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栃木戦レビュー~高い組織力を持つ相手に見せた脆さと進化~

案の定タフな戦いとなった一戦

5連戦の最終戦、平均わずか0.7で最小失点を誇る栃木相手に1-1のドロー。同じシステム、似たスタイル、悪天候とタフな戦いになるような条件が揃っていたが、劣勢になりながらもこれまでに感じられなかった戦う姿勢はひとまず見せることができていたか。

90分間強度が高かった相手に課題が見えるのは当然のことであり、去年田坂監督解任の危機もありながらそれを乗り越えて降格を回避した背景をもつ相手チームの継続性や戦う姿勢は山雅も見習っていかねばならない。

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~素人採点~

<松本>

村山 7.0
序盤の失点、不安定なピッチコンディションでも落ち着いて対処。後ろが安定するとゲーム全体が引き締まるというのはまさにこのこと。

大野 6.5
見えるものが増えてきてるというコメントも納得。フィジカルで相手を吹き飛ばしてボールを奪うシーンも。ビルドアップで左も扱えたら尚よし。

乾 7.0
山雅にきてベストゲームでは。元々得点力はあるほうで、セットプレーのターゲットとしても期待したい。

鈴木 6.0
落ち着きがあって最終ラインの繋ぎは安定する。セルジ杉本とのバランスを考慮した結果だろうがもう少し裏のスペースを意識した方が上手く回るかも。

前 5.5
全体的にコーナーフラッグ付近で孤立するシーンが多かったが阪野と2人の関係性で突破しかけたシーンは良かった。山口戦も踏まえると右で使いたい……。

藤田 5.5
1点目は藤田の位置からではだいぶ遠く対処は難しいか、シュートに関してはGKと山本の勝負だったと思う。また、山口戦に続いて繋ぎには積極性を見せる。が、相手陣内では少し狙われてる感も。

塚川 6.0
DHがいかに+1を作れるかはミラーゲームではポイントになるがその点ではやはり抜けている。空中戦を考えてもやはり残しておきたい選手ではあった。

杉本 6.5
プレー選択も正確で守備にも献身的、山雅において最も優等生なアタッカー。前進は見えてきてるとはいえ、再現性という意味では杉本がいるおかげで成立してる感は否めない。

セルジ 6.5
守備においてもかなり自由にやっているのは気になる点だが、余りあるほどの貢献度を見せているのもまた事実。SHはゾーンで対応することが多いので自由と規律のバランスはもう一考必要かもしれない。

阪野 6.0
ボールを受ける際に2トップの関係を考えながらプレーしたとのことだが、まだまだ途上。ジャエルの受けるスペースを作り出した後にさらに自分も生きるような動きができれば……。

ジャエル 6.5
185㎝超のCBコンビに対しても想像以上に競り勝てていた。味方と生かし、生かされながら、ゴールに迫りたい様子は見れたがまだ今一つ。セルジ・杉本といい関係を築けそうな予感はある。

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(途中出場)

米原 6.0
どちらかというと得意な展開ではなかったと思うが、穴になることなくプレー。藤田とのコンビの時には前にもう少し顔を出していきたい。

髙木利 5.5
試合にはうまくはいれていたが見せ場はつくれず。攻撃的なSBでいる以上そろそろ結果は残していきたい。

服部 5.5
上には強い。(狙ったのかは分からないが)山口戦のようにもう少しはっきりとベクトルをつけられたら……

布監督
塚川の交代、交代枠2枚残しは正直違和感があった。出しそびれたという様子もなく、これまでの布監督の傾向から見ても違和感はあったのでコンディション面でもしかしたらこちら側から見えない問題・不安点があったのかもしれない。ここについてはこちら側は憶測でしか語れないだろう。
セットプレーについては(田坂監督のコメントの裏を返せば)怖さを出せていたので布監督、始め分析スタッフのスカウティングのもと、準備を多めにしてきたのかもしれない。問題点、修正については後述。

