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大正スピカ-仁周の第六感-|第16話|裏切り

事件後、学生たちの意向が反映されたかのように、政治改革が起きた。

これまでの政治や思想は見直され、正篤の計画通り、政治・経済・軍のトップが入れ替わった。

これにより、国民の動きや考え方も変わった。

新たな国を築こうと、満州国へ移動する国民が、後を絶たなくなった。

国への不信感が募り、約30万人の国民が、日本を出ていったのだ。

「すでに、神々は日本から離れた。神がいないこの国を保つ方法は一つしかない。奴らは、その方法を使おうとしている。神具が隠されている洞窟へ向かい、神社に奉納することをたくらむはずだ。その洞窟を抑えていれば、全ての神具が手に入る。そうなれば、もう、この国に用はない」

正篤は、鈴子たちの行動をすでに予測していた。
 



洞窟の中へと入っていき、滝の裏にある扉を開けた。

鈴子と駿河は、サンカの代表を連れて、大量の札が貼られた洞窟の中へ入ると、門番が待ち構えていた。

「戻られましたか」

「貴方に預けた神具を取りに来ました」

駿河と鈴子の表情を見て、何かを察した門番は、その部屋の鍵を取りにどこかへ行くと、大事そうに抱えて両手で持ちながら応えた。

「こちらの方は?」

「彼は、サンカの代表です」

門番は、サンカの代表の耳の裏にある痕を見るなり、目を輝かせた。

「私と同じ人間が存在していたのですね」

「よくぞここまで耐えてこられた。これからは、我々と一緒に過ごしましょう」

「まさか、こんな日が来るとは。何と嬉しいお言葉……。ですが、私には、最期までここを守るという使命がございます。大変有難いお言葉ですが、ここを離れることはできません」

「もうその必要はなくなったのです。ここにある神具や魔具は、今日から、各神社に奉納することになりました」

「本当ですか!? ならば、私の役目は……」

「今日で終わりです。これからは、同じサンカや龍族の方々とゆっくり過ごしてください」

駿河が感謝を述べると、門番は、涙を流した。

「では、これより神具が保管されている部屋へご案内いたします」

複数の扉がある長い廊下を案内する門番。

そして、一つの扉の前に立ち、鍵を取り出した。

すると、

「ちょっと待っていただけませんか? ここは私たちのアジトですよ」

そこへ正篤たちが現れた。

「我々の住処すみかに神具を隠すとは……流石に分からなかった」

なぜか、4人は、正篤たちに後をつけられていた。

「さぁ、鍵を渡せ! 早く!!」

門番は、渡すのを渋ったが、身の危険を感じると、正篤に鍵を投げつけた。

「私の最後の仕事が……」

その鍵を拾い上げ、裏の八咫烏に開けさせると、中には、全ての神具が綺麗に並べられていた。

それを次々と持ち出していく裏の八咫烏たち。

「これで全部だな」

「待て!」

そこへ、國弘・周・澄子の3人も合流した。

「何しに来た。どんなに足掻こうが、もうお前たちの負けだ」

國弘は、何も言わずに、正篤に近づく。

すると、周が言葉を発した。

「……これで、全てが分かりました」

「周、君の透視能力は、大したことなかった。そんな能力で、何が分かったというのだ?」

言葉に詰まり、答えられない周。

床に涙が零れ落ちている。

「話にならぬな。君は、それでも八咫烏か?」

「ずっと引っかかっていた。未来があまりにも変わり過ぎていたから。しかも、貴方の思い通りに動いている。でも、貴方一人で、こんな事できるはずがない。未来は、多くの人によってつくられ、上手く混ざり合い、紡いでいくものだ。それをたった一人の力で動かすことなど、そもそも許されていない。それに、僕たちがその運命に逆らえていないのがおかしいんだ」

「周くん、君は、何か勘違いをしているようだね。運命とは、本来、ごく一部の限られた人間によってつくられるもの。それをあたかも皆でつくり上げているように見せているだけだ。智恵ちえも能力もない君たちのような人間は、従うしかないんだよ」

「確かに、僕は、今まで勘違いしていたのかもしれない。運命に従い、未来を先読みしていれば、全て上手くいく。そう思っていた。でも、違った。それよりもっと大事なことがあった。未来がどう見えているのかではなく、未来を動かしている人間は誰なのか……」

すると、周は顔を上げ、睨みつけた。

しかし、周が見ていたのは、正篤ではなかった。

「お婆ちゃん……どうして……。どうして、こんなことを。全部、お婆ちゃんだったんだね」

「周!  お前……一体、何を言っているんだ?」

駿河が止めようとしたが、周は、止めることなく話を続けた。

「思い返せば、ずっとお婆ちゃんの思い通りに進んでいた。お婆ちゃんは、お爺ちゃんと出会い、國弘さんとも出会った。そこで、お婆ちゃんは、天草四郎の生まれ変わりとして捕まる運命だった。しかし、未来は変わってしまった。熊本の村で過ごし、お爺ちゃんが亡くなると、駿河さんと出会い、なぜか、また捕まることなく、八咫烏の一員になった」

「確かに、私は、鈴子さんと出会い、一緒に八咫烏になった。それがどうした?」

「そこからも、おかしな点がいくつもある。八咫烏の選別で、梅の毒を飲んだが、命に別状はなかった。その後、澄子さんに気に入られ、國弘さんは、明らかにお婆ちゃんを守る役割をしている。それに、サンカの方々まで、お婆ちゃんに協力してくれた。もちろん、傍から見れば、全て喜ばしいこと。でも、あまりにも上手く行き過ぎている。未来がお婆ちゃんのために動かされているように感じて、お婆ちゃんの過去を透視した。すると、お婆ちゃんの重要な前世に辿り着いた」

「周くん、君は、中々面白い。それで、何が分かったと言うのかね?」

「お婆ちゃんは、その人と裏で繋がっている。しかも、ただの繋がりではない。お婆ちゃんが、天草四郎だったとき、その人は、お婆ちゃんの側近だった。そして、さらに過去を遡ると、全てが分かる。お婆ちゃんの前世である天草四郎が、キリストの生まれ変わりであることに」

キリストの生まれ変わりが、目の前にいる。

到底、信じられる内容ではなかった。

「これだけ未来を動かすことができる人物は、そう多くはない。いくら悪どい秘術を使ったところで、ここまで思い通りにはならない。聖人レベルの人間離れした能力が必要になる」

「……」

「お婆ちゃん、何で……」

「周、黙ってて悪いね。全てはこういう運命だったんだよ」

「お婆ちゃん……お婆ちゃんだけは、違うって信じてたのに!」

「……」

「まさか……。鈴子さん、嘘だと言ってください!」

駿河が鈴子に投げかけたが、彼女は、背を向けた。

「素晴らしい推理だ、周くん。君が今言ったことは、全て正しい。我々は、ユダヤの血を引く10支族の末裔。私は、前世で天草四郎の側近として、彼と同じ月日を過ごしていた」

鈴子は、正篤のもとへ歩み寄り、彼から十字架を受け取った。

その瞬間、輝き始める十字架。

まるで、鈴子を待っていたかのように、濃密なエネルギーが手元から放たれていた。

「ようやくこの日が来たようです」
 



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