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大正スピカ-仁周の第六感-|第14話|疑念

「陛下が来られました」

入り口からすでに、敵地に来ているかのような感覚に襲われる。

敷地内には、武装したままの関東軍が縦に整列し、3人を待ち構えている。

京都御所に漂う、あまりに異様な光景。

周が、あの時、見ることができなかった光景。

それでも、天皇は、堂々としていた。

真っ直ぐ前を見ながら、敷地内に足を踏み入れ、深々と頭を下げた。

しかし、敷地内に、彼のお辞儀に応える者は一人もいない。全員、天皇の方へ体を向けてすらいなかった。

武装集団が両脇を固める中、3人は、その間を歩いていった。
 



殿上てんじょうに集まる裏の八咫烏たち。

その一段上の場所に立つ、正篤と青年。

二人は、まるで殿上人のように、その場に立っていた。

その光景は、長きに渡り続いた日本の政権も、天皇家も、間もなく終わることを意味していた。

しかし、正篤は天皇を見るなり、その場から離れた。

この行動には、メッセージが込められていた。

「まだ、やることが残されている。こんなものでは済まされない」

そこへ遅れて現れた國弘と澄子。そして、その後ろには鈴子の姿もあった。

「遅れて申し訳ありません」

3人は、天皇に頭を下げた。

天皇は、軽く頭を下げ、壇上へと上がっていった。

そこには、俯いたままの青年の姿。天皇は、彼の肩にそっと手を置いた。

二人の器にどれだけ差があろうと、正篤は、青年に新たな血筋を継がせようとしていた。

天皇は、正篤のもとへ戻るよう、青年を促すと、青年はゆっくり壇上を降りていった。

「彼に意思はない。ただ言われるがまま、正篤にこまのように扱われている」

周たちの目には、彼が被害者にしか映っていなかった。

「まずは、この状況について、説明してもらってもよろしいですか?」

天皇は、正篤に回答を求めた。

「ご覧になって、お分かりになりませんか? もう、全て終わったのです、陛下。貴方に未来はありません」

「正篤さまが応える必要もないほどの質問です。貴方の指示に従う日本軍の兵士も数えるほどしか、もう残っていないでしょう」

こう応えたのは、陸軍の大将。

その言葉に薄笑いを浮かべながら天皇を眺める、政界のトップたち。

日本軍もすでに、天皇の味方ではなさそうだ。

完全なる敗北。

天皇家を護る役目を担っていた者たちに裏切られ、さらには、政界・経済界・軍の関係者にまで裏切られた。

すでに、新しい派閥が出来ていた。

しかし、それでも、天皇はひるまない。

「我々天皇家は、これまで幾度となく起きてきた問題を解決し、国民を導いてきました。これぐらいの問題で、我々は動じません」

血筋に対する尊敬の念は、ここにいる誰よりも強かった。

どんな状況であっても、天皇家が今後も国民を導いていくと、ここで宣言をした。

「なるほど。そこまでして、天皇家の血筋にこだわるとおっしゃるのですか。面白い。天皇家はまだ底力を見せていないようですね。では、しばらく、そのご活躍を拝見させていただきます。我々はもう、過去の歴史には興味ありませんので。これからは、この国がどのように変わっていくのか。それだけしか、我々は見ておりません。最後までたのしませてもらいますよ、陛下殿」

こうして、正篤たちは、京都御所を後にした。

今の正篤であれば、このまま乗っ取ることもできたはず。

それを先延ばしにする正篤の醜悪しゅうあくさ。

その態度に、澄子や駿河たちは、怒りが収まらなかった。

國弘は、全員を鼓舞こぶした。

「まだ手段は残されています。どれだけ流れが傾こうと、それを最終的に戻すことができれば、国民は再び、我々のもとへ戻ってきます」

そんな中、周は、一人一人の過去を見ていた。
 



なぜ、ここまで正篤の思うように未来が進むのか。

この中に裏切り者がいなければ、こちらの考えがこれほどまでに読まれるのはおかしい。

青年の透視能力だけで、ここまで読めるはずがない。

もう一度、ここにいる全員の過去を読み解く必要がある。

なぜなら、この中に、正体を隠している人物がいるはずだから。もしいた場合、その人物が、正篤と繋がりを持っていることになるから。

目の前に、駿河さんがいる。

まずは、彼の過去から。

彼の過去は、素直で読み取りやすい。

僕と行動を共にしている間、特に変わった様子は見られなかった。でも、過去に関しては、僕も知らない部分が多い。

彼のお父さんのおかげで浮島や龍族に会うことができ、黄竜と繋がることができた。そのおかげで、僕は今、能力が使えている。

もし、彼が裏切り者なら、もっと効率の良い方法を考えるはずだ。

現段階で、彼を疑う必要はない。

次に、澄子さん。

彼女は、この中で最も天皇家と共にしてきた時間が長い人間。彼女は、神降ろしをしながら、巫女として天皇に仕えてきた。

ただ、一方で、サンカたちととも地下も護ってきた。

天皇とサンカ、両方に立場を持つ人間だ。

もちろん、過去を覗いても、これまで両者とのバランスを考えながら行動をしてきたことが分かる。

その分、両者の秘密を知る人物であるとも言えるのだ。

それに、難しい立場である以上、神との繋がりがなければ、ここまで来ることはできなかったはずだ。

日本に神様がいない今、澄子さんに自己判断が求められているのは間違いない。

それでも彼女は、僕たちに、以前と変わらない、強気で頼もしい姿を見せている。

今更、疑う余地はない。

最後に、國弘さん。

僕は、この3人の中で最も、彼の過去にあった出来事や行動に触れてきた。

壮絶な人生と正篤への敵対心が、彼をここまで大きくしたことは間違いない。その上、忍耐強く、お婆ちゃんを常に気にかけ、チームを導いてきた。

それでも、何か隠しているように見える。

疑っているわけではないが、彼の行動全てに、どこか根深い闇を感じる。

僕の透視能力をもってしても、どこか上手く交わされ、全てをさらけ出してはくれない。

窮地に立っているこの状況で、一人だけ落ち着いているようにも見える。

何を計画し、どのタイミングで、どのように状況をひっくり返そうとしているのか。

きっとこれによって、今後の未来が変わる。

しかし、その最も重要な部分が、真っ黒に塗られていて見えない。本人が絶対に見せないように雁字搦がんじがらめになっている。

どんなに高い透視能力を持っていても、彼を見抜くことはできない。

敵からしたら、最も恐れる素質を持っている人間かもしれない。
 



「僕は、まだ何か見落としているのか?」

周が悩む中、鈴子はそっと寄り添い、周の手を握り締めた。

すると、周は、鈴子の瞳を見て、何かに気付いた。

「なぜ、僕は、今までお爺ちゃんの過去を見て来なったのだろう?」

常に誰かが、過去に裕次郎が言った未来透視の内容を発している。

この事に、周はようやく気付いた。

すでに亡くなっている人間の透視をするのは難しい。

しかし、ここで裕次郎の過去を読むことができれば、未来を先読みすることができる。

周はようやく、これまで見えなかった重要な未来に辿り着こうとしていた。

「皆さん! 過去に八咫烏をしていたお爺ちゃんについて、出来る限り、情報をください! お爺ちゃんの過去の記憶を甦らせることができれば、未来を先読みすることができるはずです!」

周の言葉に、ここにいる全員が反応した。
 



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