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自分のオケツ

レジにいると、お客様は実に色んなことを頼んでこられる。一番多いのは
「これ、処分しておいてくれない?」
と壊れた傘やダメになった靴をお持ちになる方である。
靴は出掛けた先で、急に踵がダメになったりすると困る。新しい靴を買えたは良いが、ダメになった靴を提げて行くわけにもいかない。なのでそういうお客様にはサービスとして、無償でダメになった方の靴をお預かりして処分させてもらっている。大抵のお客様はとても申し訳なさそうに何度も謝って、恥ずかしそうに靴を置いて行かれる。
まあ理解できる、当たり前の態度だと思う。

が、結構な頻度で
「これ、捨ててもらえませんか?」
とダメになった靴を自宅からお持ちになる方がある。わざわざ買い物にボロ靴を持ってくるのは骨が折れるのに、なぜ?と不思議だ。市に指定された捨て方が面倒なのならわかるが、ここは普通に生ごみと一緒に処分して良い。なぜ持ってくるのか、よくわからない。
近隣他スーパーで、時折
「履けなくなった靴をお持ち頂くと、靴購入の割引券をお渡しします」
なんていうのをやっているからかも知れない。が、ウチは一度もやっていない。ただゴミ処理の為に持ってくるのだとしたら、どういう神経かちょっと首をひねりたくなる。
お断りすると、大抵の方は不満そうに帰っていかれる。恥ずかしくないのかなあ?と不思議に思う。

お出かけ時に傘が壊れても困るが、スーパーが捨てる場合は産業廃棄物扱いになり、高い処分料を支払うことになる為、お預かりしていない。なのに
「なんで困っているのに捨ててくれないの?」
と苛立ち半分のお客様には案外よく出くわす。こういう方は多分、
「産業廃棄物の為、処分料が一本につき千円かかりますがよろしいでしょうか」
とでも言ったら
「じゃあいいわ、自分で捨てます」
と言うんだろうな、と思うので、嘘でもそう言ってやろうかと思うくらいである。

この前など、朝一番に来られた高齢のご婦人が、
「これ、捨てておいてくれない?」
と飲み終えたコーヒーの缶を私に渡そうとした。
最近は防犯上の理由もあり、館内にはゴミ箱は設置していない。が、自動販売機の横には空き缶入れがあるので、そちらをご案内すると
「え!この店にはゴミ箱もないの?」
と大袈裟な態度で不満をあらわになさる。ええ、ないっすよ、お生憎様。あんたが自分で始末しなさい。親切に教えたったんやから、自販機まで行けや。ここまで来たんやから、歩けるやろ。目と鼻の先やがな。
「まあー酷い店ねえ!」
いや、そういうあんたの態度が酷いで。余程アクセサリー売り場の鏡で顔を映して見せたろうか、と思ったがにこやかに
「はい、申し訳ございません」
を繰り返して追い払った。塩を撒きたい気分である。

帽子、手袋、マフラー、鞄…皆さん本当に色んなものを「捨てて」とお持ちになるが、全てお断りしている。全部引き受けていたらとんでもない量になるからだ。
スーパーのゴミは業者にお金を払って取りに来てもらっている。料金は重さで決まる。分別も細かい。実は家庭ごみの方が余程捨てやすい。
スーパーの払うそのお金を出しているのは私達客なのだ、という認識があるとしたら、とんでもない傲慢だと思う。

「自分のところさえ綺麗になれば」他は良いのだろうか。ゴミはどこかに移動していくだけで、焼却でもしない限りずっとこの世にある。自分が使ったもの、自分が食べたもの、についてくらい、最後まで責任をもったらどうだろう。
店で買ったかどうか、は関係ない。一旦店側の手を離れ、自分のところにやって来たものは自分の物である。その物が生命を終えて、始末をするところまでが、買った人間の責任だと思う。
本来は自分で焼却なり、リサイクルなりしなければならないのを、収集業者さんや自治体に担ってもらっている。そこに感謝こそすれ、
「お宅で買ったんだから処分してくれても良いだろう」
というのは安易すぎる失礼な発想である。甘えるのもいい加減にしろ、と言いたくなる。

こういう「自分さえ良ければ」的発想が蔓延すると、巡りめぐって国をも滅ぼす。そんな気がずっとしている。
過剰に人のことまで構わなくても良い。せめて自分のケツは最後まで自分で拭いて欲しいものだと思うだけである。