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死にかけている女の子達を助けようとして沼。

 愛らしい二等身のドットキャラたちが、一手誤るとR18指定納得の死に方をする。これはそんなオンタイムで死にかけている女の子達を救出するゲームだ。その名も「やばたにえん」お茶漬けは関係ない模様。任天堂switchとアプリVERがある。

 前もってお伝えしておかなければいけないのは、まずもって私がゲームをやった人間ではないこと、加えて存分にネタバレを含むこと。いやいやどの立場から何のために書いてんのという至極真っ当な目つきに対して今すぐ釈明する。

 私が今からするのは「ゲームを楽しむという本来の用途を除外した上で、この作品の実況動画及び考察、謎解き、作者のpixiv、Twitterに6時間以上費やさせるだけの魅力は一体どこにあるのかという考察」である。だからむしろ本来のターゲットには当たらない人間から収益を上げるという意味では、商売の面に限ればこっちの方が汎用性が高い。私自身、実際にゲームをやっていないにも関わらず、キャラクターグッズ普通に欲しい。推しはオミヨ。にわか相手にもきちんと成立する商売。本来の用途とは外れたところで生み出す収益。以前チャットGPTの話でも触れたが、この部分は今後ものすごく大事な要素になると踏んでいる。全8ステップ。それでは話を始める。


ステップ1、作品紹介のパワーワードがぶっ刺さる。

 まず販売対象を考えた時、分かりやすいのは年代、性別。例えばよく例に出す乙女ゲー、ゲームでなくとも地下アイドルなど、何となく対象が分かる。じゃあ本作はどうか。
 作品紹介。私が沼に踏み入れた一歩目、それこそ表題にもした「死にかけている女の子達を助ける」。「死にかけている女の子」だけでもパワーワードだが、「女の子達」である。実はこれ、たまらずワクワクしてしまった男性陣に限らず、困っている人を放って置けない人全員に作用する。この段階で年代、性別の壁は消える。加えて「え、どんな状態」という怖いもの見たさも混ざる。
 そうして(これこそが私なのだが)「実際にやるとなるとめんどくさいし、間違って殺しちゃうのも嫌だけど、気にはなる」という傍観者タイプの人間が、代わりにプレイしてもらうという「実況」観覧を選ぶ。

 この作品は「気になるけど時間ない」とか「めんどくさい」という人までも無理やり引き摺り込んでターゲットにするという、非常に現代に則した商法をしている。「テレビの代わりに切り抜きを見る」がベースな、とにかく時間に対してシビアな需要に対して「無理やり引き摺り込む力」というのは必要不可欠。まずもって広げるは大網。そこから一定の人達が同作品の続編にも興味を持つ。「興味を持つ」というのはまだ理性が利いているが、本作全て見終わった結果「え、まだ何かないの?」と小ネタ集や舞台の裏設定に向かい始めると、もはや興味の次元ではなく自らハマりに行っている。シビアなはずの時間への感性が一時的にフライアウェイして、掘削作業に没頭するようになる。

 人は自ら労力をかけたものに執着する。「労力をかける」とは、大事にしているものを差し出すこと。最たるものが「時間」。時間をかけて理解する。だから思い入れが生じる。推しが生まれる。「推し」の存在によってもっとその世界が特別なものになる。
 助けたくて。別の言い方をすれば「そうして誰かに必要とされたくて」やってきた人間を虜にする。全くもって良くできた仕掛けだ。おかしなことは何一つない。これは完全に計算し尽くされた沼で、軽い気持ちでやってきた人間を次々嵌めていく。宣伝費はどれくらいだろう。実況している金の盾持ってるようなYouTuberも、リスナーさんに勧められてと言っていた。もし口コミだけで広がっていたとしたら凄まじい利益率を叩き出しているに違いない。

