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長崎戦レビュー~阪野、テグを噛む。まだ死んでいなかった山雅~

スタジアムに拍手が戻ってきたホーム長崎戦。「サポーターが思ってる以上に力になる」と話してくれた選手もいたが……DAZN越しにもその勢いやこれまでとの雰囲気の違いは感じられるほどであった。

その後押しが同点に結びついた要因になったのかは正確には分からないが、選手はスタジアムが一体になるには十分なほどの熱い戦い・意地をピッチで見せてくれた。

2点目を取って戦況をひっくり返したのであれば勝ちたい試合であったのは正直な気持ちだが、442で長崎に挑むというかなりハイリスクなプランで、早々に失点してしまう悪癖を晒しながらも最終的には勝ち点1以上のリターンは得られたのではないか。

……まあ、ジャエルを失ったのは痛いが。

とはいえ、順位表を見ても「ここで引き分けてOK」と言ってられる順位ではない。両監督の意図・狙いも踏まえながら分析し、次の試合に繋げていきたい。

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〜素人採点〜

<松本>

村山 6.5
こうしたテンションの高い試合でビックセーブを連発できるのはこの漢の魅力。2失点はあったが最小失点で切り抜けた。

大野 5.5
1点目は自責とまではいかないが改善点をあげるとしたら大野のところで完全に入れ替わられたのは痛かった。ただ完全に戦力にはなっている。

乾 6.0
CBを固定するようになったためか連携ミスや不安定なポジショニングが改善。橋内森下が戻ってくればいい意味で争いが激化するかも。

鈴木 6.5
突破を試みたところで対面の亀川に蓋をされるシーンも多かったがクロスからの1アシストで結果を残す。やはりSBとFWの関係性は布サッカーでは鍵を握る。

高木利 5.5
守備ではしっかりポジションに戻り、攻撃でも上下動を繰り返す運動"量"は助かるがそこから"質"を上げられるかが課題。

藤田 6.0
高い位置でのプレスや前線への飛び出しなど積極性を見せる。パス回しも以前より余裕が感じられた。

米原 6.5
特に守備面で成長著しい。プレスをかける際に4132気味になり、1の米原は下りてくるルアンに構造上苦労はしたが個人で破綻することはなかった。

久保田 5.5
「SBへのプレス」「中締め」「裏ケア」と守備だけでもタスクが多い中で攻撃でも落ち着きどころに。その後活躍を残した中美にうまくリレーした。

杉本 6.0
久保田と同じくタスクが多く、なかなか攻撃にエネルギーを使えなかった。しかし、試合の中での貢献度は言わずもがな。逆サイドにも頻繁にボールを供給した。

セルジ 5.5
いい時のセルジを基準に考えると今日は精彩を欠き、パスもトラップも乱れがちだった。ジャエルともう少し連携が取れてくると面白くなってくる。

ジャエル 6.0
とにかく収まる、その後の落としやスルーパスが合ってくればチームとしての攻撃力も劇的に上がりそう。退場は気の毒な部分もあるが余計だった。

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(途中出場)

アウグスト 5.5
投入後即目の前で打たれて失点と試合に入るのが難しい展開となったが強い気持ちを見せ続け、中盤でファイトした。

阪野 7.5
チームを救う2得点。いい形を作れれば2分で2得点できる力はある。ジャエルからのパスを決め、ハットトリックができれば山雅の伝説になっていただろう笑

常田 5.5
緊急出場。オープンな展開の中で緊急出場とDF泣かせではあったが投入後は何とか無失点で乗り切った。得点の直前が顕著だが、常田が入ることでパス距離は伸びた。

