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大正スピカ-仁周の第六感-|第19話|抵抗

日本海に浮かぶ、正篤たちの戦艦。

「戦況はどうだ?」

「日本軍は、アメリカ軍の半分も残っていません」

「どうにか掻き集めたようだが、半分も残らなかったか。神のいない、この状況では、どうしようもないようだな」

「正篤様、彼らに動きがありました! どうやら、国民を零戦に乗せ、アメリカ軍の戦艦に突入させているようです!」

「国民を救うためと言いながら、結局、彼らを利用しているということか。陛下らしい考えだな」

赤札で集まった国民たちは、操縦すらしたことない、片道分の燃料の入った零式艦上戦闘機に乗せられ、次々と太平洋に向かって飛び立っていった。

「國弘さん! 僕には出来ません!!」

「我々に出来ることは、これしかない! 手を止めずに、どんどん燃料を積み込め!!」

目を覆いたくなる状況が、目の前で繰り広げられている。

途中で戦艦の銃撃に遭い、太平洋に届かず、墜落していく零戦たち。

そんな中、一基の零戦が、アメリカ軍の戦艦の銃撃を避けながら特攻し、操縦室目掛けて、突っ込んだ。

「彼らは本当に人間なのか? あそこまで国のために命を捧げることができるとは」

その一基の零戦を皮切りに、他の冷戦も次々と戦艦へ突入していく。

その光景に、アメリカ軍の兵士たちも怯んだ。

「正篤! 日本人は、こんなに天皇を崇拝すうはいしているのか? このままだと我々アメリカ軍の被害も免れぬ! そろそろ使わせてもらうぞ、正篤。最後にもう一度聞く! 本当に良いのだな?」

「はい。彼らを放っておけば、このまま何を仕出かすか分かりません。今すぐ、実行してください」

「分かった」

命をかけて国を守る。

日本人の愛国心を目の当たりしたアメリカ軍。

しかし、最高司令官から、投下の指示が出された。

それは、周の予想とは異なる未来だった。
 



「鈴子さん、聞いてください! これから、ここへ衣織お婆ちゃんが助けに来ます。お婆ちゃんを助けてあげてください」

正篤がアメリカ軍と連絡を取り合っている隙に、青年は、鈴子に助けを求めた。

鈴子は、青年が自分ではなく衣織のことを心配していることに驚いた。

「自分ではなく、衣織さんを助けてほしいということですか?」

「そうです。僕はもうどうなっても構いません。いずれ、この戦艦は沈む運命にあります。でも、お婆ちゃんは、今日、殺されるかもしれないんです。協力してもらえませんか?」

「すみません……それは、出来ません」

鈴子の返事に、青年は肩を落とした。

「なぜなら、貴方を今から解放するためです」

そう言うと、鈴子は、青年の手を取り、勢いよく外へ飛び出した。

「最初から、私がここに来ることを、衣織さんは知っています。全ては、彼、正篤から逃れるために、國弘さんと計画してきたことです。先ほど、貴方は、いずれこの戦艦は沈む運命にあると仰った。その通り、この戦艦はこの後、沈む運命にあります。ただ、99%の未来が決まっていたとしても、残りの1%の希望にかけるのが、私たち人間です」

