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大正スピカ-仁周の第六感-|最終話|真実

國弘は、裕次郎から全て聞かされていた。

「私は殺される。國弘、私がいなくなっても、これから伝える内容は全て、隠し通してほしい」

裕次郎は、自分の運命を見透すことができていた。

自分の妻となる人物が、天草四郎の生まれ変わりであり、前世にキリストだった過去を持つ人物であること。

その妻との間に生まれてくる孫が、未来を変えるために産まれてくる子どもであること。

國弘は、彼の運命を授かり、未来を変えることを約束した。

「私はもうすぐ、この透視能力と全ての記憶を手放すことになる。その前に、私のこの全ての記憶を君に授ける。これしか、日本を守る方法はない」

裕次郎と國弘が交わした約束。

裕次郎は、言っていた通り、記憶を消され、透視能力を奪われた。

それによって、もう一つ、別の道が開かれた。

「もう、自分に運命を変えることはできない」

裕次郎は、全てを察知し、國弘に託した。

そして、殺された。

その日、國弘は、鈴子にこう伝えている。

「貴方の前世は天草四郎。そして、彼の前世はキリスト。つまり、貴方は、日本の運命を変える定めを受け、この世に生まれてきたのです」

「天皇を守る義務があるのであれば、過去はどうであれ、私は八咫烏として、その義務を全うするだけです」

その言葉に、國弘は安心した。

「後に、貴方は、八咫烏として天皇を導くことになります。そして、京都に到着後、魔具、つまり偽物の十字架を手にし、貴方は、私たちを裏切ります。敵地に乗り込むことなるのです。その時、全ての人間をあざむいてください。これが、もう一つの運命に移行するサインです。このサインを決して逃してはなりません」

裕次郎からのメッセージ。

それは、キリストの生まれ変わりである鈴子が裏切ることで、未来を欺くことができる。

これが運命を切り開く鍵になると、國弘は聞いていたのだ。

「この事は、決して誰にも話してはなりません。私と貴方以外、聞いてはいけない情報です」

「私が、キリストの生まれ変わりであろうと、天草四郎の生まれ変わりであろうと、関係ありません。私は、夫を信じています」

鈴子は、裕次郎の予言通り、魔具の十字架を手にし、孫である周に卑劣な言葉を浴びせ、裏切った。

その間に、國弘は、裏で動いた。

衣織に孫を助け出す提案をし、見事、鈴子と青年を正篤のもとから離すことに成功。

たった1%の希望を、國弘は、見逃さなかった。

「サンカ、龍族、そして、もう一つ、私はある方たちにお声かけしています。それが、沖縄のユタです」

國弘は、戦争が起こる前から、ユタを京都御所に集めていた。

「彼らは、勝ったと慢心しています! この日のために準備してきたものを、彼らに見せつけるのです!!」

本当の戦いは、目に見える武器や兵器ではない。

日本は、目に見えない能力で応戦していた。

赤札で集められた国民たち。

零戦に片道分の燃料を入れるとき、彼らは、涙を流していた。

「貴方の戸籍は、今日で抹消されます。もう、家族に会うことはできません。しかし、全ては敵を欺くためです! これからは、八咫烏のメンバーとして日本を支えてもらいます。日本の未来を変える手助けをしてください」

國弘は、彼らを零戦には乗せていなかった。

代わりに現れたのは、ユタたち。

彼らが一斉に無人の零戦を飛ばし、太平洋に連なる戦艦に突入させていた。

「後に、貴方は、国のために自らの命を捧げた日本の英雄として語り継がれることになります。故郷に帰ることができなくなることだけはお許しください」

これが、日本の戦い方。

当然、アメリカ軍たちは、命すら投げ出して国を守る脅威の精神に衝撃を受け、怯んだ。

その結果、アメリカ軍は、そこから日本に上陸しようとしてこなかった。

しかし、空軍は違った。

彼らの運命だけは変えられなかった。

「事前にソ連と交渉をしていた日本は、21個の核兵器のうち、18個の核兵器を未然に防ぐ。しかし、残りの三つの核兵器が投下される運命にある。この運命は、我々がどう足掻あがいても変えられない」