中美 7.0
逆転の影の立役者。阪野にも共通するが、ベンチからよく観察・分析していたのも投入後の結果につながったと思う。外した分はこれから取り戻してほしい。

布監督
米原をDF登録にしていたあたり「3バックの方が相手は嫌なイメージがある」という前提があっての駆け引きなはず。その上であえて自分たちの良さが出せている442を選択。対2位とは思えない強気の采配だが、それによりチームはさらに自信を深めることに成功。
ただ試合を思い返すと口酸っぱく言っているという序盤の失点癖がなかなか治らないことがこれまでのように首を絞める。すぐに、完璧に直せれば苦労はないが、連続で続くような事態は避けたい。
その後の修正はさすが。形・選手の特徴が変わっていく相手に対して適切な対抗策を打ち続けたことが勝利につながった。

<長崎>

今日のところは追いつかれて引き分けたが、個性の強さ、若手・中堅・ベテラン・外国人のバランス、戦術の幅はさすが上位チーム。前半で追加点を取るor激変の70分台の「3点目を取りにいく」という監督の意志がピッチで体現できていれば山雅は後の連戦にも響くかなりのダメージを受けていたはず。イバルボをだしてきた時は「そこまで追い詰めようとしないでも……」と正直感じたが、こちら側からすると最大のピンチともいえる采配により長崎側の最大の弱点も曝け出されることになった。限りなく結果論に近いようなわずかな差だったかもしれないが2点差ということを考慮すればより堅実なのは……。

~戦評~

■失点により生まれたプラン変更

事前に長崎のことを勉強していくうちに3バック(5バック)のほうが守りやすいという印象は受けていた。が、同時に4バックを継続するような雰囲気が山雅側からは出ていた。

ならば、どう4バックで強力な長崎の攻撃を抑えるか……という話になってくる。2失点はしたが、ここに関してはスタートラインの整理、連携の取りやすいSHのチョイス、セルジのFW、米原のDF登録などできることは最低限やってきたように感じる。

当初の守り方としては3142でビルドアップする相手に対して2トップがカイオセザールを挟むようにセット、センターサークルに差し掛かるくらいでプレッシャーをかけるという自陣を固めるような配置

序盤

攻撃のスタート位置が低くなりすぎるという問題を抱えていた時期もあったが、ジャエルセルジ中心に足元の技術のある選手を揃え、ロングボール一辺倒にならないように押し返していくという考え方だったはず

しかし、そのプランは早々に砕ける。

失点したことにより、ゴールに近い位置で奪うために前から圧力をかけたい2トップと当初のプランで動く後ろの選手でズレができ始める。その折衷案として布監督もしきりに「カバーシャドウ(背後の選手を消しながら守ること)しながらのプレス」を指示していたが、2トップへの細部の指示は後ろの選手がするしかなく、その声がけがあったとは言い難い。カイオが動けばすぐに2vs4が出来上がってしまうため、頻繁にエラーが生じていた⬇

序盤2

■給水後に行った修正とそれを上回る長崎の幅広さ

そこで給水タイムに守り方をさらに整理。「選手任せ」と言われがちだが布監督のここでの修正はかなり明確で、戦局が変わることはこれまでも何度もあった。

飲水後

⬆ジャエルセルジは相手の最終ラインに集中するようになり、プレス速度が上がる。そして、それまで空いていたカイオは藤田が捕まえているので薄くなった後ろへのロングボールorGKへのバックパスが増えていく。畑や富樫、玉田へのロングボールに対しては試合を通して後ろが上手く対応できていた。

しかし、さらにゲーム中に攻め方を変えられるのが長崎の練度の高さであり、経験の差。再び2422のような2DHの形になってビルドアップルートを確保。さらにルアンが入ってからは2421+1フリーマンのような形を取ってきてこの試合最大の混乱の時間帯となる

飲水後3

この超強力カード・ルアンがこの時間に切ったことは手倉森監督も述べていたように長崎側の誤算でもあり、山雅側の誤算でもあったことを考えると「ここで2点目を取られなかったこと」「長崎もそれほど圧力をかけてこなかったこと」、要は1-0でお互いOK展開としたのがこの試合の1つ目の大きな分岐点だった。

