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犯人はヤス、-終焉-|第9話|集結
「蓮さん、生きてたんですね!」
「お前らこそ! ママ、迷惑かけてすまない」
「ホントよ! あとで、きっちり請求するから」
助手席には、地味な服装をした女性が座っている。その女性が振り返り、鋭い目線で悟を睨みつける。
「三輪警部補! よかった。無事だったんですね」
「当たり前だ。私としたことが……5年も記憶を失っていたとは……情けない」
ショックを隠しきれない三輪警部補。
「三輪警部補は、さっき記憶を取り戻したんだ」
三輪警部補も、悟と同じ方法で、記憶を取り戻したようだ。
パトカーに追われながらも、5年越しに集結した特別捜査チーム。
未だ記憶が戻らない古谷警部は、トランクで寝そべっていた。
橋本は、古谷警部の横で静かに、追ってくるパトカーに銃を向けている。
「ちょっと一体何なのよ! 日本中みんな、古谷んみたいに感情なくなるし、警察はハチャメチャだし」
「分かった分かった! 話はあとでゆっくり聞くから!」
「ちょっと! 大事に運転しなさいよ、私の車なんだから! 傷つけたら許さないからね」
連のドライブテクニックのおかげか、何とか、パトカーを巻くことができた。
ポルシェは、そのまま住宅街へと入っていった。
三輪警部補のセカンドマンション。
三輪警部補は、一人暮らし用のマンションとは別に、いくつか部屋を持っていた。ここは、そのうちの一つ。
しかも、40階建高層マンションの最上階。
部屋へ入るなり、ウォークインクローゼットに並ぶ赤色の服に、5年ぶりに袖を通す三輪警部補。鏡に映る自分を、ひたすら眺めている。
遠くでなり続けるサイレンの音は、未だに鳴り止まない。
橋本はずっと、半円状に掛かる大きなカーテンの隙間から、外を警戒していた。
別の部屋では、蓮が、古谷警部の記憶を戻す作業をしていた。
悟や三輪警部補は、古谷家に伝わる術が宿った『犯人はヤス、』と書かれた紙を見せることで、記憶が蘇った。しかし、古谷警部にはなぜか、この方法が通用しない。
そこへ、来客を知らせるインターホンが鳴った。
全員が、一斉に振り向く。
来るはずのない来客。一気に血の気が引く。
いち早く、悟がモニター越しの人物を確認した。
ショートヘアーの女性が一人、前で手を組みながら俯き、立っていた。三輪警部補も確認するが、心あたりがないようだ。
そのまま、観察していると、今度はポケットからコインを取り出し、話しかけてきた。
「……深瀬サヤです。覚えてますか?」
見せているコインは、名港水族館のコインだった。
「サヤさん! どうしてここに? 今開けます!」
驚きを隠せない二人。
「あ、部屋番号伝えてない!」
急いで、モニターを確認する。
「いません」
「ちょっと、行ってくる!」
そう言って、三輪警部補が玄関の扉を開けようとした、その時、再びインターホンが鳴った。今度は、部屋の前のインターホンだ。
扉を開けると、サヤが立っていた。
事件当時、中学生だった彼女も、もうすぐ20歳。立派な大人の女性になっていた。
「お久しぶりです。とにかく伝えなければいけないことがたくさんありまして。古谷警部はいますか?」
「いるよ。……おい、蓮! 深瀬サヤが来た! 古谷警部をリビングへ連れてこい!」
悟たちがいる場所や、マンションの部屋番号までもを探し当てる、サヤの能力。
全員、リビングに集合した。
目の前に座る古谷警部を見て、サヤは泣き崩れた。
それを見て、蓮が話し始めた。
「親父は、俺が何やっても記憶が戻らない。サヤ、何か知ってるのか?」
泣きながら、頷くサヤ。
涙を拭き、少し間を置いてから話し始めた。
「蓮さん、私は古谷家で、あるものを見てしまいました。あなたのお爺さんは、和室で、血を流して倒れているのを。おそらくだれかに……」
「嘘だ! そんなのありえない……。だって爺さんは、ずっとあれから病院で……」
辻褄が合わない二人。
「私は透視で、亡くなった時の映像を確認しました。右京さんを殺していたのは、複数の警察官です。そして、その直後に現れたのが、古谷警部でした」
「親父が?!」
「はい。おそらく、何らかの情報を得ていた古谷警部の記憶をすべて消し去るために、父親の死を目の前で見せたのではないかと……」
「そんなこと……でも、何で今まで気付けなかったんだ……」
「透視や術の難点は、自分に関わる物事が不確定になりやすいこと。私も自分の事だけは見ることができません。なので、蓮さんも気付けないのは当然です」
「皆さん、見てください! 古谷警部の表情が、変わってきていませんか?」
赤が言うように、全く変わらなかった古谷警部の表情が曇り始めている。
「親父! 爺さんが殺されたんだぞ! いい加減、目を覚ましてくれよ、親父!」
両肩を力一杯掴み、激しく揺らしながら訴える蓮。
それを見ていた橋本が、突然立ち上がった。
「残念だったな、古谷! 次は、お前の息子の番だ」
橋本は、持っていた拳銃を蓮のこめかみに押し当てた。
「おい、橋本! 何するんだ!」
「動くな!」
すると、古谷警部の目の色が、徐々に変わり始めた。
「これでもまだ、お前は洗脳され続けるのか? 息子が目の前で殺されようとしてるんだぞ!」
すると、古谷警部が、勢いよく立ち上がった。
「橋本! 息子を殺すなら俺を殺せ!」
リビング中に響き渡る渋い声。
威厳を保ったまま、橋本を睨みつける。
その表情は、かつての古谷警部の表情そのものだった。
「ようやく目覚めたか……」
橋本は、ゆっくり拳銃をしまった。
「古谷警部、思い出したんですね」
「みんなここで何してんだ? 仲良く集まっちまって」
すぐさま、古谷警部に飛びついたのは、ママだった。
「古谷ん! ようやく目覚めたのね! どれだけ心配したか」
「ママ? 何であんたまでここに」
5年前まで、古谷警部とライバル関係だった橋本。
彼のおかげで、記憶を取り戻すことができた古谷警部。
5年前まででは、考えられない光景だ。
「よかったです。安心しました。この7人は信用しても大丈夫なようですね。記憶を戻したばかりの古谷警部のためにも、私が見てきた、この5年間をすべてお話しします」
サヤによって、空白の5年間が、徐々に明らかになっていく。
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