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大正スピカ-仁周の第六感-|第12話|説得

翌日、首相官邸は、日本軍によって包囲された。

日本軍は、四方八方どこから来ても対応できるよう、銃を所持し、警備にあたっていた。

あえて見える形にすることで、学生たちに見せつけ、彼らの計画を白紙にするのが目的だった。

「やはり、奴らは、官邸をまもる判断をしました」

昨日、校舎に侵入していた八咫烏の一人が、正篤のもとへ報告に来ていた。

「では、実行に移せ。全員、抹消しろ」

そして、夕方5時になった。

すると、学生たちは、官邸の前に堂々と現れた。

しかし、すでに犬飼総理は、青森の別荘地へ避難している。

念のため、官邸にいた他の関係者たちも避難させ、官邸内に、警察官を配置させていた。

それでも、彼らは動き出した。

「何ごとだ!?」

彼らが現れたのと同時に、一気に明かりが消え、都心部が停電となった。

学生たちが、変電所へダイナマイトを投下したのだ。

天皇や周たちがいる赤坂御所にもその波が押し寄せた。しかし、緊急用の発電機が稼働し、すぐに復旧した。

そんな中、赤坂御所に連絡が入る。

「学生たちがいなくなりました」

「何!? 一体、何が起きているんだ……。周、分かるか?」

「……はい。彼らによって、未来が変えられています」

「未来が変えられた?」

「はい。彼らの目的は、官邸ではありません。僕たちは、これまで騙されていたんです。私のこの能力も……」

周が今までに経験したことのないあやまち。あまりの恐怖に、周はしゃがみ込み、全身を震わしていた。

それでも、冷静を保とうと、震える手を押さえながら説明する。

「この停電は、変電所を狙った学生たちによる犯行です。しかし、それがバレぬよう、変電所にまつわる全ての情報は、あらかじめ術がかけられ、全て見えない状態にされています」

正篤の計画は、麒麟による電磁波の乱れも全て計算されている。

京都御所を狙わず、関東へ麒麟を誘導させた正篤は、関東にある赤坂御所も狙わなかった。

麒麟に雷を落とさせたのは、透視能力の影響を少しでも減らすため。変電所の周りにある電磁波の流れを乱し、透視の邪魔をしていたのだ。

変電所の電磁波がなくなり、周は、ようやく本当の未来が見えるようになった。

「彼らは、最初から警視庁を襲撃する目的で動いています」
 



「我々陸軍は、警視庁を制圧した。ここに戒厳かいげん政府を設立する。そして、軍閥ぐんばつ内閣を発足し、これから国家改造を行う!」

警察官を官邸の警護に回したことがあだとなり、手薄となった警視庁は、停電になったこともあり、即座に制圧された。

そして、日没と同時に、警視庁のみ、停電が復旧した。

最悪な事態に発展させた彼らは、ラジオなど、メディアを通して声明を発表した。

「我々が推薦すいせんする人物を内閣総理大臣に任命せよ! それまで、街に戒厳令を敷く」

そのまま警視庁に立てこもる学生たち。

しかし、彼らの計画は、これで終わりではなかった。
  



青森に向かうため、寝台列車で移動中の総理。

すると、寝台列車が突然止まり、総理が乗っている車両に、学生たちが乗り込んできた。

「起きろ! 犬飼だな?」

彼らは、この列車に総理が乗っていることを知っていた。彼らも裏の八咫烏と予知を共有していたのだ。

学生たちは、総理に銃を突きつける。

だが、一切怖がる素振りを見せない総理。彼は、冷静に、学生たちに目で訴えかけた。

その強い眼差しと態度におそれを感じた学生たちは、彼の器の大きさを初めて目の当たりにした。

気持ちが揺れ動く前に、学生たちは、早く銃を撃ってしまいたかった。

「冷静になりなさい。若者たちよ、今ならやり直せる」

「黙れ!!」

学生の一人が、総理の顔を目掛けて、引き金を引いた。

すると、一人の男が、後ろから彼を押さえつけ、銃を奪った。

「全員、取り押さえろ!」

数人の警察官を引き連れ、飛び込んできたのは、駿河だった。

彼は、周からの指示で動いていた。

前もって、総理に命の危険があることを知っていた周は、急いで、駿河を総理のもとへ向かわせていた。

すぐに天皇へ報告する駿河。

そして、天皇自ら、立てこもる学生たちに交渉を行うことになった。
 



「皆さん、こんな事をしていても、良い方向へは向かいません」

「皇族に何が分かるというのですか。我々は、貴方一人のために、人生を犠牲にしたくはありません。これまで苦労してきた国民に、貴方が何かしてくれましたか? 末端まったんの人間を救えないような貴方が日本を背負うなど、我々は許しません!」