<栃木>

早々に先制点。こちらの立ち上がりの緩さはあったが、局面的に見ると山雅側のミスというよりは(試合に出る以上侮っていたわけではないが)去年は関西一部リーグ、今季まだ通算で2本しかシュートを打っていないにも関わらずあの早い時間であのシュートを決めることができた山本簾の勝負強さが出たゴールだった。生え抜き選手があそこで初ゴールを決めたのはサポとしては熱かったはず……これは羨ましい笑
栃木は今年のJ2の流れに逆行する、ある意味そういうチームの天敵となるような研ぎ澄まされたサッカーをしているが、山雅側がそれに合わせたような形をとる展開が続き、やりづらさも感じたかもしれない。しかし、それでも内容的に上回っていたのは栃木で、昨季からの確かな積み上げを感じられる手ごわさだった。

~戦評~

■ボールを支配せず試合を支配する栃木の強さ

プレビューを書くことが出来なかったので、この試合にも出ていたような今年の栃木の強さについてまずは触れておきたい。

ここまでのデータによるとボール支配率は平均38%と激低、パス数も最下位。山雅が言えたことではないがかなり低い。この日程においてはこのスタイルは不利ではないか?という懸念もJ全体では聞かれるが、どことやる時もデュエルや走力で負けることはほぼない。結果もむしろ下位に沈んでいた去年と比べると大きく飛躍している。

スタイルを具体的に紐解いていくと主体となるのは激しいハイプレスからのショートカウンターだが、それを貫ける要因となっているのはCB陣。今季先発している田代、高杉、柳、井出は全員180cm代。前線がプレスをかけると相手はそれを裏返すためにロングボールを入れるのがセオリーとなってくるが、なぜそれでもスタイルを崩さずにいれるかというとCBがとにかく安定してこのボールを跳ね返えせる。なので最悪ロングボールを蹴られることになっても1発で裏を取られるような上質なボールを蹴らせなければOKという前線との信頼関係ができているのだろう。

山雅も一発で裏を狙うロングボールは狙ってはいたが後ろはスムーズにボールを回して、狙いを定めて、精度の高いボールを蹴るという一連の時間と精度が今一つで、田代・柳の山を超えることができず。前線2枚が劣勢ながら粘ってくれてなんとか攻撃はできていた。

また競り合いに強いCBに加え、その前のDHにも佐藤祥、岩間ら回収と奪取に長けたタイプを揃えるなど選手構成の段階でクラブとして狙いを持てている点も素晴らしい。昨季は模索のシーズンになったがその反省を踏まえてチームの最大値を引き出している田坂監督だけでなく、一貫したチーム構成も見習わなければならない。

■失点シーンより問題だった前半の左の穴

さて、ここからは今日の試合内容について。
(先程も書いたが)1点目のシュートに関しては失点前は前の中途半端な処理、乾の安易な撤退、塚川と前の受け渡しと細かいミスが連続したとはいえ、試合の入りによく起こる出会い頭の失点というのは少しだけある。まあ、これだけ細かなミスが続いてるのは問題ともいえるが、局面的な問題というよりはふわっとした試合の入り方の問題な気はする。

また、この試合で問題に感じたのはどちらかというとその後の守備組織の穴。(或いは1点目でもうすでに構造上の問題が垣間見えていたような感じもある)優先して修正していかなければならないのはこっちのほうだったと感じた。

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その問題に栃木は早々に気づく。元々ボール保持にはそれほど積極的ではないチームだが山雅が抱える1つの穴から攻撃のルートを導き出していた。山雅サポの方々には恐らく言うまでもないがその穴とはセルジのところ。

察するに、布監督自身もそれを気づいた上でジャエル阪野を同時起用するとセルジをサイドに置くしかないということで起用していたのだろう。周りが44ブロックを形成する中で完全に2トップの1角、もしくは反町時代の2シャドーのような「とりあえずボールホルダーに2度追い、3度追いする」ような追い方で、試合前に仕込めていないのは明らかであった。

ここについては(Twitterでも触れたが)過密で十分に実戦形式のトレーニングができないのが半分、反町さんとの考え方の違い半分だと考察している⇩

なので、(監督の仕事として仕込んでから試合させるに越したことはないが)目の前の現象として非常に見てられないような無秩序なシーンであってもある程度織り込み済み。選手起用の幅を広げる・実戦の中で修正させる意図や苦しいチーム事情も汲みつつ、選手や監督には今後のプラスにしてもらうことを期待するしかない。

