽

        • 目を瞑って頂きたい

          先月の、ある日のことである。 いつものように朝からレジに入っていると、一人の上品な風体の老婦人がやってきて、 「あのお、スイマセン。この前貰った靴なんですけど、サイズが合わなくて。返品とか交換とかして頂けるのかしら?」 と言いながら、申し訳なさそうに靴の箱を取り出し、レシートを示した。 お客様都合での返品と交換には、一定のルールがある。 お買い上げから一週間以内であることは絶対条件。靴なら外での使用をしていないことは当たり前である。 あとは値札などを外していないこと。セール

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          禁断の味

          母方の祖母は大変食いしん坊な人だった。 料理をしながらつまみ食いは当たり前。時には齧りかけのおかずを供して、家族からブーイングを受けることもあったが、 「そやかて、作ってるとお腹空くえ」 と笑いながら言ってのける図太さの持ち主であると共に、 「お母ちゃんはホンマにどもならんなあ」 と笑って許されてしまう、愛嬌の持ち主でもあった。 私はこの祖母と、何故か二人きりで出かけることが多かった。 祖母宅に帰省する時は必ず妹と一緒だったのに、何故お出かけ時には私だけがお供をしたのか、理

          『ながら』の罪

          朝食を摂りながらnoteの記事をチェックし、ニュースを聞き流しながら洗濯をし、お湯を沸かす。私のいつもの朝のルーティンワークである。 食べ物を機械的に口に入れ、ニュースも真剣には聞いていない。洗濯は『綺麗にしたい』というよりは、『面倒くさいけれどやらねばならない』やっつけ仕事、である。 沢山の仕事を同時に行っていて、一見凄く効率的で良いように思える。 しかしその実、どの行為にも『身が入っていない』ことに、ふとした瞬間に気付くことがあり、その度になんとなく心が寒くなる。 野菜

          『ながら』の罪

          「今」は一瞬

          先々週の土曜日だっただろうか、私の住む街の近くで女子高生が身を投げ、通行人が一緒に巻き添えになって亡くなった、という痛ましいニュースに接した。 画面に映し出されるその場所を見た時、驚いてしまった。だってその事件が起こった数時間後に、正にその場所を通ったばかりだったからである。 あの時はなぜこんなに警官がウロウロしているのだろう、とは思ったが、いつも人通りの多いところだし、土曜日の夕方となればさもありなん、と全く気にせずにいたのだった。 誰もそんな事件があった事なんて、全く気に

          「今」は一瞬

          HとG

          以前所属していた楽団で、私が最初にお世話になった音楽監督はA先生という方である。 トランペット界の重鎮で、知る人ぞ知る大物だったが、私達に接する時はまるで近所のおじさんのように気さくで明るく、冗談とダジャレが大好きな先生だった。 初めてお目にかかった時は既に六十半ばを超えておられ、七十代に入ってすぐに『何かあったら、皆に迷惑がかかるから』と仰って、ご自分の教え子であるY先生に後進を託された。  鮮やかすぎる引き際に、残念な気持ちでいっぱいだったが、先生らしいご配慮だね、と皆で

          当たる、落ちる、突き刺さる!

          一般楽団の合奏練習の為の会場は、大体は地域の公民館とか公会堂とか、そういった施設になる。その大体がある程度の広さの部屋、或いは舞台を備えているからだ。 楽団員一人当たりに必要な広さは楽器によっても違うが、案外広い。椅子と譜面台に加えてそれぞれの楽器の『可動域』が確保されねばならないので、楽器によっては周囲の人との距離がかなり空いているものもある。 北陸の楽団に居た時、地元のジャズバンドと共演したことがある。 この時、私は三番(一番下の音域を担当するパート)を吹いていたので、

          当たる、落ちる、突き刺さる!

