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不安があって幸せ

子どもの頃は、遠足でも修学旅行でも「前日の夜に寝つけなくなる」ということはほとんどなかったと、全く寝つけなかった夜の明けに思い出している。

次の日を考えて眠れなかった日なんて、最近だといつのことだっただろうかと記憶を辿る。最初に思い出されたのは、23歳で初めての一人旅、初めての海外渡航をする前の晩。いや、あれは前日のくせにパッキングが全然終わらなかったうえ、突然部屋の模様替えを始めたからだ。

次に思い出したのが、大学院生時代、大学サッカー部のチームの監督をしていた時の、大事な試合の前の日。大体いつも、こんな感じだった気がする。あの頃は、翌日の準備を全部済ませてから、徒歩4分のわかたろうに行って、少しのお酒と若葉さんの卵焼きを食べて、眠れない夜を越していた。


・・・


昨日も割と長い1日だったから体は疲れているはずで、いつもならぎりぎりシャワーを浴びれるかどうかで眠りこけているような状態なのに、昨夜は目が冴えていて眠りにつけなかった。眠れたと思ってもこまめに目が覚めて、挙句こんな早朝にPCに向かって文字を打っている。


今日から会社で、自分が立案・企画した事業が始まる。この先の運営もほとんど自分に委ねられている、その最初の1日。

自分と同じくらいの年齢だと、友人の多くは会社で新規事業を任されたり、何かのマネージャーやチーフになったりした経験もあるだろうし、なんなら起業している友達だって多い。

でも、社会人歴たったの2年目のひよっこにとってこれは、貴重な初体験だ。

もちろんサッカーの指導をしたり、イベントをしたりという経験はあるのだけど、今日から始まるのは少し毛色が違うと思っている。


「ちゃんと周りの人や来てくれる人が喜んでくれて、自分の力も活かせて、そのうえちゃんと経済が巡る(収益が立つ)ように考えたもの」をサービスとして自分で売るのは初めてになる。

初めてすぎて、イベント初回に漕ぎつけるのに本当にたくさんの人の力をお借りした。感謝しかない。


実はこれまでサッカーでも、それ以外の例えば地域活動でも、利益を出すことをちゃんと考えて何かをやったことはなかった。

学生組織だったため収支を合わす必要があったとか、このイベントは趣味だから収益は度外視してやっていると、自分自身や周りに言ってみたりだとか。

決して嘘じゃないのだけど、それらだって本気で考えればビジネスとして可能性がないわけではなかったはずで、でもそれは自分の役目ではない気がしていた。


きっと、自信がないんだと思う。

「自分がつくる何か」に市場の原理が働いて、それに価値を見出した方が(こちらが収益を出せるだけの)対価をお金として出してくれるという、その自信のなさがあったんだと思う。


「きっとマネタイズが苦手だよね」とベンチャー企業の社長に話してすぐに見抜かれたこともあるし、お金を稼ぐ仕組みを考えるのが得意でないのはとても自覚していて、でも、こういうものがあればみんな喜んだり、価値になるんじゃないかと思うことはしばしばあったりする。

ただ、本当にそれでお金の動きをつくっていけるのかというところまで思考が行ったら、その規模でやるのはちょっと難しいかもという結論に至ったりしてきた。


ぜんぶ、ぜんぶ、自信がないからだ。不安だからだ。



そういえば、不安にまつわる話を最近聞いた。


・・・



広告業界にいたりものを書いたりする3人、田中泰延さん・ 前田将多さん・上田 豪さんによる高円寺からのYoutube配信が6月上旬にあって

募集した質問に3人で、時にゲストを交えながら回答していくのだけど、その中の一つにこういうものがあった。

先日、前田さんのところの寅ちゃん(猫)がこんなことを言ってました。

「15才で聴いた音楽の
16才で観た映画の
17才で読んだ本の
18才でした旅の
あの感動を追体験したいという欲求に
男は一生振り回されるということだ」
https://twitter.com/monthly_shota/status/1305158396618788865?s=21

そこでお三方に質問です。あの感動を追体験したいという欲求に駆られるような体験を教えてください。


それに答える形で前田さんが語ったのが、18歳で大学進学のためアメリカに渡った最初の日のこと。誰ひとり知らない、言葉も通じないアメリカの空港で、待ち合わせた学校関係者が来なかったり、ようやく迎えにきたと思ったら車に乗せられて1−2時間ずっと揺られたりした。「俺、どうなるんやろう」と不安な気持ちを抱えて、日本では見ることができないほど広大なコーン畑を車窓から眺めていた。

「あの不安な気持ちというか、あの未熟な気持ちというか。あれはもう、味わえないのかなあって。」

応じて田中さん。

「みんなやっぱり、あの不安で未熟で若かった、先が見えない自分を、もう1回体験したいというのはあるね」
「あの、ここからどうなるかわからないけど無限に可能性がある、でも手にはまだなんにもないっていう、あの感じには戻ってみたいよね」


思い出していたのは、初めてヨーロッパ一人旅をしたあの3週間。初めての国、街で、拙い英語やドイツ語でなんとかコミュニケーションをとって、電車の乗り方を聞いていたあの旅の時間。

思い出していたのは、大学サッカー部で自分のチームの最上級生を、なんとか勝たせてやりたいと思っていたあの試合。

前の晩に、最高の日になる期待と一緒に、どうなるかわからない、良くないことも起きるかもしれないというあの不安を抱えて寝付けなかったあの時間に、いつか戻りたいかと言われれば、たしかにあの感覚は忘れられないものだ。

あれはきっと不安だから眠れなかったのではなくて、期待と不安が入り混じるあの感じに、ドキドキと興奮しているのだと思う。

きっと遠足だって修学旅行だって、自分は不安がなかったのだと思う。楽しい期待ばかりがあって、だから興奮して眠れないなんてことはなかったのだ。


記憶を辿っている間に、田中さんが続けて話していた。

「可能性だけあって、何もなくて不安な時っていうのは、自分の人生の中でずっと魅力的なんだろうね」
「不安があるってことは、幸せかもしんないね」


いま、「今日から楽しいことが始まるぞ」という期待感と一緒に、やっぱり不安が大きい。不安ばっかりだ。集まってくれた人を1人も取り残さず楽しい時間を作れるだろうかとか、全然盛り上がらなかったらどうしようとか、準備不足なことがあったらとか。寝不足なのでコンディションも良くない。


ただ、いま味わっているこの入り混じった感じは「悪くないな」と思えている。きっと将来「あの時の自分は未熟だったなあ。願わくば、戻ってみたいなあ。」と思えるだろうポイントにいま、立っている感じがする。


不安があって、幸せな時間に立っている気がする。



・・・


もうひとつ、思い出した話がある。

尊敬してやまない合同会社Staylink共同代表の柴田涼平さんの著書、『Guest House wayaができるまで』の中にあるエピソード。

ついにwayaが正式オープンしたその日、はじめてのゲストから頂いた宿泊料3千円を仲間で見て、「俺らが作り上げた場所で売上げた最初のお金だね」と笑みが溢れた瞬間。


彼らは会社から作っていて、僕は今いる会社の一事業を始めるにすぎないけれど、

彼らは(本当に!)長く怒涛の日々を費やしていて、僕は環境の助けが大きくて(すでにある程度の仕組みはあって)彼らに比べれば随分楽をしているけれど、


僕は今日、彼らがその日受け取ったのと同じ「最初のお金」をいただくことになるのだと思う。

もしかすると、その時に僕は、憧れの人たちにちょっと近づいた気持ちになれるのかもしれない。

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