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大正スピカ-白昼夜の鏡像-|第5話|真相
國弘は、正篤に対する不信感から考えを改め、このように考え始めていた。
誰よりも先に、天草四郎の生まれ変わりを探し出し、十字架を護る。そして、正篤の影響力を極限まで抑える。
しかし、正篤は、易経を日本に広めた第一人者。かつ、政府だけでなく、経済界にも影響を及ぼす人物。
彼を現在の地位から引きずり下ろすことができる、知識や経験が豊富な人間は周りに一人もいなかった。
そんなある日、國弘は、正篤からこう告げられる。
「天草四郎の血筋を引き継ぐ子どもが生まれてくるとなれば、その子どもは神童と呼ばれる存在になる。天草四郎を凌駕する霊格の高さを誇る子どもになるだろう」
正篤は、國弘にだけにこう伝えていた。
もし、これが事実なら、尚更、誰よりも先に天草四郎の生まれ変わりを探し出さなければならない。
その日から、國弘は、正篤の痕跡を探ろうと、政府関係者が集う酒場に足を運んだ。
酒が入っているのもあり、皆、政治や経済界の裏話で盛り上がっている。國弘は、その店の常連客を装い、カウンターの席に座っていた。
そこに、若い政府関係者が二人来店し、正篤の話をし始めた。
「神岡の噂聞いたか? あの人、今、時代を読む力が評価されて、経済界のトップたちに好かれているらしい。重鎮たちが、神岡のところにこぞって話を聞きに来てるらしいぞ」
「それは、良い噂だな。あの人には、最近黒い噂が流れている。どうやら、若い時に通っていた中国で、日本の国家秘密を知ってしまったらしい」
「国家秘密?」
「あぁ。あんまり大きな声で言えないが、あの人が、天皇家と繋がりを持つ血筋の話を……」
その瞬間、店の裏から黒い服を着た男が現れ、二人の前に立った。
二人が見上げるほどの大きな体をしている黒い服の男。
「な、なんだお前は! 俺たちは、政府関係者だぞ。ここで歯向かえば、ただじゃ……」
すると、片手で政府関係者の一人を胸ぐらを掴み、そのまま軽々と頭が天井につく高さまで持ち上げた。
その光景を見て、周りで楽しく呑んでいた客たちも静まり返る。
店の店主は、國弘の前で静かに湯呑みを洗っていた。
「お客さん、言っていいことと悪いことがあるんじゃないですかね? うちでは、その言葉を言った客は出禁にしてるんですよ。勘弁してもらえませんかね」
店主がこう言うと、黒服の男は、政府関係者の男を椅子に降ろし、店の裏へ戻っていった。
政府関係者の男たちは、顔を真っ赤にしながら、店を出ていった。
國弘は、この光景を見て、店主が、何か天皇家について情報を掴んでいるのではないかと考えていた。
それから國弘は、度々その店を訪れたが、特に情報は得られなかった。
しかし、台風に見舞われた日の夜、たまたま近くの神社から数名の政府関係者が出てくるのを目撃した國弘。
よく見ると、その政府関係者の中に、正篤の姿があった。
不審に思い、後をつけると、そのまま店へと入っていった。
店の中へは入れなかったが、國弘は、近くで身を隠し、正篤と政府関係者が出てくるのを待った。
すると、彼らは、数分で店から出てきた。
その瞬間、胸騒ぎがした。
彼らの後ろから、黒服の男もついてきていたからだ。
正篤と政府関係者たちがいなくなったのを確認し、國弘は、すぐに店の中へ駆け込んだ。
すると、厨房で、店主が血を流し倒れているのを発見。その横には、黒服の男に吊し上げられた、あの政府職員の姿もあった。
店主に駆け寄ろうとしたその時、店の入り口の方から微かに物音がした。
違和感があったのか、黒服の男が店に戻ってきたのだ。
國弘は、物音がした時点ですぐ身を隠していたため、黒服の男に見つからずに済んだ。
そのまま國弘は、外へ逃げ出すことに成功。
ひたすら走り続け、偶然見つけた飲み屋へ逃げ込んだ。
その飲み屋で働いていたのが、鈴子だった。
そこで、見えないはずの者に食事を提供している姿を見て、彼女が天草四郎の生まれ変わりであると、すぐに分かった。
しかも、後に、夫が裕次郎であることを知り、そこで、二人の間に神童と呼ばれる子どもが生まれてくることを確信した。
そこで、國弘は、正篤とともに作戦を練った。
「天草四郎の生まれ変わりを発見しました。しかし、今彼女を捕らえてしまえば、神童は産まれてきません。この事は、政府だけでなく、陛下にも伝えてはなりません。内密にお願いします」
