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投票しろと言うけれど



 唸るような音に顔を上げる。雷のいい所は「これから雨降らしますよ」と予告してくれること。慌ててシーツを取り込むと、全ての窓を閉め切る。雷のいい所は「これから大きい音出しますよ」と予告してくれること。気づくと東風に煽られて落ちる雨も、アスファルトの上で弾ける雨も同じように波打っていた。
 時折挟むピンクの閃光。ピカ、ピカピカ、ビカビカビカ。雨が好きだと言いながら、言う割に見ていないことを思い知る。それは窓枠で区切られた一つの絵。容赦なく降り注ぐ水は風に揺られ、重力に叩きつけられ、形を変え、音を成す。ぼうっとこんな風に見ているのは何を隠そう、雷が怖いからだ。
 飼い猫がやってくる。やってきて私の背中に身体を寄せる。不安な気持ちを察してくれたのかもしれない。やさしい。しかしその後すぐスタスタと自分の定位置に行ってしまった。寝た。ウソだろ(扉の写真)

 大和言葉の「いなづま」の語源は有名だが、個人的には「神鳴り」の方が好きだ。何故かは分からないが神の鳴らすもの。何かを伝えようとして天から地に放つもの。

 そうして雨は好きだけれども、ちゃんと向き合うには雷という恐怖、危機感が必要だった。それがあって初めて自分の時間、思考を割く。それは何も私にとっての雷だけではない。

 週末参院選の投開票が行われる。
 最近の情報入手先のメインがYouTubeだからか分からない。選挙についての情報がかつてない程よく入ってくる。
 先日日経テレ東大学の「ひろゆき&成田悠輔」選挙特集動画を見たが、その中でも「まあ政権交代は難しいでしょう」をベースに話をしていた。他、中田のあっちゃんは「政権交代は難しいけど党内派閥があるから、どこに任せるか考えるのが大事」とか、それ以前にそもそも「この選挙で負けたら部族が滅ぶ」レベルじゃないと国政に興味なんて持たないし、この段階で民主主義自体無理ゲーという神野正史さんの話があったりとかで、いろんな情報は入ってくるものの、じゃあどうすればいいの? という、結果自分の足に直結するものは見当たらない。足があるのに走れない。選挙権があって、投票できる権利もあるのに、肝心のそれを生かす術がないという、剣術なら負けないのに鉄砲バーンみたいなやるせなさを感じる。

 著名人がこぞって「だから私は選挙に行く」と言ってるけど、だったらついでにどこを支持して、何故支持するのかまで言えばいいじゃん。その方が聞くよ? と思う。無理でしょうけど。

 歴史を知ることが大事とは言うけれど、じゃあ今歴史知った所で何か変わるの? とも思う。いや、週末選挙行きたいんで、そのための材料探してるんですけど、それってカレー食べたいって言ってるのに「じゃあじゃがいもを育てましょう」ってことでしょう。いや、今カレー食べたいんですけど……っていう。物事の背景を知ることは大事だけれど、即戦力が先じゃないかと。興味が湧けば勝手に調べるんだから。
 中身空っぽのまま背中押されたって、気分が国を滅ぼすだけじゃん。え、でもあなた押しましたよね? そのスイッチ押した一人ですよね? って後から言われても困ります的な。はてさて。

 市のホームページから候補者を辿ってみた。
 それぞれ公約を掲げて、比較的若い人は分かりやすいフォントのもの、逆に味としているのか、人によってはシンプルに文だけを載せたものとか、それだけで個性が出る。でも共通項はある。
 一番下の小さい「高齢の方の生活を保障するための」という文言。他は動くのにここだけは頑として動かない。それが全てじゃないかと思う。国の体力はなくても、数いる有権者に嫌われる訳にはいかない。子供をつくるための給付にはならない。限られた母数を殺さない以上に、そもそも産むことにかける気はないという。

 過去から未来。前後10年、20年で見ている世界が現実からバーチャルメインに代わる。
 日本がアメリカの属国じゃないと思っているのは日本人だけとか、
 ロシアの通貨より日本円の方が圧倒的に価値が低いとか、
 日本終わるんで、子供には幼少期から英語を叩き込みましょうとか、
 金利下げても給料上がらないのは、企業側に突破口となるアイデアがないからだとか、
 結局ホリエモン潰した段階で詰んでるからとか、
 入ってくる情報はあれど、打てる手がない。さて。



 雷が止んだ。晩御飯の買い出しに出かけよう。
 雷が止んだ。正味一時間にも満たなかった。
 再び平和が訪れた。よかったよかった。




 それでも足は、足だけはあるんですよね。




#私たちの選挙


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