頼れる存在に感謝
先日、クラリネットの定期メンテナンスに東京まで行ってきた。暑い最中ではあるが、半年に一度と決めているのでやむを得ない。台風が直撃する前で良かったと思いつつ、いつもの楽器屋に向かう。
今回は全体調整とキーを外してのお掃除。タンポ(管本体の音孔を塞ぐための丸いクッション。キーにはめ込まれている)が一部、本体にくっつくような感じがあった為、そこを念入りにとお願いする。
指掛けのクッション(サムレストクッションと言う)についても相談。指掛けとは、楽器を指で支える為に本体裏についているパーツである。金属製で一応丸い形に作られているが、親指一本に1cmちょっとのこの金具を乗せて本体を支えるのは指に負担が大きい。
私の右手親指は、他の病気と間違えられそうなくらい第一関節付近がボコンと膨らんでタコになっている。タコくらいどうってことないのだが、最近親指から肘にかけて痛む時があるので困っていた。
担当はSさんと言う女性である。前回初めてお願いしたのだが、返ってきた楽器がびっくりするくらい生まれ変わっていたので、今回予約の時も彼女に、とお願いした。
関西にいる時も同じ店の大阪店で、やはり腕利きの女性リペアマンにお世話になっていたのだが、Sさんは更に凄いと思う。素人なので、何がどう違うと言われれば上手く説明出来ないけど、仕上がってきた楽器を吹いた感覚でそう思う。
結局、サムレストクッションはゴム製の物を装着することにした。ゴムは響きを吸収する為あまり良いことはないのだが、こちらプロではないし、痛い思いをしてそこまでこだわるより指の健康を取りましょう、と言う事になった。
試しに装着してみたら、グンと楽になった。これでいいや、痛いのを気にせず吹ける。
メンテナンスは約2時間ほどかかった。
普通の人は本番前に調整を頼むと思うが、私はいつも本番後に頼む。
理由は2つある。
先ず、コンクールの直前の時期はリペアの依頼が集中する為、予約が取りにくい上にじっくり時間を取ってもらえない事が多い。リペアマンは、コンクール本番の会場で急なリペアに備えて待機したりもする為、結構忙しい時期なのだ。
次に、調整直後の楽器と言うのは適度な"緩み"がない。手に馴染まないというか急に"おめかし"した感じになるので、吹いた感覚が何時もとちょっと違う。
本番直前に調整すると、このあまり馴染まない感覚のまま本番の舞台に上がる事になる。それは避けたい。
今まで色んなリペアマンにお世話になった。
子供が小さくて大阪まで行けない時は、宅配便でメンテナンスを受けてくれるK楽器にお世話になっていた。
クラリネットのリペアマンのAさんは、いつも麗麗とした達筆で手紙をしたためて、楽器ケースに入れて返してくれるのが常であった。
しかもその手紙にて毎度"怒られる"。
『この頻度で使用するなら、メンテナンスは半年に1回にして下さい』『トーンホール(音孔)が大変汚れています。もっと掃除をマメにして下さい』『コルクグリス(ジョイント部分のコルクに塗る潤滑油)塗りすぎです。控えて下さい』『タンポが痛みすぎです。使用中はもっとマメに水分を取るようにして下さい』
読んでいつも『わあ~すいません〜』と冷や汗をかいていた。私がメンテナンスを半年に1回の頻度にしているのは、この時のAさんの助言による。
前に居た楽団にもう一人、Aさんにお世話になっている団員がいたが、
「行くたびに怒られます〜」
と言っていたので、自分が一際いい加減な訳ではないんだ、と妙に安心した。
彼のメンテナンスも素晴らしかった。もう定年退職されたようで、残念である。
地味で目立たないけど、名リペアマンが居てくれてこそ、私達は演奏を楽しめる。私のようなド素人にも丁寧に対応して下さって、いつもとても感謝している。
今回も楽器はとても良い調子になった上に、とても綺麗になって返ってきた。
暑いのも忘れ、嬉しくて気分上々で帰途についた。