裕次郎の予言通り、日本は、ソ連と交渉していた。

18個の核兵器を不発弾にする代わりに、その全ての核兵器を受け渡す提案をし、事前に交渉が成立していた。

しかし、残りの三つの核兵器は、アメリカ軍から持ち込まれたため、免れることはできなかった。

1発目は、龍の力で戦闘機を故障させ、落下を防いだ。

2発目は長崎に投下され、3発目は東京ではなく、広島に落とされた。

「爆破は、免れない」

二つの原爆が投下され、日本は、甚大な被害を受けた。

「サンカと龍族である我々が、身代わりになる。あなた方国民は、この後、悲しみ続けることになる、そして、その中を生きることになる」

サンカと龍族はそう言い残し、京都中にある神具に息を吹き込んだ。

しかし、核兵器の投下を免れることはできなかった。

自らが身代わりとなる意思を神具に吹き込んでいたため、彼らは全員、息を引き取った。

この二つの核兵器が落とされる未来を変えるために、裏で動いていたのだ。
 



「日本は敗戦しました」

日本中に流れる、敗戦の知らせ。

天皇が掲げた白旗に、日本人は、心折られた。

それでも、敗戦を宣言せざるを得なかった天皇。

京都御所のヘリポートに到着した天皇のもとへ集まる、表の八咫烏たち。

そこへ、正篤が、十字架を手にしたまま現れた。

「国民を置き去りにして敗戦を宣言しましたか。日本は、何とか沈没は免れたようですね。ですが、日本はこれで終わりです」

最後に、正篤は、天皇に向かって捨て台詞を吐き、アメリカ軍の最高司令官マッカーサーの到着を待った。

そこには、國弘と駿河、そして、周の姿もあった。

そして、京都御所のヘリポートに、マッカーサーが到着した。

「未来を予知し、君がここまで裏切り者として動いてくれたおかげで、見事、日本を沈めることができた。感謝する、正篤。いや、天皇と呼ぶべきかな」

マッカーサーの言葉に勝利を確信した正篤。

「本当に日本がキリストの十字架を持っていたとは。最後に、天皇、我々に負け、全てを失った今、何を思う? 申してみよ」

天皇は何も言わず、そのまま動かなかった。

その姿を、その場にいる全員が注目していた。

「どんな人間でも、死を目の当たりにすれば、こうなる。それより、キリストの十字架を見せてもらおう。我々が勝った暁には、それを戴く約束だ」

正篤は、持っている十字架を差し出した。

すると、マッカーサーの動きが止まった。

「……正篤、これは一体、どういうことだ?」

天皇が、正篤の横で、別の十字架を差し出していたのだ。

「なぜ二つも十字架が存在する?」

「いえ、そちらは……偽物であります故……」

「マッカーサー司令官、本物の十字架は、天皇家しか持つことが許されておりません。それだけ重要な代物なのです」

マッカーサーは驚いた。

「なるほど。今こそ、どちらがこの国に相応しい天皇であるかを決めるときかもしれないな。良いだろう」

マッカーサーの指示で、正篤と天皇は、拳銃を眉間に突きつけられた。

「二人に問う。ここで死を選ぶか、国民を奴隷として差し出すか、どちらか決めよ!」

誰も想像もしていなかった展開。

正篤は、何も答えなかった。

これに対し、天皇はこう答えた。

「私は、この身がどうなろうと構いません。全ては私に責任があります。どうか、我が国の民だけは、手を出さないでいただきたい」

十字架を両手で持ち、真摯に頭を下げて述べた天皇の発言に、マッカーサーは驚いた。

これまで幾度となく、こういった場面に遭遇してきたが、命乞いをしない人間は、これまで一人も居なかったからだ。

しばらく陛下を眺めた後、マッカーサーは、正篤が持つ十字架を奪い、こう言った。

「天皇陛下、貴方こそ、この国で人の上に立つべき唯一の聖人。本物の十字架は、そのまま大切にお持ちください。貴方の仰った通り、この国の国民に一切手出しはいたしません。約束します」

天皇と同じく、マッカーサーも両手で十字架を抱え、頭を下げた。

その後、正篤たちを捕らえたマッカーサー。

敗戦の署名を天皇に求めた後も、日本を植民地にすることはなかった。
 



「皆さんのおかげです」

最後に、天皇を裏で支えてきた國弘・澄子・駿河・鈴子、そして、周が、京都御所に集められた。

「まだこれからです、陛下。ここから、この国を立て直していかなければなりません。これが我々の使命です」

全員が、まだやり残したことがあると、天皇に伝えた。

「私たちは、これからも貴方様を裏でお支えいたします」

すると、天皇は、頭を下げた。

そして、鈴子は、周にこう尋ねた。

「周、貴方はまだ若い。これからどうするかは、自分で決めなさい」

「……一度、修行へ行かせてください」

「分かりました」

周は、頭を下げ、再び八咫烏に戻ってくることを約束した。
 



日本は敗戦後、澄子や鈴子が促していたおかげで、八百万の神々が戻り、平穏な日常を取り戻した。

一人見知らぬ山の頂上で坐禅を組み、遠くの烏を見つめる周。

目の前に広がる世界を眺めながら、周は、未来を見据えていた。


『大正スピカ-仁周の第六感-』-完-
 



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