ステップ2、考えさせる、労力をかけさせる、目的をずらして、嵌める。

 このゲーム、「最高難易度」と実況でよく言っているが、そもそもゲームしない私からしたら、何をもって最高難易度なのか分からない。ただ、確かにヒントは少ない。通常画面上、それと分かる形ないし色ないしヒントが転がってるが、このやばたにえん、ほぼノーヒントでいきなり大ピンチの女の子に遭遇する。鍵持ってて目の前で電動ノコギリにセットされてる女の子いたら、その場で解錠するでしょ。でもそこで鍵使っちゃうと、別の子が助けられなくなったり、必要なアイテムが手に入らなくなったりする。
 あちらを立てればこちらが立たず。中には全員生存のために必ず一人傷つけなければいけないパターンがあったりもして。ここで怖いのが、全員生存が「凡庸」エンディングなこと。そうして「この人だけ生かす」や「特殊状態(大体怪我させた後)で連れていく」ことで、発生するエンディングがあると知ると、いつの間にか女の子の目や歯を抜くことに何の抵抗もなくなること。

 ハッピーエンドは気分がいい。けれどそれで「終わって」しまう。「え、どゆこと?」とざわつく方がはるかに刺激的なのだ。だから終われない。ずっとその周辺をうろうろし続ける。

ステップ3、自分色に染める楽しみ。

 こうなればもう沼の住人である。そもそも「最高難易度の──」という「察しろ」な俺様ゲームを必死で読み解く、やりこむ。分からん人が他のプレイヤーのあげた攻略見て先に進む。小ネタを見つける。これはどう考えても異常である。普通人は分かりやすいものを好む。その入り口が、だからパワーワード。けれど、分からんと言いながらハマっていく。「分かって欲しい」「話を聞いて欲しい」人ばかりの世の中で「何々どういうこと?」と自ら知りに向かう。こういうことだろうと推測する。開示されている情報が少ないだけに、推測がやたら出回り、実況でも「いろんな考察はありますが、公式の情報だけで話をすると」という断りを入れている。それだけたくさんの受け取り方があり、それだけこの作品について考えられている。

 キャラクター、事象、舞台、個々のやり取りから、その関係性、背景を思い描く。この段階で本作から分離する。「その人にとっての」「その人の」やばたにえんになる。まるでその昔、印刷機なんてない時代、源氏物語原本を借りて書き写した人が、少しだけオリジナルを付け足して、同じようにその先でも別のオリジナルが生まれ続けたように。

 もう一度言う。製作者が用意したのは箱を含めた人形だけで、プレイヤー自らが物語を作り上げていく。だから愛着がある。与えられたものではなく、自らの一部と化しているから、内側にべったり張り付いたまま剥がれない。

ステップ4、セリフがクセになる。単純に声がかわいい。

 全キャラクターを同じ声優さんが担当しているのだが、命からがら助けられたとは思えないセリフの数々を、めっちゃかわいい声で聞ける。もうなんか色々混乱する。そしていつの間にかクセになっている。個人的にはジャクリーンブレアの落下時の悲鳴と、カコの「警察も来てるのか?」がお気に入り。

ステップ5、稀にほっこりエンドがあるというギャップ。

 ジャクリーンブレア(以後ジャックとする)という女の子は、近親相姦を繰り返して家系を繋いできた一族に生まれた子で、彼女の代では本来ジャックの兄、姉が子供を作って家系を繋いでいくはずが、兄が外の女性と恋に落ちてしまう。そのせいでジャックはのちに姉から(ストレス発散目的だろう)虐待を受けるようになる。自分のせいでそんなことになっていると知らない兄はジャックを庇うが、姉の仕組んだ機械に誤爆して飼い猫と合体させられてしまう。
 シリーズ4作目「やばたにの裏面」では、亡くなった恋人のウエディングドレスを見ている獣姿の兄の肩にジャックが触れると、兄がようやくその場を離れる。雪の降る中、歩いていく二人。寒さからくしゃみをするジャックを、その後兄があっためるシーンがある(この後姉からレーザーを打たれるのだが、なぜか死亡を示すはずの「キャラクターに×」がつかない)人の姿ではなくなっても残る兄弟愛に、胸が熱くなること必須。

