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大正スピカ-仁周の第六感-|第15話|選別

「私は、裕次郎と二人で八咫烏の選別を受けた……」

國弘は、過去に起きた出来事を振り返りながら、裕次郎との過去について、話し始めた。
 



八咫烏の選別を受ける國弘と裕次郎。

二人は、運命を共にした。

無事、二人とも八咫烏の選別を通過し、副神官として新たな道を授かった。

この時、正篤は、國弘にこう告げている。

「現世に、天草四郎の生まれ変わりが生きている」

その生まれ変わりが、鈴子だった。

当時の天皇は、天草四郎とその生まれ変わりである鈴子が隠したとされる十字架の捜索を、八咫烏に依頼していた。

そして、八咫烏の表と裏のメンバーが、予知の場に集められた。

澄子は、神降ろしで御告げを受け、正篤は、占いで御告げを説いた。

両者とも、天草四郎の生まれ変わりの捜索については、同じ御告げを受けていたため、その場ですぐ政府に捜査を依頼した。

しかし、天草四郎の隠したとされる十字架については、意見が分かれた。

お互いに、異なる御告げを受けていたためだ。

ここから、歯車が狂い始める。

正篤は、

「天草四郎の生まれ変わりを捕らえ、十字架を見つけ出せ!」

澄子は、

「いや、十字架は決して見つけてはならぬ。このまま封印すべきだ」

この時、裕次郎はこう発言している。

「私の身分は重々承知しております。ですが、失礼ながら、天草四郎が持ち出したとされる十字架は、世界にとって、とても重要な代物しろものです。これを認識した上で、天草四郎は十字架を持ち出し、適切なタイミングで現れるよう、どこかへ隠したのです」

ざわつき始める場内。

裕次郎は、そのまま話を続けた。

「私は、正確に未来が見えている場合、その内容を伝えることが禁じられています。そのため、未来について、詳しくお伝えすることはできません。しかし、ここでの決断は、国にとって、後世に多大な影響を及ぼすことなります。それゆえ、陛下にはここで思慮しりょ深くお考えを……」

「黙って聞いていれば、好き勝手しゃべりよって。其方そなたは、未来透視はできても、その内容を陛下に言うことはできないと申しておる。我々は、其方の意見をどう信じれば良いのだ?」

「私が見えている未来は、神の配慮によって見ることが許されている未来です。その内容をお伝えすることは、禁じられています。私ができることは、皆さまを正しい方向へ導くことだけです」

ここで、天皇が話し始める。

「其方が言う、正しい方向へ導くとは、具体的にどういったものなのか。神の配慮によって見ることが許されている未来とは一体何なのか。教えてくれぬか?」

「正しい方向へ導くとは、世界が一つとなり、民や政府の棲み分けが一切ない、平和で協調性を重んじる社会へ導くことです。そこに、国や身分の違いはありません。何一つ弊害のない社会へ導くことが、我々の目指すべき方向であり、神が思い描く未来です」

「……目の前におる我を前にして、其方は、天皇という立場も身分も必要ないと述べておる。生きている間に、我が天皇家に意見を言える者に出会えるとは……」

天皇は、裕次郎の目を覗き込んだ。

「一つ、聞かせてくれぬか? 其方は、未来について言うことを禁じられておると申した。もし、その内容を言ってしまったら、其方はどうなる?」

「透視能力そのものを奪われます」

「なるほど」

そう言うと、天皇は、顎に手を当てながら、椅子にもたれかかった。

「我は、これまで何十年と、この二人の神官に護られてきた。其方の話を聞いても、彼らに対する信用は超えられぬ」

ここで、澄子が話に加わる。

「陛下、彼は、嘘などついておりません。真実を知る者は、それだけ未来を変えられる力があるということです」

「其方の言う通りだ。しかし、十字架を探し出すことが重要であると申すのであれば、副神官として、その能力を奪われてでも、その内容を話すべきではないのか?」

ここまで裕次郎の隣で黙って話を聞いていた國弘が、ここでようやく話し始める。

「陛下、ここで彼に能力を失えと申しておるのですか? それでは……」

「……真実をお伝えすることで、陛下の決断が変わられるのであるば、私の能力など必要ありません……」

裕次郎は、ここで重要な未来の内容を全員に話をした。

「十字架は今後、二世代後の陛下が手にする運命にあります」

つまり、これが、現在の天皇のことだった。

「また、十字架が必要とされる場面は、次の天皇陛下の時代にあります。日本は今後、世界に攻撃される運命にあるのです」 

「ほう。それで、我が国は、どのように攻撃されるというのだ?」

「日本中に核兵器が投下されます」

昭和時代に起きる世界大戦を、裕次郎はこの時すでに予言していた。

「事前に交渉を行っていた日本は、21個の核兵器のうち、18個の核兵器を未然に防ぎます。しかし、日本は、残りの三つの核兵器が投下されてしまいます。この運命は、我々がどのように足掻あがいても変えられません」

「その核兵器は、どこへ落とされる?」

「核兵器が投下されるのは、東京、長崎、そして、……」
 



「その場所については、私の口からは話せぬ。その代償に、彼は、透視能力を失った。周、何か分かったか?」

この時、周は、國弘がかたくなに護っている過去の見えない部分が、より黒くなったことに気付いた。

今ここで言葉にしてはいけない。

國弘と裕次郎の間に、まだ表に出ていない秘密があるのは、確かだった。

もちろん、その内容は分からない。

しかし、二人に秘密があることを、ここにいる全員に知られてはいけないことだけは理解した。

「今のところ、まだ分かりません」

周は、気付いていない振りをした。

しかし、國弘は、何かを察した。

彼は、周の曇った表情を見逃さなかった。

「周、私に何か……」

「皆さん、このままではいけません! さらに、こちらから仕掛ける必要があります。せめて、神だけでも戻ってきてくれれば、国民を動かすことができるはずです」

周は、あえて話を逸らした。

どう足掻いても、決して変わることのない、最悪の未来。

それは、裕次郎が言っていた世界大戦のことだった。

それでも、足掻なければならなかった。

「少し危険だが、神具を使用するしかなさそうだな。神の息吹が吹き込まれた神具は、神そのものだ。裏の八咫烏に気付かれぬよう、サンカと龍族の力を借りて各神社で奉納し、日本中の気を回復させる。国民を正しい方向へと向かわせるのだ。これしか方法はない」

澄子は、駿河に神具を取りにいくよう、依頼した。

「私も行きます。サンカの代表を連れていってもよろしいでしょうか?」

鈴子は、神具が保管されている蔵の門番がサンカであることを知っていた。

サンカの代表から、彼に仲間になるよう説得してもらう。

「では、神具を使い、我が国を取り戻しましょう。どんな状況であれ、私が天皇である以上、彼らの思い通りにはさせません。私が国民を守ります」
 



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