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大正スピカ-仁周の第六感-|第5話|浮島

麒麟きりんが復活するって一体、どういうことですか?」

海岸沿いを目指し歩いていた3人は、洞窟に辿り着いた。

「この洞窟は、かつて、龍の姿をした神の化身けしんが住みついていた場所だ。その者は、赤子の時から龍の生まれ変わりとして大切に育てられてきた。それを耳にした豪族がその者を引き取り、以降、その姿を見る者はいなくなった。豪族は、新たな地位を得るために、自分たちが龍族の血を継ぐ者であると嘘をついていた。それを信じ込ませるために、その者を使ったのだ」

「そして、問題が起きた。あまりに傲慢ごうまんな豪族をらしめようと、村が一丸となって、豪族たちに攻め入った。しかし、そこにいた龍の姿を見るなり、たたり神であるとして、その者を豪族たちとともに追い出してしまった。行き場を失ったその者は、この洞窟に辿り着き、人里離れて暮らしたというわけだ」

「駿河、ロープを解け! 舟を出すぞ」

洞窟内にある爪痕つめあと

周には、その龍の化身の姿が見えていた。

硬いうろこに緑色をした龍の姿。一人で苦しみながら、洞窟を掘り進めている。

どれだけ人を恨み、どれだけ自分の身を哀れに思っていただろうか。

全身傷だらけの彼は、夜通し叫びもだえていた。

「そのまま沖へ舟を出してくれ。この舟で海を渡り、島へ向かう」

二人は、舟を押しながら、沖を目指した。

月すら上がっていない真夜中の海。不気味なほど穏やかな海が、3人をおびき寄せているようにも思えた。

舟は意外と大きく、横に3人並んでも余裕で座れるほど広かった。

どうやら竹で作られた手漕ぎボートのようだ。

沖に到着すると、3人は舟に乗り込んだ。一人乗る度に、海水が入るほど傾く不安定な舟。

これでどこまで行けるか心配になるほどだ。

駿河は、かじとなるオールに手を掛けた。その時だった。父親の言っていたことが本当のことだったのだと改めて気付かされる。

「このオール、鉤爪かぎづめの痕が刻まれている。もしかして……」

「気付いたか。では、続きを話そう。洞窟に潜んでいたその者は、ある日、人間に見つかってしまう。その人間というのが、あの豪族たちだ。彼らはずっとその者を探していた。その目的はただ一つ、龍を倒した英雄として、再び村に戻るためだ」

執念しゅうねん深い奴らだな……許せない」

「しかし、その者にも、ある変化が起きていた。人と離れたことで、透視をする能力が芽生えていたのだ。その者は、再び豪族が自分のもとへ来るくることが分かっていた。それで、この舟を造り、難を逃れた。しかし、これが原因で、日本に問題が起きてしまう。日本は、昔から『龍の国』と呼ばれ、見えない者との共存が当たり前だった時代がある。知っているな?」

「はい。日本の形は、龍の形でもあると」

「そうだ。しかし、せっかく人間と龍の間に生まれたその者を、人間が拒否したことで、日本はバランスが保てなくなった。つまり、その者は、日本から離れてはいけない運命にあったということだ」