「あなた方の気持ちは、重々承知しています。ですが、今話してくれた内容と今君たちが行っている行動は全く結び付きません。この国を背負う覚悟があるなら、反乱を起こすなど言語道断です! 今すぐ投降しなさい。皆さんがこんなことをしていても、家族は喜びません」

一切怯まず、話を続ける天皇。

しかし、天皇の説得も虚しく、交渉は難航した。
 



澄子と鈴子、そして、サンカと龍族が協力し、神々を戻すべく、エネルギーを循環させていた。

「大変です、澄子さん。東京で反乱が起きています」

「やはり、神が居なくなったことで、敏感な若者たちが冷静さが保つことができなくなっているのだろう。京都には、結界が張られた七星しちせいに位置する神社がある。この結界は、東京の護身のために張られたものだ。そこを復活させることができれば良いのだが……」

「神々が居ないこの状況で、いくら浄化しても、東京など……」

「いいえ、一つだけ方法があります」

そこへ國弘と衣織が現れた。

「私から指示を行い、すでに京都七星の七つの神社に手配はしてあります。今こそ、神具しんぐを使うときです」

國弘は、そう言うと、キリストの十字架を見せた。

「なぜお前がそれを持っているのだ! それは、正篤が持っていたはず」

「その通りです。こちらは複製させたもの。いわゆる魔具まぐです。ですが、この十字架でもエネルギーは十分あります」

「もちろんだ。我々サンカがその魔具を作っているのだからな。京都から東京までの距離なら届くはずだ」

「ならば、東京側は誰が受け取るというのだ? いくら送ったとはいえ、受け取る人間が居ければ話にならぬぞ」

「……それに関しては、私に考えがあります」
  



「周! 今から黄竜こうりゅうを解き放ちます。急いで、田無たなし神社へ向かいなさい。着いたら、そこで私たちのエネルギーを活用するのです」

周は、鈴子に言われた通り、急いで田無神社へ向かった。

明治5年に建てられた田無神社は、五行思想のもと建てられ、素戔嗚尊すさのおのみことを始めとする、日本最古の神と龍がいたとされる場所。

鈴子は、ここに京都のエネルギーを集約する流れを作っていた。

周の目的は、二つ。

一つは、田無神社を早急に浄化すること。そして、もう一つは、神の役割を担い、京都から送られてくるエネルギーを受け取り、東京へ流すこと。

当然、巫女でもない周にとっては、大変な作業である。

そもそも、周は、自分にこんな事が出来るのかと心配だった。

黄竜が、周に話しかける。

「我を使うが良い」

田無神社に到着すると、あまりに悲惨な状況に、周は驚いた。

鳥居に巻き付く龍の石像や、至る所にある龍たちが、麒麟の雷によって壊されている。

まずは、その一つ一つに手を当て、エネルギーを注いでいく。

すると、微かに光が見えた。一つ、また一つと、少しずつ霧が晴れていくように浄化されていく。

「七つのいんを踏みなさい」

鈴子から教えてもらった通り、境内全体と本殿を北斗七星の形で繋ぎ、爪先で地面に七星を描いた。

そして、地面に両手を当て、黄竜のエネルギーを一気に全体へ行き渡らせ、浄化していく。

その瞬間、西の空が光り始め、煌びやかなエネルギーが地上に降り注いだ。

そのエネルギーを受け取るように両手を広げ、天を仰ぐ周。

しかし、まだ発達しきっていない体と、慣れていないやり方のせいで、一度途切れてしまう。

めげずに何度も繰り返していくうちに、黄竜がそのエネルギーに反応し始めた。

いつしか、黄竜は周の体から抜け、そのエネルギーを保ったまま、空高く舞い上がった。

全身をくねらせながら向かった先にある雲は、黄竜を避け、離れていく。

そのまま黄竜は、東京の空を舞い、地上全体のエネルギーを整えた。

その動きに反応するかのように、停電していた街が復旧していく。

周は、人々の負の感情が雲の彼方へ飛んでいくのを、ひたすら眺めていた。
 



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