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大正スピカ-仁周の第六感-|第18話|戦争
項垂れたままの周。
「こんなことがあっていいのでしょうか。周の能力を使っても、我々が先読みしても、未来が変えられてしまう」
「何か方法があるはずだ。このまま引き下がるわけには……」
「やはり、あの方たちは、敵だったのですね」
門番がそう言うと、奥から鍵を出してきた。
「鍵? ……もしかして、あの神具たちは……」
「彼らが持っていったのは、全て偽物です。本物はこちらにあります」
「どういうことですか?」
「我々サンカには、共通のテレパシーがあります。代表から瞬時に、本物は渡してはならぬと、テレパシーが送られていたのです。彼らには、神具の部屋ではなく、魔具の部屋の鍵を渡してあります」
そう言うと、門番は、隣の部屋を開けた。
すると、中には、先ほど正篤たちが持ち出した物と、同じ形の物が陳列されていた。
「私は、あなた方から長年付き添った彼らの正体を知り、目覚めることができました。大変有り難いことです。その恩は返さなければなりません。こちらにある神具を持ち、ここから逃げてください」
「まさか、こんな展開が待っていたとは……」
最終的に、門番が、正篤たちを裏切る形となった。
「彼らに気付かれる前に、神具を運び出しましょう! 周、手伝ってくれ」
鈴子の裏切りは、周にとって、信じがたいものだった。
深く傷ついた心は、そう簡単には癒えない。
しかし、ほんの僅かではあるが、希望の光が差し始めている。
周は、涙を拭い、立ち上がった。
神具を抱え、洞窟を抜ける4人。
すると、澄子が待つ神社へ向かう途中、大きな地響きがした。
「大変です! 上を見てください!」
見上げると、何十台もの戦闘機が空を覆い尽くしていた。
「馬鹿な……あまりにも早すぎる! ここまで、未来は決まっていなかったはずだ!」
「とにかく急ぎましょう! 手遅れになる前に」
空には、空軍のヘリコプターや戦闘機が飛び回り、海には、アメリカ軍の軍艦が所狭しと並んでいた。
その中に、関東軍の軍艦が紛れている。
目的は、日本を堕とすこと。
関東軍は、アメリカ軍と手を組んでいたのだ。
「陛下が、この危機をどう脱却するのか、楽しみです。司令官、陛下は決して殺してはなりません。これだけは、お願いいたします。後に国民を誘導するときに、彼は必要になりますので」
「正篤よ、君も日本人だ。この国を終わらせることに後悔はないのか? 本当にいいのだな?」
「もちろんです。私は、この日のために生まれてきたと言っても過言でありません。それに、これは、この国が新時代へ移行するための準備に過ぎませんので」
その時、鈴子は、軍艦から外の様子をひたすら眺めていた。
京都の神社で、サンカたちが奉納した神具を使い、祈りを捧げる中、國弘たちは、京都御所に集まっていた。
天皇を囲い、國弘・澄子・駿河、そして、周が、最後の作戦を練る。
「太平洋側からアメリカ軍の軍艦が現れました。さらに、上空の至る所で、すでに戦闘機が臨戦体制に入っています。陛下、国民を守るためにも、もう平伏をすべきではないでしょうか?」
説得する駿河を、天皇は一蹴した。
「ここで我々が折れてしまっては、それこそ、彼らの思う壺です。こちらも臨戦体制に入ります」
「周、未来を正確に判断しなければ、この戦いには勝てないぞ。いいな?」
「分かりました」
「まずは、太平洋側の軍艦が、陸へ上がらぬよう、日本軍の軍艦と陸兵を配置してください。現在の日本軍の数は?」
「100万も満たないと思われます」
「でしたら、半分の50万を太平洋側の軍艦と陸兵に充ててください。残りの半分は、上空からの攻撃に備えてもらいます」
「周、相手の勢力は?」
「はい。陸軍・海軍・空軍、共に、日本のおよそ倍の勢力があります。また、戦闘機に関しては、日本軍は200機。それに対し、アメリカ軍は4,500機もあります。このままでは、全く歯が立ちません」
「日本軍の戦闘機は、200しかないのか!?」
「はい。国外で戦闘機が使われている模様です。おそらく、これも正篤たちの策略かと。とにかく数が圧倒的に少ない状況です」
「陛下、ここはもう国民の手を借りるしかありません。赤紙を出してもよろしいですか?」
赤紙は、陸海軍による召集令状のこと。
国民へ令状を送り、日本軍の兵士としての協力を要請するものだ。
これを、國弘は、天皇に提案した。
それだけ、日本軍の数が足りていなかった。
天皇は渋々、赤紙の発行を許可した。
「今後の状況を説明します。これより交戦が始まり、344の戦闘機部隊が東京で空襲を起こします。さらに、川崎・横浜・名古屋・大阪・尼崎・神戸の7都市でも襲撃が予定されています」
「分かりました。日本軍の戦闘機を、今聞いた都市に先回りさせましょう。 今私たちのいる京都への襲撃はないのですか?」
「……ありません。どうやら、京都御所は避けるよう、指示が出ているようです」
「何故だ……真っ先にここを狙うのが、一番手っ取り早いはずだが」
「犠牲者を出してから、私を捕らえようとしているのでしょう。ですが、そうはさせません。新たに赤紙で召集した国民を、京都に集結させましょう」
「国民を犠牲にはできない。しかし、兵の数があまりにも足りない。召集をかけた国民をどう動かすか、これが重要になるな」
澄子が、冷静に話した。
「陛下、一つ提案があります」
「何ですか?」
國弘は、ある作戦を話し始めた。
「……太平洋にいる軍艦に打ち勝つ手立てはあります。これこそ、我々にしか出来ない、奥の手です」
それは、人智を超えた作戦だった。
果たして、この作戦が本当に可能なのか。
この場にいる全員が疑問だった。
「……可能かどうかは分かりません。でも、もうやるしかないんです。何のために、我々がここに集まっているのか。その意味をもう一度考えるべきです。サンカや龍族の人間と決別していたのは、過去の話。ここからは、彼らと協力すべきです」
澄子は、國弘の意見を汲み、サンカや龍族にこの作戦への協力を依頼することにした。
「國弘くんの作戦に従いましょう。日本軍が窮地に陥ったとき、その作戦を決行します。我々に成功以外の道は残されていません。皆さん、頼みましたよ」
こうして、最後の会議が終わった。
「降伏せよ! 要求に従わなければ、襲撃を開始する」
海岸沿いに浮かぶ、鉄のかたまり。
そこから、日本に向けて、無数の砲撃が開始された。
木や建物は炎に包まれ、形を変えていく。
少ない兵力で応戦する日本軍。しかし、あまりにも規模が違いすぎる。
それでも、アメリカ軍の軍艦は容赦なく、攻撃してくる。同時に、空軍も移動を開始した。
同じ人間同士の争い。
日本中にサイレンが鳴り響く。
国民には、避難指示が出され、避難場所で日夜を過ごした。
なぜ、今、日本がこのような状況にあるのか。
苦しめ合うことに、何の意味があるのか。
真実が、国民に知らされることはなかった。
「日本優勢! 日本が勝っています!!」
突如、始まった戦争。
周たちは、必死に足掻き続けた。
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