かわいい家紋。|梅紋 その②
「家紋めちゃくちゃ可愛い…」「これが作られたのがウン百年前…最古のグッドデザイン賞受賞や…」と日々思っている私(陶芸家/ジュエリーデザイナー/専門家ではない)が家紋の推しポイントを語る連載。
「梅紋」その②です。
前回は約100種超ある梅の家紋を、ビジュアル的な視点で大まかに分類、「梅&梅鉢」「写実系」「梅鉢系」の代表的なデザインをについて解説していきました。
今回はその続きから。
なおハヤカワは紋章学および民俗学、日本史の専門家ではありません。
また家紋と武将や氏(うじ)の関係、神社仏閣の流れなどを解説したページ、著作はすでに優れたものが沢山あると思いますので、これらにはあえて一切触れません。是非興味が出てきた方は一度調べてみてください。
おいでませ、家紋ワールド。
分類の続き
④花束なやつら(複数構成系)
1つの花に飽き足らずいくつも集めてみましたというデザイン。
1輪でも可愛いのに束になって可愛くないはずがありませんね。花束というより梅の樹を表現したというほうが近いかもしれません。
「三つ葉向う梅」はその名の通り梅の葉と花を合わせたデザイン。
梅の葉ってもうすこし丸くふっくらしたシルエットなのですが、あくまで花が主役だ!というデザインした方の強い意志を感じます。どの方向から見ても梅の花が両手を広げてアピールしているようであざとかわいい。
「尻合わせ三つ梅」は梅の花を3つ重ねただけに見えますが、花の「尻」、つまり下の部分が触れ合うように配置されています。
言葉だけでは分かり辛いので「花の向きを変えずに重ねたもの」と比較してみました。
右の同じ向きに3つ重ねたものは△をイメージする形で、理論整然としてカッチリとした印象。左の「尻合わせ」のほうは〇をイメージする形で少し柔らかく、女性的な印象を感じます。
ちなみにこの右の形にも名前があって「三ツ盛り梅」という別の家紋です。
⑤分割されたやつら(割り系)
花全体ではなく1部分を円状に配置した家紋。「割り~」というのは家紋の主要なデザインの1パターンで、主なモチーフをパキっと半分くらいで割って、円の中に2~3個(3個が圧倒的に多い)配置したデザイン。
真横から見たサッカーボールの模様のようでもあり、球状に感じる方もいらっしゃるかもしれません。毬やひな祭りなどの吊り飾りにもありそうです。
例に挙げた「中陰三ツ割向う梅」の「中陰」これも家紋の名前によくついているものなのですが、何かというと描く線の太さをあらわす言葉です。
家紋は同じ図案でも、塗りつぶしの有無や線の太さによっていくつかの種類に分けられるのですが、ごくごく簡単に説明すると
これについては掘り下げると一記事かけそうなので詳細は省略…
と思ったのですが、家紋のデータを使用させていただいている発光大王堂さんで詳しく解説された記事を発見したのでリンクしておきます。
興味のある方は是非読んでみてください!
▼【完全版】陰紋とは何か?礼装における日向紋との関係も合わせて徹底 解説!
