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犯人はヤス、-終焉-|第2話|天国

カーテンを閉めて走るバス。

「このバスは、西へ向かっております。これから、照明の照度を落とさせていただきます。目的地まで、ごゆっくりお過ごしくださいませ」

夜行バスというだけあって、スタートから何かイベントがあるわけでもなさそうだ。

小腹が空いた悟は、かばんから、コンビニで買った赤飯のおにぎりを出した。しかし、飲み物がない。

すると、女性ガイドが、ペットボトルのお茶と、なぜか紙コップを渡してきた。左斜め前の人は、紙コップにわざわざお茶を入れて飲んでいた。

疑われないように周りに合わせる悟。

すると、静かに音楽が流れ始めた。

座席をよく見ると、耳元にスピーカーがある。座席ごとに、専用のスピーカーが設置されているようだ。

音楽を変えるボタンは、どこにも見当たらない。

赤飯のおにぎりは、フランス料理や赤ワインを入れた胃袋に全く合っていないと判断し、かばんに戻した。

心地良い音楽とバスの揺れによって、悟は、そのまま眠りについた。
 



「それでは出発いたします」

気が付くと、悟は、無意識に昼食を済ませていた。

(頭がボーっとする)

「この中で、霊感のある方はいらっしゃますか?」

すると、左斜め前の男女二人が手を挙げた。

「いらっしゃるようですね。では、お話をさせていただきます。一昔前まで……」

(スピリチュアルツアーというだけあって、こういった内容の話もするのか……)

悟は聞き入っていた。

次の休憩場所でお土産を見た後、バスへ戻ると、先ほど手を挙げていた男女二人の姿がなかった。

そのままバスは、二人が戻ってこないまま、出発。

慌てて、悟は女性ガイドに声を掛けた。

「あの、さっきまでここに座っていた二人が、まだ戻ってきていません!」

急ブレーキをかける運転手。同時に、目の色を変えて悟を見る女性ガイド。

すぐに乗客の一人が、

「最初からここは空席でしたよ? そうでしたよね? 皆さん」

「「はい」」

息を合わせたかのように返事をする乗客たち。

すると、バスのモニターに座席表が映し出され、男女二人が座っていた座席には『当日キャンセル』の文字が表示されていた。

「……確かに今日の朝、キャンセルされた方が2名いらっしゃいました。大丈夫ですよ」

(おかしい……)

再び音楽が流れ始めた。

流れてくる心地よい音楽によって、悟は、数分で眠りについた。
 



「おはよう、大丈夫?」

顔を近づけて起こす女性。

悟は、自宅のベッドで寝ていた。時間は、夜の7時を回っている。

(どうしてここに? さっきまでバスの中に……)

「とりあえず、夕飯作ってあるから好きな時に食べて」

女性は、悟に話し掛けると、何事もなかったかのように、寝室を出ていった。

悟は、頭の中にあるバスツアーの記憶を必死に探る。

(そういえば、赤飯のおにぎりがあったはず)

掛けてあったかばんの中を確認すると、潰れた赤飯のおにぎりが出てきた。

バスツアーに参加したのは夢ではなかったようだ。

記憶違いではないことが分かり、更に不信感がつのる。

そして、ある映像が頭をよぎった。

捕まった占い師だ。

(あの占い師が便箋でバスツアーに参加するよううながしたはなぜだ。そもそも誰かに訴えたかったことでもあったのか。それに、捕まったとき、あの占い師は確かに僕を見ていた……)

夕食も食べず、クローゼットの中から制服を取り出し、着替える。

(もう一度、あの場所に行ってみるか……)

悟は、女性がトイレに入っている間に、そっと玄関を開け、家をあとにした。

「……少しずつ、悟が記憶を取り戻しているようです」

女性は、トイレの中で、不敵ふてきな笑みを浮かべながら、どこかへ電話をかけていた。
 



暗闇の中を歩く悟。

家の近くの交番は、すでに誰もおらず、夜になればなるほど、警察の仕事は少なくなる。ただ真夜中だけは、深夜の徘徊をする老人が現れるため、交代で駐在員が在中している。

コンビニを通り過ぎ、占いの店があった場所を目指す。

目的は正直なところ、まだ分からない。

ただ、悟は昨日の記憶を取り戻したかった。

15分ほど歩き、裏路地を抜け、例の場所へ辿り着いた。だが、もう占いの店は撤去されていた。

一応、駅前にも足を運んでみる。

すると、あの22番線のバスターミナルがない。

(一体、何が起きているんだ……)