後に、この時の作戦が功を奏し、与根葉家の跡取りとなる周が生まれた。
彼が、本物の神童であるかを確かめた後、自分たちのもとへ連れてくる必要があると、國弘は正篤に伝えていた。
「30年後、我々が全てを手に入れることができるのであれば、その考えも悪くない」
正篤は、國弘の意見を呑んだ。
國弘は、鈴子の店に初めて訪れて以来、知り合いの政府関係者と協力し、鈴子の見張りを行っていた。
「火事だ!! 早く逃げろ!」
あの時、鈴子のお店に火を付けたのは、國弘だった。
國弘は、あたかも政府から逃れ、助けにきたかのように装った。
この火事を利用し、鈴子と裕次郎に近づき、二人を熊本の村に移住させたのだ。
30年にも及んだ村での行動は全て、村長を通じ、正篤へ随時報告されていた。
つまり、國弘は、村にいる間ずっと正篤の監視下のもと、生活をしていたのだ。
そして、事件は起きた。
正篤は、周に物心がつく頃を見計らい、國弘には伝えず、仲間に裕次郎を殺害させた。
しかも、禁断の魔術である漢波羅秘術を用いて。
裕次郎が殺害される前に起きた吉見神社のボヤ騒ぎは、正篤からの八咫烏に対する合図であり、國弘に対する警告でもだった。
「周の身柄を確保せよ」
十字架は、裕次郎が池へと沈め、奉納し、さらに他人が触れぬよう神が護ってくれていたおかげで、誰も寄り付かなかった。
これは、澄子が十字架を護るために施した術のおかげでもあった。
しかし、この術はすぐ解かれてしまう。
十字架の在処はすでに特定されていたのだ。
「十字架が村にあることは知っている。國弘をさっさと連れて参れ」
宮司が村に派遣され、國弘は村を出ていかざるを得なくなった。
村を出ていく時、國弘は、鈴子に手紙を渡していた。
それは、鈴子にしか解けないよう、暗号化された手紙だった。
「周が危ない。至急、京都へ来てください」
そして、もう一人、國弘が手紙を送った人物がいた。
それが、澄子だった。
澄子は、すぐに暗号を解読した。
「鈴子さんが、京都へ向かっています」
そして、捕まるはずだった鈴子を間一髪のところで、澄子が助け、八咫烏の選別を受けさせることに成功した。
この一連の流れは、國弘のおかげだった。
鈴子は無事、八咫烏の選別を通過し、八咫烏となった。
この時、正篤は、周を自分たちのもとへ連れて来ていた。
将来、八咫烏の一員にするために。
國弘は、自分の事まで透視できる、周の能力に賭けていた。
國弘の目的は三つ。
一つ目は、自分の過去の記憶を周に読み解かし、正篤の計画と天皇家の計画を暴くこと。
二つ目は、あの日、裕次郎が言っていた「未来を変える最も重要な出来事」。その出来事を予知すること。
そして最後、三つ目は、この二つの目的を、正篤や天皇に気づかれることなく、実行すること。
國弘は、この三つの目的を周に委ねていた。
八咫烏の選別を受ける前に、鈴子と駿河は、約束を交わしていた。
「もし私たちが、二人とも八咫烏となれた場合、私は師である平塚と同じ表の八咫烏となります。直接、彼に真意を伺いたい。私を指導していた時、師はこんなことを言っていました」
『八咫烏とは、決して天皇家を裏切ってはならない組織です。たとえ、それが自分の家族や大切な人に不幸となることであっても。もちろん、両方を守ることが望ましい。それに越したことはありません。しかし、何かを天秤にかけるときは、己の主観を優先せず、どちらが天皇のためになるかを考え、決断しなくてはなりません』
「これが、師の本心だと、私は今でも信じております。ですので、貴方には、裏の八咫烏である澄子さんとともに天皇を護っていただきたいのです。時には、敵対することもあるでしょう。その時に、表と裏、両方に派閥争いを好まない我々がいることが重要であると、私は思っています」
「確かに、その方が良いかもしれませんね。私も、駿河さんの意見に同感です」
「師の真意や貴方の夫である裕次郎さんの過去や死因を探り、必ず伝達に伺います。きっと、その内容が、天皇を護る役割に繋がると信じていますので」
そして、迎えた最終試験で、駿河は、鈴子の分まで毒を飲もうと試みた。
あの時、駿河は、國弘が言っていた「どちらが天皇のためになるか」を考え、選択をしたのだ。
この駿河の命懸けの行動をみて、鈴子は約束通り、駿河を國弘のもとへ向かわせた。
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