鈴子は、最初から、青年を正篤のもとから救い出すのが目的だった。

過去や前世に囚われるような人間ではなかったのだ。

「しかし、こんな海のど真ん中で、どうやって逃げるというのですか?」

「もちろん、飛び込むのです」

「正気ですか!?」

「正気です! 行きますよ!」

二人は、勢いよく海に飛び込んだ。

すると、戦艦の下に、一基の潜水艦が現れた。

「大丈夫です。必ず生きて、衣織お婆ちゃんのもとへ帰ることができますから」

鈴子がそう言うと、応戦中だった日本軍の戦闘機が空に現れ、銃撃をしながら向かってきた。

その隙に、二人は海に潜り、そのまま潜水艦へ向かった。

「今さら逃げたところで、戦況は変わらない。この国に逃げ道など残されていないのだからな。……このままでは巻き込まれる! 今すぐ陸から離れろ!」

正篤は、鈴子と青年を追おうとはしなかった。
 



「衣織さんから、無事、二人と合流できたと報告が来ました! 周! 鈴子さんは、私たちの味方だ」

駿河は、周や天皇に報告し、喜びを分かち合った。

「お婆ちゃん……」

駿河は、周を抱きしめた。

あの潜水艦は、國弘が手配したものだった。

衣織に操縦させ、この時が来るのをずっと待ち構えていたのだ。

「ここからが正念場です! 事前に、ソ連との交渉は済ませておきました」

國弘は、裏でソ連と不発弾を渡す交渉を進めていた。

ソ連は、アメリカを裏切り、21個の核兵器のうち18個の核兵器を積んだ戦闘機の稼働を停止した。

「ただ、残りの3機は、必ず日本にやってきます。周、時間は分かるか?」

「はい……3時間です。核兵器は、3時間以内に日本に投下されます」

「3時間ですね……分かりました。周くん、澄子さん、後は頼みましたよ」

「はい!」

周と澄子は、正篤たちが陸から離れたタイミングで、國弘の計画に全てをかけることにした。
 



雨雲で覆い隠された不穏な空。

東京に核兵器を落とす予定の戦闘機が、雨雲の中に身を隠しながら、東京の都心部へと進んでいく。

「第1機、間もなく東京の上空に到達します。隊長、指示を……ん? 何だ、あれは」

雨雲に隠れていたのは、アメリカ軍の戦闘機だけではなかった。

黄竜を先頭に、百体の龍が、戦闘機を待ち構えていたのだ。

そのまま戦闘機に巻き付き、機体を激しく動かした。

「緊急用の扉が作動しません!」

機体は流れされ、雨雲から抜け出すのが、精一杯だった。

こうして一つ目の核兵器は、放たれることなく終わった。

神の代わりに、龍が東京を守ったのだ。

しかし、他の戦闘機までは及ばなかった。

原爆を積んだ2機の戦闘機が、日本の上空に現れた。

「第2機、まもなく長崎の真上に到達します!」

「第3機、こちらもまもなく到達です!」

「それぞれ投下を許可する! 第2機、第3機、投下!!」

二つの原爆が、長崎と広島に落とされた。

絶対に変えることのできない未来。

それは、原爆の投下だった。

垂直に落下した二つの原爆。

その場所に生ける者全てを跡形もなく消し去り、日本に、敗戦を告げた。

國弘たちが、どんなに思いを注ごうと、どんなに平和のために動こうと、起きる事実は変えられなかった。

その甚大な被害と犠牲になった命は、いくら後悔しても、戻らない。

街が破壊されていく様子を、正篤は、激しく揺れる戦艦から眺めていた。

「陛下……これまでです」

「……国民には、大変辛い思いをさせてしまいました。降伏します」

こうして、日本は、戦争に敗れた。
 



日本の敗戦は、世界中に知れ渡った。

しかし、アメリカは、世界の予想とは異なる動きを見せた。

アメリカの植民地になると予想されていた日本。

アメリカは、日本を占領することなく、日本人を捕虜とすることもしなかった。

唯一、終戦前から連合国に占領されていた南西諸島だけは、アメリカの施政権下に置かれた。

沖縄に対しては、「日本の行政権」「司法権の停止」「占領の開始」を要求した。

なぜか、アメリカは、憲法改正を重視したのだ。

そして、国民に対しては、その在り方を教育から見直す方針を打ち立てた。

「天皇と国民の関係は、相互の信頼と敬愛に基づくものである」

天皇は、『人間宣言』によって、天皇が現人神であることを否定した。

多くの国民は、この『人間宣言』と『象徴天皇制』を平静に受け入れ、これによって、見えない世界を否定する教育が行われるようになった。
 



裕次郎が亡くなる前、実はもう一つ、別の未来が動いていた。

「私は、八咫烏として京都へ戻ります。今後の運命を変えるために、裕次郎との約束を果たすときが来たようです」
 



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