道を変え、考えながら歩く悟。

(水が流れる音が聞こえる)

不思議と懐かしい気持ちになった。

「川か」

(そういえば、この辺に神社があったはず)

橋を渡り、鳥居を探すが見当たらない。代わりに、ギラギラ光を放つ階段が目に入った。

一昔前の中国の繁華街にありそうな古びた白熱灯の電飾。その階段の両脇に、ずらりとみすぼらしい形をした無数の小さな光が、草木や階段の手すりをつたいながら、光っていた。

階段の上のほうから、人の声がぼんやりと聞こえる。

悟は気になり、少しずつ大きくなる人の声に耳を傾けながら、階段をのぼった。

階段が終わり、目の前に現れたのは、閻魔えんま様の入り口のような不気味な造りをした門。

あまりにも奇妙な光景に、くぐるのを避けて、その門の脇を通った。そして、一つの古い建屋が現れた。

昔あった神社の本殿のような建物。

真ん中に、缶などのゴミの山が積まれた賽銭箱さいせんばこが置いてある。

ここは、神社の跡地のようだ。

建屋の中から、大勢の笑い声が聞こえてくる。

中の様子を、光がれ出るふすまの隙間からのぞいてみる。

「遊べ遊べ! この夜は楽園だ!! 踊りくるえ!!!!」

中では、数人の警察官が、日本酒を呑みながら踊り狂っていた。

(何だこの光景は。しかも、警察官が……)

同じ警察官とは思えない光景に、唖然あぜんとする悟。

「うわっ!!」

突然、左脚に激痛が走った。

どうやら、へびにふくらはぎを噛まれたようだ。

その声に気付き、振り返る警察官たち。

急いで蛇を振り払い、床下に潜る悟。

警察官たちは、勢いよく襖を開け、辺りを見渡した。

「……気のせいか」

最近の平和ボケで警戒心が薄れている警察官たち。そのおかげで気付かれずに済んだようだ。

潜り込んだ床下の隙間に、何か冷たい金属のような物が手に触れた。悟はそれを、暗闇の中で握りしめた。

(感じたことのある感触……)

急いで階段を駆けりる。

「おい、ここで何してる!!」

木の陰に隠れていた警察官に見つかり、頭に拳銃を突きつけられた。

目線だけ相手に向け、立ち止まる悟。

「お前たちこそ、夜中の神社で何をしているんだ?」

「警察官のくせに、何も知らないんだな」

こめかみに拳銃を突きつけられているため、身動きが取れない。

隙をみて拳銃を取り上げようとするが、左脚が痛み出し、バランスを崩した。

悟は、警察官の袖を引っ張る。

1発の銃声が空に向かって撃ち込まれ、二人で階段を転がり落ちていった。

悟は、意識が朦朧もうろうとしながらも、何とか立ち上がった。警察官は、後頭部を何度も打ち付けており、気を失っていた。

ふと顔をあげると、銃声音を聞きつけた警察官が、階段の上から下りてくるのが見えた。

膨れ上がった左脚を引きずりながら、警察官を抱きかかえ、木の陰に身をひそめる。

悟は、隠れながら、下りてくる警察官の様子を伺った。

すると、警察官はゆっくりと階段を下り、何かを拾った。電飾によって、その警察官の手元が光り輝いている。

悟は、瞬時にポケットに手を入れ、探すが、神社で拾ったはずの物が見当たらない。

どうやら、階段を転がり落ちたときに、落としてしまったようだ。

辺りを見渡す警察官。

そこへパトカーが到着し、その警察官はパトカーに乗り込み、去っていった。

悟は、地面に座り込んだ。

左脚を見ると、少し紫色が混じったような血が、傷口から少しずつ流れていた。
 



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