■そこを突く栃木の狙い

再び試合の話に戻る。栃木は山雅が最優先で縦に早い攻撃を消しに来ていたこともあって、先程のセルジサイドのルートからの攻略にかかる。

守備

⇧精力的なプレスをかけるセルジだが、守備をしっかりやっている感はあっても組織としては守れていないのが正直なところで、栃木側の右サイドの選手はあえて前方に位置を取らず、常にセルジを中に入れた状態で3枚で回せる位置を確保。塚川、前がついていくという方法もあるが、それは自分の担当ゾーンを空けることになる。そうしてしばらくセルジをいなした後、付いてこなくなるのを確認するとサイド2枚とDHの計3枚でこちらの前、塚川のサイドを崩しにかかるという攻め方をしてくる

守備2

いくらゾーンといえど2対3で数的優位を作られているので全体が撤退せざるをえず、無理にボールを奪おうにも数的不利でズレた場所から剥がされるという守備の欠陥が起きてしまっていた。

これに関しては後半は修正が加えられていたため多少はマシにはなったが、もちろんセルジが悪い訳ではなく、周りの選手が悪い訳でもなく、(ここは賛否が分かれて当然だが)布監督が悪いとも一概には言えない。

どこのチームにも共通してる過密日程の問題以外にも、選手を固定できない、もっというとセルジや前、鈴木のようにポジションも固定できないという事情がある以上、方法論としてこうした問題は出てきてしまうので、問題が出たから悪いではなく、その問題に対していかに早く正確に修正するのかが勝負になってくるのだと思う。

■この5連戦で確立した形

このように守備の問題点が明らかだったので全体のバランスも悪くなり、ポジトラ→再現性のある攻撃の形はなかなか作れていないことが多かったがこの5連戦の成果ともいえる良い崩しのシーンも出てくる。栃木のプレッシャー、プレスバックも早かったことを考えると今シーズンベスト級の自陣からの攻撃だったのではないか。

それは13分40秒くらいからのシーン。

ビルドアップ

⇧前からの縦パスを収めたジャエルが塚川に落とし、セルジに展開。ここでセルジがテクニックを見せて一人を剥がしたが塚川の動き直しで貰いに行っていたことがフェイントに効いていた。

ビルドアップ2

⇧ドリブルするセルジのボールを足元に貰ったジャエルがタメを作って西谷岩間の両DHを引き付け、セルジに再びリターン。最終ライン-DH間を完全に攻略し、逆SHの杉本にパス。

ビルドアップ3

⇧そこから右SB鈴木にほぼフリーでボールが入りクロス。鈴木のクロス自体は猛スピードで上がってくる藤田を狙ったのかもしれないが大外で長時間フリーになっていたジャエルが戻りながらのシュートを打った。

惜しくも弾かれたが、中の阪野、杉本、藤田の人数のかけ方、大外を回るジャエル、そのジャエルをフリーにするセルジの動きとクロスへの入り方もかなり上質。自陣の前からジャエルのシュートまでほぼ無駄がない。鈴木のクロスがジャエルより前方にあげられればというシーンである。

栃木の守備対応も悪くなく、それぞれの技術・好判断が出ていた連携シーンだったのでこの崩し自体はJ2のほとんどのチームには通用するはず。これに近い狙いはこの5連戦では見れたが最も良い形が最終戦に出たのは進歩を感じる、クオリティを高めて再現できるようにしていきたい。

■サイドの2つの問題点が出た1シーン

そしてこの試合の終盤で、いい形ができそうなのにも関わらず、うまく攻めきれない、この試合のサイドの問題点が浮き彫りとなったシーンがあった。

それは85分。

攻め

セルジ・鈴木でボールを回しているがどちらも決定打を見いだせず、フォローに来た藤田に戻したがここからのボールが阪野や服部まで届かず、カウンターを食らうことに。そこから再び守りの時間帯となる。

・SBにマルチロールを置く効果と弊害

まず、この試合はSBの右に鈴木、左に前というマルチロールの2枚を置いたことにより、最終ライン-DHの繋ぎは安定し、サイドから使う側としても使われる側としても違いを生み出せるという効果は試合を通して出ていた。