決して日本からは離れてはいけない運命にあった龍の化身。

その者が日本を離れたことで、人の目には見えない龍たちも混乱し、彼らが日本の地を離れてしまったと、駿河の父親は話した。

波の音すら聞こえない暗闇の中、駿河が漕ぐオールの音だけが、周囲に響き渡る。

「その者の話は分かりました。ですが、それと今から行く島には、何か関係があるのですか?」

「龍の化身が、最終的に辿り着いたのが、今から我々が向かう島だ。そこで、麒麟という現地の村人に出会った……」

「少し違うな。今、駿河が言った通り、その者は今から行く島へ辿り着いた。しかし、麒麟という人物には出会っていない」

ここに来て、駿河の父親は、なぜか勿体ぶるような素振りを見せた。

沈黙を続けたまま、周りを見渡している。

「どうかされましたか?」

「少しだけ、風が強くなったと思わないか?」

確かに、風が吹いている音は聞こえる。しかし、3人の舟には一切、風が当たっている気配はない。

むしろ、舟の周りを囲うように、つむじ風が吹き荒れているように見える。

「父上、これは何ですか?」

「私にも分からぬ。ただ、覚えているのは、龍が風を操る生き物であるということ。駿河、一度オールを漕ぐのを止めよう。しばらくこのまま、風がおさまるのを待つのだ」

駿河は、父親から言われた通り、オールから手を放した。

さらに激しくなる風の音。

「さっきまで波一つ立たなかった海が、渦を巻き始めている。今は、前にも後ろにも動けない。ここからは、私たちの意思ではどうにもならんということだろう。二人とも、しっかり舟に捕まっていなさい」

舟の周りに突如現れた渦潮うずしお

それぞれ違う動きをしながら、少しずつ舟に近づいてくる。

周の目には、八つの龍のエネルギー体が見えていた。

いつの間にか、空は曇り出し、海は深い暗闇の世界へと姿を変えていく。

「もし、我々が島へ行く運命であれば、このまま導かれるはず」

すると、帆のない3人を乗せた舟が、突然動き始めた。
 



「まさか、本当に日本人同士の争いが始まるとはな」

各国のトップが集まり、満州で起きた爆破事件について議論していた。

いわゆる、世界国際会議だ。

「日本が海へと沈む時、満州国がその代わりとなる」

「今読み上げた八咫烏の預言通りに今後なるのであれば、我々は、世界大戦の準備に入らねばならぬ。いよいよ天皇家が終焉しゅうえんを迎えようとしている。彼らがいかなるすべを使おうと、我々が持っている兵器には到底太刀たち打ちできない」

間もなく訪れる世界大戦。

裏で手を引く世界の首謀者たちは、すでに正篤と繋がりを持ち、この日が来るのをずっと待っていた。

この会議の内容は各国の総司令官に伝達され、そのまま満州事変として、日本と中国を戦わせた後、満州国が創設されるまで、他の国は参加しないよう、指示が出された。

「日本が海に沈んだ後、満州国に日本にある全ての神具が集まることなる。そこから世界は大きく変わることになるだろう。我々は、このまま待機する。引き続き、動向を報告を頼む。日本の兵力はいずれ弱まるはずだ」

正篤の思惑もまた、世界を牛耳ぎゅうじる者たちの術中にあった。

しかし、当然、こうなることは分かっている。

すでに、正篤は、次の手を打っていた。

彼が今、一番手に入れたいもの。

それは、世界最高レベルの透視能力。

すでに世界の流れを読み取ることに長けている正篤。

彼は、偶然、日本の表に出ていない事実に辿り着いていた。

中国における四神(朱雀すざく青龍せいりゅう白虎びゃっこ玄武げんぶ)の中央に、雷とともに舞い降りる神獣の言い伝え。

「天と地を繋ぐ麒麟が浮島へ舞い降り、世界の全てを見通す人間が現れる」

この言い伝えが書かれた中国の古書を見た正篤はすぐ、浮島を捜索させた。

しかし、その所在がつかめずにいた。

その後、八咫烏の一員となり、ある情報に辿り着く。

鳳凰ほうおうとも呼ばれている日本の南に位置するとされる朱雀を、富士の山で霊視したという情報を得たのだ。

この富士の山を南とした場合、沖縄が東の青龍にあたり、北海道が西の白虎となる。

日本が、三つの幻獣を司っている島であることに気が付いたのだ。

それらを結ぶレイライン。

正篤は、中国へ修行に訪れた際、北の玄武があしらわれた像を見ていた。

「世界は最初から、全て、私のものとなる運命にあった。私が裏天皇として統治し、満州国を手に入れることができれば、麒麟が表に現れ、全ての歯車が揃うことになる」

この目的を果たすためであれば、今の天皇家の代わりとなる血筋や神具など、この世の全てを手に入れることが許されると考えていた。

正篤が見つけることができなかった浮島。

そこに向かっている三人。

彼らはまだ、正篤の思惑に気付いていない。
 



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