生きていてくれるだけでいい
社会人一年目の自分に言いたいことがあるかな、と考えたけど、言葉に詰まってしまった。
あの頃の自分は、とにかく必死だった。
入社してすぐは、専門学校で習ったことが全然活かせなかった。
同期はみんな別の事業所、周囲の先輩は今まで付き合ってきた人たちと違いすぎて、うまく馴染めなくて孤立してしまった。
家族とも折り合いが悪くて、誰も信じられない。そんな中でも、決して折れるまいと、実力を磨けば認められる、と自分を奮い立たせていた。
もうコップに水がめいっぱいどころか、溢れてることに気づかず、あらゆるものを垂れ流しながら血みどろで生きていたように思う。
そんな自分に、言葉なんてかけられるだろうか。
迂闊なことを言えば崩れ落ちてしまいそうだし、むしろ、あの時の自分に何を言っても、聞く耳持たないな、とも思う。
そりゃ、もっと会社を吟味しろとか、やりたいことに真正面から向き合えとか、早く家を出ろとか、食事に気をつけろとか、お金を大事にしろとか、言いたいことはいろいろある。
でもそれはただの後悔だ。今からでも取り返せる失敗ばかりだ。
だから、あの頃の自分に「頑張れ」なんて言えない。頑張ってたもの。「逃げ出せ」なんて言えない。生きるために必死にしがみついていたもの。
生きてきただけでもすごいよ。素直にそう思う。
……ああ、そうか。
言いたいこと、言えること、ちゃんとあった。
*
今の私は、あの頃君がなりたかった立派な大人にはなれてないけど、辛くても命を絶つという選択だけはしなかったから、苦しかった時を経て、幸せを感じられる今がある。
だから、今は生きていてくれるだけでいい。
本当にそれだけでいいよ。
辛くても苦しくても、生きていて。
君が生きていてくれたおかげで、それなりになんとかなってるから。
ありがとう。
*
……でも、こういう話ってもしもがあるから楽しいんだよね。
うーん、そうだなあ。
もし、あの頃に戻ってひとつだけ自分に言えるとしたら「『Fate/stay night』やるといいよ」って伝えたいかな。笑
人生を変えてくれた作品に、もっと早く出会いたかったな、と思うからさ。
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