⑥ぐるっと囲んでみた(囲み系)
これに関しては見たままなので特に解説がないのですが、個人的にこの「囲み」が付いているデザインのほうが、より「家紋っぽさ」を感じる気がします。巷でよく見る家紋グッズも丸で囲まれたデザインが多い気がします。
なぜだろう。
この囲むデザイン、他にも細かったり二重丸だったり、四角や六角形やいろいろなパターンで展開されているのですが
元の紋(例の物だと梅鉢紋)を使っていたお家やお店等から、分家・のれん分け・家臣…など様々な事情で分かれた方々が元の家との繋がりをアピールしつつ、元の家とは異なる家であることを示すために囲みをつけ足したといわれています。つまり囲みのあるデザインの紋は元の紋のお家よりもやや格下(≒庶民に多い?)の傾向にある。
そういう意味では、多くの人にとってはザ・梅紋!よりもこのような囲みがあるデザインのほうがずっと身近にあったから「家紋っぽい」を感じる要因なのかも。(あくまで私自身の推測にすぎませんが)
⑦緻密なやつら(絵的)
家紋というより一つの図案のような、えっこのまま絵皿とか鴨居とかお盆とかそういうのありませんか?っていうくらい細やかで繊細なデザインの紋。
何となく一定のリズムみたいなものは感じるのですが、これまでの家紋にあったシンメトリー(左右対称)感とか、1つのモチーフを放射線状に展開するとか、そういうセオリー的なものは一切ありません。
でもセオリーから外れているからこそ、作った人のデザイン感覚の高さがうかがえる気がします。何の縛りもなしにこんなに美しくまとめられるのかと溜息出ちゃいますね…
ただこれ作るのほんっっっっと大変だったので(ネット上で見つけられなかった図案はハヤカワがちまちまイラレで作っています)これを染めてた昔の染屋さんには畏敬の念しかありません。
個人的には金属で透かし彫り的なパーツを作ったり、カラフルな糸で刺繍したりによさそうなデザインだなと思います。誰か作ってくれ。(他力本願)
⑧シンプルなやつら(シルエット系)
花のシルエットを抜き出したこのシンプルさが本当に可愛い…
何の解説にもなっていないのですが、グッズのモチーフとしてはかなり親和性が高い気がします。選ぶカラーや素材でぐっと雰囲気も変わりそうだし、ほっこりにもキュートにもクールにもなれそうな懐の深さも良いです。
例の3つ目(右端)に上げた「光琳梅(こうりんばい)」。
これはちょっとだけ特殊で、江戸時代に活躍した画家、尾形光琳の特徴的な絵柄を真似たものだとされています。
梅以外の家紋にも「光琳」のつく紋は複数あり、まとめて「光琳文様」と呼ばれ当時めちゃくちゃ流行ったデザインなのですが、当の本人は自身の絵を文様にすることを許していなかったため、尾形光琳がデザインした紋ではない(他人が真似て書いたもの)というちょっとややこしい事情があります。
にっこり笑顔に見える中央の上弦の月のようなシルエットは、雄しべ・雌しべの部分をあらわしたもので
こんな革新的なセンスの図案であれば、非公認でも流行してしまうのは頷ける気がします。
ちなみにNolismの梅モチーフ(赤)は左の「梅餅」をベースにしています。
3点ではなく5点で花芯(雌しべ雄しべ)を表した意匠は多くある気がするのですが、すっきりした印象にしたくて3点にしています。
3点で示されるのは松や柊などの実が多い印象なので、この表現はNolismのオリジナルですね。
⑨梅×何か(見立て系)
梅と別のモチーフをかけ合わせた図案。
梅の花を真横から見た「横見梅」という家紋があるのですが、「梅鶴」はそれをベースに愕(がく)の部分を鶴の首から頭に、花びらを翼に見立てた家紋です。
他にも横から見た形を鶴に見立てた家紋は多数あり、よくある紋の変形パターンの一つです。また同じく別の何かに見立る紋で多いのが「蝶」の家紋。今回は載せていませんが梅にも勿論あります。(これも可愛いので是非調べてみてください)
かわいいものが別のかわいいものの姿を模しているなんて可愛くないはずがない!という頭悪そうな感想が率直な気持ちですが、きちんと考察するなら日本古来から様々な分野で発揮されてきた「見立て」の感性が、家紋においても発揮されたということなのだろうと思います。
ちなみに「梅鶴」のあんよが無い「足無し梅鶴」という紋もあるのですが、私は断然足ありのほうが可愛いと思います。ぴょってしてるあんよ。あらぁ~~かわいいあんよねぇ~~ってお正月に合った親戚のおばちゃんテンションで愛でたい。
続きは次記事へ
今回までで、「梅紋」の分類については終了です。
次記事では梅紋について調べていく中で気がついた実際の梅の花との共通点についてなどを書きたいと思っています。
またもや最後に宣伝なのですが、「やきものジュエリーNolism」というブランドで家紋をモチーフにしたアクセサリーを作っているので
家紋ってかわいい!になった方はよろしければショップのほうものぞいてみてくださいね。
▼ やきものジュエリー Nolism https://minne.com/nolism
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是非どうぞよろしくお願いします!!
参考資料
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