やさしい……


ステップ6、エンディングに流れる曲がカッコ良すぎる。

 このゲームはいろんな意味でギャップがありすぎる。もうジェットコースターかってくらい振り回される。その要素の一つで、
 必死で救出するじゃん。で、なぜか感謝されるはずの女の子に罵倒されるじゃん。しかもよくよく聞けばこの必死で助けた子達みんな悪人って言うじゃん。みんな助けたのにゲームオーバーになることだってあるじゃん。で、混乱の中ようやく辿り着いたエンディングで流れる音楽が、
 めっちゃカッコいい。曲調はシーンに合わせて色々変わるんだけど、とにかくカッコいい。個人的にはオミヨの「ガトリングエンド」と「先生と一騎討ちエンド」が本当に好き。

ステップ7、発売される順が時系列ではなく、追加説明されてもよく分からない。

 理解した途端に飽きる。分からないというのは分かろうとする事の裏返し。このゲームは分からないことが多すぎる。理解できないことが多すぎる(何故助けたのに「遅いぞコノヤロー」と言われなきゃならんのだ)そしてその分だけハマっていく。
 このゲーム、初代「やばたにえん」2作目「滅やばたにえん」3作目「やばたにえん酸」4作目「やばたにの裏面」とあるが、時系列は2→1→3→4。500年前設定の子とか80年前設定の子とか、同じゲームに出さないでほしい。救出対象8人に横並びにしないで欲しい。何だ「強い思いで甦る依代」って。受け手の理解に頼り過ぎだろ。

ステップ8、結局キャラクターが魅力的だから成立する暴挙。

 憎たらしいがかわいい。これに尽きる。原理自体は猫と同じ。
 救出時、稀にまっすぐ感謝する子がいると、どこかもの足りなく感じるようになるから不思議だ。バランスだと思うのだが、そもそも助けるという行為と感謝をセットにしているから憤るのだ。その後助けた子の事情を知っていくと「そうだったんだ」という罪悪感、及び同情の気持ちが湧く。ここで帳尻が合う。のみならず、次に出会う子にも何か事情があるはずだという頭から入るようになる。
 エンディングのために殺すことも躊躇わなくなる一面もあれば、こんな風にやさしくなれる一面もある。全く振り回されてばかりだ。でもやっぱりかわいい。かわいくてジャックの落下シーンは何度も見る。かわいいからいじめたくなって殺してるのだが、やっぱりまずはかわいいありきなのだ。だからキャラクターグッズ欲しい。白黒両方のオミヨが欲しい。ここに収益は発生する。全くもってゲーム関係ない。


★まとめ☆
 さて、以上私が「このゲームに沼った」理由である。
 時間がないという人からも収益を生めるあたり(YouTubeの実況動画はどこでもコマ切れでも見れる)何もこのことはこのゲームに終始する話ではない。私自身最初「動画、考察、謎解き、作者のpixiv、Twitter合わせて6時間以上費やしている」と書いたが、この文章3時間かけて書いてるからな。ついでにこれ入力して修正してアップしたらプラス1、5時間、この段階でこのゲームは私から10時間以上の時間を奪っている。そしてたぶんまだ増えるし、まだ今年4月に新作出たばかりだというのに「はよ次」と思っている。

 需要と供給の逆転現象。それは最も金のにおいのする場所。最も理想的な形を、プレイヤーに理解を丸投げしているようなゲームが起こしている。これは「バーベキューで何もしないで座っているだけの女性に男性がせっせと肉を運んでいく」現象そのもの。何もしてないくせに、と睨んでいる場合ではない。ここには大きな大きなヒントが隠されている。

 あえて理解を求めないことで相手の理解を引き出す。知って欲しいではなく知りたいと思わせる。加えて全部を出さず、余白を残す。できれば多めに。離脱を想定して間口を広く取る。引き摺り込むためのパワーワードを装備する。ホラ、こうして抽出した成分だけ使っても別の個体を生み出せそうだ。


 最後に。
 毎度のことではありますが、これはあくまで本作を外から見たペテン師(タイプ傍観)の考察に過ぎないため、何かしらの形で本作に触れていただくことを強くお勧めします。加えて読書、映画感想文含め、いつも足を運んでくださる方の中に、ピックアップする作品関係なく、ペテン師のおしゃべりに照準を合わせてここを訪れている方がいたとしたら、既に私の商売は成立しています。いつもありがとう。


 それでは戻ります。
 田中エルナもかわいいんだよなあ。







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