          忘れられない上司

          Hさんは私が今の職場にパートとして入って最初に、お世話になった直属の上司である。年齢は四十代後半、当時は課長だった。 私は当初、売り場担当としての入社を希望していた。 お金を巡るお客様とのやり取りは、必ず何かしらトラブルがある。独身時代の仕事の苦い教訓から、私はレジ係を希望していなかった。そのことは提出した書類にも書いていた。 ところが、面接の際Hさんはそんなこと読まなかったような顔をして、 「レジ係での入社を検討してもらえませんか?」 と言った。 なんやそれ、話し違うやん

          忘れられない上司

          天職

          学生時代、私がアルバイトしていた店の店長は 「オレはこの仕事が天職やと思うてる」 というのが口癖だった。 この店は私にとって初めて『働いた』先だった。そこで繰り返しこんな言葉を実際に働いている人から聞かされたものだから、 『どういう時に自分の仕事を天職だと思えるものなんだろう』 という疑問が、ずっと私の頭の片隅に引っ掛かり続けていた。 この店長に出会うまで、両親やいつも顔を合わせる大人たちから、こんな言葉を聞いたことはなかった。 父は公務員だった。退職までの経歴を見ると、多

          間に合わなかった秋

          「ミツルちゃん!久しぶり。ご無沙汰やでえ」 玄関を入ってすぐに携帯が鳴ったので取ると、元気な声が聞こえてきた。 「あ、Kさんですか!ご無沙汰しています」 関西に住む夫の従姉妹、Kさんである。 私は墓参りの時や親族の冠婚葬祭で何回か顔を合わせた程度だが、人懐っこく優しい人柄が大好きになった。いつも気軽にミツルちゃん、と呼んで下さるのがとても嬉しい。 「大変でしたね。お参りも行けずにすいません」 Kさんはつい先週、ご主人を亡くしたばかりである。 少し前からあまり良くない状態らし

          間に合わなかった秋

          Kちゃんの大切な楽器

          Kちゃんは前に所属していた楽団に数年在籍していた、女子高生である。パートは私と同じ、クラリネットだった。 平均年齢の比較的高い我が楽団としては、彼女のような若者の存在は大変貴重で、彼女はそれはそれは大事にされていた。 こんな風に大人にチヤホヤされると有頂天になって、態度の大きくなる子もいるが、Kちゃんは至って素直で真面目な子で、熱心に毎週練習にやってきたから、みんなに好かれていた。 土曜日の夜毎に送迎する親御さんも大変だったろうと思う。 学校の吹奏楽部と違い、一般楽団は『自

          Kちゃんの大切な楽器

          ごろんと横に

          夫は食事を済ませると、いつも畳にごろんと横になる。 その姿勢のままタブレットやスマホを顔の上にかざして、何やかややっている。『やっている』といっても、そこに強い意志は感じない。ただ機械的に、考えることを放棄している状態である。 私はその間に洗い物を済ませる。一日の家事も残り少なになり、ちょっと嬉しい時間。もう少しで終わるぞ、と思うと鼻歌の一つも出そうになる。 そうして全てを終わらせると、私も夫の横にごろんと横になる。 特に声をかけることもしないが、夫は驚きもしない。 指を絡

          ごろんと横に

          LとR

          師匠のK先生が 「クラリネットはいい加減な楽器です。どこかの穴を塞いで息を入れさえすれば、何かの音が鳴るように出来ている。こんな適当な楽器はそうありません」 と仰るのは、ある意味当たっていると思う。 しかしその『いい加減な楽器』に翻弄されている身としては、そんなことは口が裂けても言えない。先生くらいのずば抜けた技量と豊富な経験があって初めて、許される発言だろう。 確かにクラリネットが『どこかの穴を塞いで息を入れさえすれば何かの音が鳴る』のは、本当の話だ。なんなら一つも穴を塞

          M君のこと

          大学のサークルで一緒だったM君は、一風変わった子だった。 特徴的なのはその風貌で、一体何年浪人したんだ、と思えそうなくらい老け込んだ顔をしていた。失礼過ぎる表現だと思われるかも知れないが、新入生が 「あの方は何を教えてる先生ですか?」 と彼を指して真顔で訊いてきたことが一度ならずあったくらいだから、決して私の偏見ではなかった、ということだろう。 しかし彼自身は自分のそういった外見を気にする様子は全く見られず、むしろ 「また教授に間違われてしもうたわ」 と言って嬉しそうにガハ

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          M君のこと

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