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犯人はヤス、-終焉-|第8話|喪失

サヤは、安を誘導しながら秘密を探り、悟にも同じ道を誘導していた。

春留神社の床下にメダルを置き、名港水族館の裏口に侵入。そこから、安に指示を出すために、電車に忍ばせていたスマホに電話。

しかし、安がスマホを手にする前に、電車は脱線。安を、安全に逃がすために、電光掲示板を操作したのだ。

そして、地下水路から悟が来るのを予知していたサヤは、はしごにメダルを置き、パトカーをあらかじめ準備。ナビを操作し、悟を樹海へ向かわせた。

この一連の操作を、サヤは、透視で行っていたのだ。

この5年間で、サヤは、恐ろしいほど強力な霊能者に成長していた。
 



5年前のあの日、誰よりも早く22箇所の花火の違和感に気付いたサヤは、慌てて会議室を飛び出した。

サヤは、文屋長官のことも、すでに見抜いていた。

悟と安が自衛官に救助された直後、まだサヤは、安の目を通して状況が見える状態だった。

そこで、とんでもない光景を目にする。

それは、あの花火を小型化した物体で、自衛官が、悟と安の記憶を消そうとしているところだった。

サヤは、安を使い、自衛官を蹴飛ばした。意識を失った自衛官たちを乗せ、潜水艦を岸まで操作し、安と悟を救ったのだ。

しかし、なぜか、サヤでも悟だけは操作できなかった。

サヤは、諦めて、安だけを逃がした。
 



「すみません。失礼します」

周りを見渡し、開けっぱなしの門をゆっくりくぐるサヤ。

サヤは、古谷家の敷地内に来ていた。

斜めになったままの看板が目に入る。開けっぱなしの玄関。枯れ葉が中まで入っているほど、ずっと放置されていたようだ。複数の靴跡が残っており、その足跡は和室へと続いていた。

和室に入る前から、サヤは悟った。

「右京さん!」

和室の中央にある卓袱台ちゃぶだいに、右京うきょうが、うつ伏せのまま、背中から血を流し、倒れていた。

よく見ると、右京の左手が不自然な形をしている。指が掛け軸の方向を指していた。

掛け軸をめくって確認するが、何もない。だが、掛け軸に微かに重みを感じた。両面別々の布で縫われた縫い目にほつれた跡がある。

揺するように振ると中から、金色の鍵が出てきた。サヤは透視で、この鍵が蔵の鍵であることは分かった。

中庭に出てみる。だが、蔵はどこにも見当たらない。

透視で鍵の軌跡を辿り、使われたときの映像を頼りに、歩き出した。

再び、和室に戻ってきたサヤは、右京の足元を見ると、左足の奥に光るものがあった。左足を両手で持ち上げる。そこに埋め込まれたのは、金色の部品。横にスライドさせると、鍵穴が現れた。