ただ、この攻撃はどちらかというとこの「できることの多さ」がマイナスにも繋がっていたシーンである。このシーンを生んだ鈴木・セルジ、さらに前、杉本を加えたサイドの組み合わせだが、できることが多い一方、どちらが使うか使われるかについては2人のフィーリングが問われる。

問題のシーンではセルジ・鈴木がどちらも「自分が勝負に出る」というよりは「相手にいい形で勝負させたい」というような立ち回りに見えた。実際、セルジと鈴木でどちらのほうが勝負に適しているかは見ている側としてもイメージが難しい、よく言えばどちらも勝負できる。

このシーンに限らず、チャンスメイカーとなる選手(セルジ・杉本ら)+マルチロールの選手(前・鈴木)の組み合わせになる際は特にどちらが使う側になるのか?使われる側になるのか?を瞬時に判断していく必要がある。これはやり続けて相互理解を高めるか、相手を信じてどちらかが大きなアクションを起こす意識が欲しいところ。

・DHがどう3人目になるか

もし、2対2でいい形で勝負できないと判断するのならばもう1人加えて3対2の数的優位を作る、もしくは3対3にすることができればサイドを攻略できる確率は上がっていた。2人では「パスを出す選手」と「受ける選手」という関係性しかできないが3人になることでさらに相手を崩すキーとなる「第3の動きをする選手」を創り出すことができる。山雅はここの動きが非常に量質ともに足りていない。

問題のシーンでどう3人目を作るか。前線でボールに近いのは服部。しかし、終盤という時間帯もあり、服部がサイドに流れるというのはあまり効果的ではない。そのためDHの藤田がフォローの仕方が重要になってくるが、良く言えばプレッシャーの無い場所、悪く言えば相手も怖くない場所にいたため、崩そうとするには距離感が遠く、逆サイドに展開するにしてもポジショニングが適切ではなかった。このフォローの仕方は山雅が攻撃に人数がかけられていない原因でもある。

・具体的にどうすればよかったか

では、指摘をしたシーンではどのようなポジショニングを取るべきだったか。

①サイドを崩す場合
藤田がセルジを追い越す、もしくは三角形を作れるような場所に走りこむという手が1つ。2トップの一角まで守備に回っている相手に対して藤田がセルジや鈴木のほぼ真後ろで待っているのは全く怖さがない。矢野もこちらのDHを消しに来ていたので真後ろはCBに任せて前線に人数を変えていくべきである。

攻め2

②逆サイドに展開する場合
片方のサイドに寄せていたので逆の左に展開するという方法もあった。その場合、フォローの入り方もサイドレーンではなく、ハーフスペースでするべきである。

攻め3

相手はこちらの2枚に対して5枚でゴール前を固めていた。中央での繋ぎのルートも確実にあったはず。わざわざ固めているゴール前に無理して放り込みを行う必要はなかった。

このようにサイドレーンに1列になるようにポジションを取ってしまったことで前か後ろにしか選択肢がなく、(相手は当然前を消してくるので)後ろに下げるか無理矢理放るしかないという終わり方をしてしまう。疲れてくる時間帯ではあるが、フォローに行くときに「勇気」と「その後のビジョン」を持ったポジショニングをすることで後ろ向きではない、人数をかけた攻撃を行いたい。

■次の連戦に向けて

さて、この連戦でも1勝2分け2敗と勝ち越すことはできなかった。

が、できることが徐々に増えてきた連戦でもあったように感じる。実際、この5連戦では選手のコメントや5得点7失点(前回は4得点10失点)という得失点数からも徐々にチャレンジが形になりつつあることは明らか。

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「守備の組織」「ビルドアップ」が安定してくれば攻撃にも着手していけるため、次の連戦ではそろそろこのあたりも向上していけるかには注目したい。選手のメンタル的にも改善の兆しはあるので、懸念点はやはり怪我・コンディション面か。ここで今の状態がリセットされるのは非常にもったいない。

試合をやっていくうえで付きものではあるが、必要のない怪我や疲労を避けるためにも守備でも攻撃でも個人が無理しなくてもいいような展開を作り、1人1人が自覚を持ちながらチームの総合力を見せていきたい。

そろそろサポーターも後押しできる環境に戻りつつある。その際は時に温かく、時に厳しく、チームのプラスになるようなサポーターとしての後押しをしていきたい。

END



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