■ギアをあげた後半

後半頭

そして、山雅は後半もこの前からのプレス、カイオ潰しは継続。変わったのは最終ラインが勇気を持ってラインを高くすることでルアンの使う"間"を圧縮したことと逆SHが対面のDHに規制をかけるようになったこと。このリスク覚悟の前プレでピンチになることもあったがプレーエリアはだいぶ高く取れたと思う。試合はかなりオープンになった。

■ルアンのビューティフルゴール

だが、後半も先に点を取ったのは長崎だった。交代直後とあってアウグストとしては難しい対応になったと思う。

確かに結果としてはルアンにゴールは許したが局面的に見るとルアン・カイオと1対2になっているシーンであり、奪いに行くのは難しい。あそこでカイオに出されるとより侵入されてシュートを打たれる危険性も出てくるので、(欲を言えばもう数歩詰めたかったが)出れなかった心情も分かる。

もし、詰めさせるならその後ろの選手たち。前節栃木戦もそうだがあの局面でアウグストが後ろを確認している余裕はない。カイオのマークを貰えた米原かキーパーの村山が声をかけて詰めさせるのが親切だった。

■勝負を分けた70分からの交代

そして、もう1つの分岐点が70分からの両チームの交代によるピッチの変化。そこまでは最前線で献身性を見せる富樫を先頭にオーガナイズされた守備を見せていた長崎⬇

組み立て

するとここで「3点目を取ってトドメを刺すために」イバルボを投入。それを見た布監督も攻め時と言わんばかりにこの交替の直後に中美を投入、攻撃のギアを入れる。攻撃の時には脅威になっていたイバルボだが守備の時には圧力はほぼ皆無。セルジ、中美、米原を中心に左右に振ることで徐々に長崎にもズレが生じる。

組み立て2

⬆そして、1点目のシーン。セルジが下がってボールを米原に展開した時に澤田がプレッシャーをかけにきたが、恐らくここはイバルボのゾーン。それを見逃さなかった米原はほぼ真後ろの中美にワンタッチで流す。ここでの視野の確保、少ないタッチで入れる技術、発想が秀逸だった。もちろんその後の中美のラストパスもベストな強さとタイミングだったが、中美は本来出し手としても受け手としてJ2では上位に位置する選手である。怪我の再発にさえ気をつけていればこれからも出番は多くあるはずだ。

この中美の投入により、圧倒的な個を持つイバルボの投入を上手く利用した形になったが、実際長崎側もあと1歩で得点・PK獲得というシーンは作れていたので一概に采配ミスとはこちらからは言えない。プレビューにも書いた「長崎は強烈な外国人がいる一方、手倉森監督のチームとは思えないほど守備の穴になることもあるのでそこから切り崩していくというのは戦い方としては有効」と言うのが山雅の監督・分析チームの中にもあったことが何より大きいだろう。

そこに中美、阪野ら苦労してきた選手の躍動とまたアルウィンの観衆が上手く重なって生まれたこの同点劇は今後のホームゲームにむけて明るい希望を与えるものになるはずだ。

■徐々に90分戦えるチームに

そして、終盤。最終的に勝ち越すことは出来ず、刺しきれないことに物足りなさは感じたが、ハイプレスやサンドバッグ展開による息切れはなくなりつつあり、「どの時間でも最低限プレスをかけ、最低限攻めにも力を使える」状態に近づいてきた。

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また失点1.0以下の徳島、栃木、福岡、京都、北九州、長崎のいずれからも得点を上げることが出来ている。逆にどこが相手でも容易に失点してしまう"安さ"さえ無くせればどこが相手でも勝ち点3を取れる希望も出てくるはずだ。言葉で言うほど簡単なことではないがチーム作りもここからは継続・積み上げに舵を切っていける。 

諦めなければ何かが起こるのはリーグ戦でも同じことで、数字的な難しさはあってもチームと共に最後まで足掻いて戦い切りたいと思う。

この上昇気流にうまく乗り、いい形で後半戦に入るためにも次節ホーム琉球戦、勝ち点3で終えたい。

END

(画像は松本山雅公式より)


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