鍵を差し、まわすことができた。

屋根裏から、引き戸が引いたような音が聞こえた。同時に、掛け軸が掛かっていた壁も回転し始めた。

カラクリ仕掛けだ。

掛け軸が掛かっていた壁が反転すると、白い紐が現れた。上から垂れ下がっている。

サヤがその紐を下へ引っ張ると、床が外れ、サヤは縁の下へ落ちてしまった。

その場所は、古谷家に伝わる複数の巻物が飾られた隠し場所だった。台座に横向きで巻物がいくつも置いてある。

ひとつだけ巻物が乗っていない台座を発見した。

サヤは、その台座に書かれた文字を読んだ。

「……日本神話?」

誰かがすでに持っていった形跡がある。

透視で、持ち去られたときの映像を確認する。

「まさか……なんで」

そこには、巻物を持ち去る、安の姿が映っていた。
 



「旅客機を追え。誰一人逃すな」

5機の自衛隊の戦闘機が、旅客機を追っている。

大陸より東の太平洋へと抜ける旅客機。戦闘機に対抗できるミサイルなどは、もちろん積んでいない。

瞬く間に追いつかれ、背後を包囲された。

雲の中へと逃げ込むように急上昇する。やはり、これでは、到底振り切ることはできない。

今度は、太平洋に向かって急降下し始める旅客機。水面に向かって垂直に落下している。

「誤って急降下している模様です」

5機の戦闘機が見守る中、旅客機は激しく海の水面と衝突し、爆発。機体は、粉々になった。

「旅客機は、大破しました」

「本当なのか? 生存者がいないか今すぐ確認しろ」

煙が上がる付近を捜索したが、人の姿が確認できなかった。
 



「必ず助けに戻りますから」

そう言って、旅客機に乗り込んだ、悟、橋本、赤。三人は、上昇する前に、パラシュートで脱出していた。

実は、結界内にいる霊能者たちは、そもそも旅客機に乗っていなかったのだ。

炎に包まる中、残された樹海で潜む人々。そこは、もちろん結界内。火は入って来れないため、むしろ安全だった。

あたかも空へ、結界内の人間が、全員逃げたと思わせる作戦だった。

三人は目的である古谷警部を救いに向かった。
 



「あら、いらっしゃい……やけに泥まみれの警察官たちね。うちに何か用? 訳ありって顔をしてるけど?」

悟たちの風貌を見る限り、さすがに、遊びで飲みにきた客とは思えない。勘付いたネオカマーのママは、悟たちを、すぐに別の部屋へ案内した。

満席の店内。

高級なソファーで、オカマたちに囲まれて豪遊する警察官たち。思考が操作されている一般の人が来ることはない。警察官たちが、この店を毎晩貸し切り、飲み続けている。

気づかれないように顔を伏せ、悟たちは別室へと入っていった。

そこは個室のVIP席。ド派手にピンクと金色の装飾が散りばめられた狭い空間。窓際にあるL字の本革ソファーに一人の駐在員が縮こまるように座っていた。

古谷警部だ。

「あなたたち蓮さんのお仲間の人たちでしょ? 話は聞いてるわ……見てよこの人。もう昔の古谷んじゃなくなっちゃって……」

「古谷警部……」

寂しそうに見下ろす悟と赤。

三人が入ってきても、目線を合わせることもなく、テーブルを見つめ続ける古谷警部。

すると橋本は、変わり果てた古谷警部を、思いっきり殴った。

「なんだいきなり!? なぜ私が殴られないといけないんだ?」

「いつまで迷惑かけるおつもりですか? そもそも、あなたのせいでここまで、事が大きくなっているんですよ? 最初から文屋長官をあなたが疑っていれば、ここまでの事にはならなかった」

「ちょっと古谷んを殴らないでよ、いきなり」

古谷警部と派閥関係だった橋本は、激情した。しかし、殴られた古谷警部の表情は、全く変わらない。

「何でなんです? 花火だけで、ここまで古谷警部の記憶がなくなるとは思えません。一体、何があったんですか?」

すると、古谷警部が、突然話し出した。

「何の話をさっきからしているんだ? そもそも古谷警部とは、誰のことを?」

もう一度殴ろうとする橋本。それを止める悟たち。

ママが、力づくで三人を座らせた。

「喧嘩しないで? あくまでここは私のお店。ここではママの私が一番偉いの。とにかく座って落ち着きなさい」

記憶のない古谷警部を囲うように座る3人。ママは、飲み物を取りに出ていった。

沈黙したまま古谷警部を見る。

見た目はそのままのはずだが、中身が変わったせいか強面感がなくなり、目から活力を感じられなくなっていた。

5年前の彼ならソファーで胡座あぐらをかき、酒を片手にタバコをくわえていただろう。

今は、膝を揃えて、行儀良く座る古谷警部。

その違和感に、三人とも言葉を失っていた。

銀色のお盆にグラスを両手で持ち、再び入ってくるママ。

三つのコースターをテーブルに置くかと思いきや、なぜか一人一人にグラスを手渡ししてくる。

受け取る悟たち。

そのコースターに、何か書かれている。

「逃げて」

ママの持つお盆のグラスが、小刻みに震えている。締め切らなかった扉の隙間から何か光るものを、橋本は見ていた。

「危ない! 伏せろ!」

銃声が、鳴り響く。

「「きゃーー!」」

ソファーとテーブルの下に古谷警部を隠す赤。ママをソファーに引き込み、しゃがませる悟。

テーブルの上にグラスの破片が散乱する。

悟のポケットから銃を抜き取り、橋本は扉に向かって、拳銃を発泡した。

白い煙が、撃ち込まれた穴から立ち昇る。

その隙に、赤がソファー付近にある窓を開ける。

「このまま窓から逃げるぞ!」

古谷警部とママを、赤と悟が持ち上げ、外に逃す。扉から警察官が侵入してくるのを橋本が応戦し、中から鍵を閉めた。すぐに3人も外へ出る。

すると、目の前に、1台のパトカーが止まっていた。

絶望する悟たち。

「急いで乗り込め!」

現れたのは、真っ赤なポルシェに乗る蓮だった。5人は、後部座席に乗り込んだ。
 



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