見出し画像

山口戦レビュー~チャレンジの先に歓喜と苦しみと~

まさに両者痛み分けのドロー

ATに両チームが点を奪い合い、2-2という激的な幕切れとなったアウェイレノファ山口戦。一概に良かったとも悪かったとも言えないような動きも要素も多い試合だったが、チームのコメントを聞いていても1サポとしても非常に悔しさの残る試合に感じる。

画像10

前節勝ったことでその勢いを続けたかったという意識は強くあったし、ここで勝つことができていればチームとしても大きな成果を得ることができただろう。その勢いを自ら手放すような形になったことが悔しさを助長させているのかもしれないが、この悔しさは次節以降で晴らすしかない。

試合を重ねていくうちに選手たち1人1人に自覚が芽生えてきているようなコメントも見られるようになり、主に若手選手が個々でできることも徐々に増えてきている。基本メンバーが固まっていないこともあって連携面はまだ時間がかかりそうだが、チームの底上げは少しずつ進んでいる。

~素人採点~

<松本>

村山 6.0
今日もDF陣を引き締める。大きなエラーはなかったが、保持時にはもう少し積極的につなげたい。

乾 6.5
もう少しタイトにいきたい場面もあったが、本人が関与してないセットプレー以外での失点0は良い成果。バタバタ感もなく、加入してからベストのパフォーマンスだったかもしれない。

大野 6.0
本人の成長+今のライン設定は長所のスピードが出やすいかもしれない。2失点目のような高さの勝負に持ち込まれた時にどれだけ軸をぶらせるかがこの試合にでた課題。

前 6.5
まだフルコンディションではないが、劣勢に立たされていた前半でも攻守で効いていた。前半40分にロングフィードを使ってアウグストと二人で右サイドを攻略したような攻撃が本来の「ロングボール戦術」だろう。

髙木利 6.0
久保田・ジャエルとの連係ミスもありながらも積極的な攻め上がりは武器の1つとなっていた。だからこそクロスは最低でも可能性のある場所にあげたい。

藤田 6.5
広いカバー範囲でかなりのピンチの芽を摘んでいた。ボールの受け方や展開は適正的には難しい部分があるが、チャレンジしようという姿勢は見せていた。

塚川 7.5
得点以外にもジャエルへの縦パスやパワフルな突破など試合を通して見せ場は多かった。文句なしのMOMだろう。出場13試合(先発は12試合)で5得点はDHとしてはかなりのハイペース。

アウグスト 5.5
前との連携も良くなってきたところだったので残念な負傷交代になった。奪取力や守備範囲の広さなど山口や東京Vのような相手の時には助けられる一方、右が崩された時はだいたいアウグストが釣りだされていた。

久保田 5.5
前半はリンクマンの役割と守備に翻弄され、怖さはそれほど出せず。杉本が入ってからは負担が軽減されたからかかなりやりやすそうにはしていた。

ジャエル 6.5
攻撃の中心として機能。もう少し周りと息が合ってくればゴールとともにアシスト数も増やせるだろう。そしてフィジカルを生かして相手エリアに侵入、阪野に落としたプレーでジャエルについていたのは80kg近くあるヘニキ。このような中央でのプレーももう少し増やしてもいいのでは。

阪野 5.0
1つのミスで試合を決まってしまうDFは減点式で見られがちだが、決めるべきところを決められなければストライカーにも同じだけ責任はある。この試合はこの試合として次で返してくれることを期待したい。

画像9

(途中出場)

杉本 6.5
途中から出場し、主にミドルサードでの安定・違いをもたらす。チームとしてはもう少しゴール前での仕事をさせたかったが、前での起点ができなくなるにつれてプレーエリアも低くなっていった。

服部 6.0
先ほどの「DFは減点式で見られがち」という話とは対照に最後のアシストで評価を盛り返したが30分の出場とは思えないほど起点作りには苦労した。最終兵器としてではなく、バックアップとして計算するにはもう1つ成長が必要。

セルジ 6.0
霜田監督のコメントに途中投入の選手に警戒する旨のものがあったが、かなり人数をかけて対応されてた印象。相変わらず杉本とは信頼し合ってプレーしているのが見て取れる。

鈴木 5.5
SBでの投入ということもあり、守備からしっかり入っていた。が、2失点目の失点に繋がった、直前のファールは少し軽率ではあったように感じる。

布監督
2トップが離れてしまっていた前半の改善点を修正してくるあたりはさすが。2失点は両方ともセットプレーからというのが残念な点ではあったが、これまでのセットプレーとは違い、マンツー+ゾーンの構造の穴を突かれたという形ではないのでまずはファールを与えないこと、中で各々が対面する相手に自由を与えないことを徹底するしかないだろう。
ただ、ゲーム運びとしては山口の得意とするオープンな展開に合わせてしまうのは明らかに分が悪いように感じ、内容的にも終盤はやや失速感があった。(詳しくは後述)

<山口>

シュート数ほどチャンスが多かったかと言われると微妙だが、ボールを握る時間は長くあり、山雅と同じくきっかけを掴むためにも勝ち切りたかった試合だろう。交代もうまく使えたのは山口側の方だった気がする。
しかし、山雅と同様に流れの中からゴールを決めることができず、ゲーム運びにも課題があったのも事実。理想の形の中に選手を当てはめるという布監督とは違ったアプローチでチーム作りをしているが一長一短であることも感じさせられた。

~戦評~

■前半のパウロ消しとその弊害

前半序盤から見られた左のパウロを起点にして攻めようとする山口VS徹底的にパウロの良さを消そうとする松本の構図。京都戦や徳島戦などこれまでもWB(もしくはWB化するSB)に一発展開されるとスライドが遅れ、撤退せざるを得ないような守備の問題点があったが、それを教訓にしたためか右へのスライドは特に素早く行う改善を見せる。

パウロ消し

⬆それでも1対1が作れれば御の字という山口側だったと思うが、そこからの前貴之の対応が非常に巧みだった。"スピードで縦を突っ切っていく"というよりは"中央の選択肢を持ちながら左右に揺さぶるドリブル"を得意とするパウロに対して、まずは中央のコースを露骨なまでに切り、一発で抜かれないような間合いを取りながら選択肢を狭めていくというサイド対応のお手本のようなDFを披露。

画像11

サイドには2枚もしくは3枚でも対応しきれていないことが多かったDF陣もこの日はほぼ完全に(こちらから見て)右サイドのキーマンを前に任せており、この後パウロがもらえる低い位置まで下りたり、前後を入れ替えたりしても前が対応し続けることを徹底。右SHアウグストも前のマンツー対応に合わせて動いていたことからも準備してきた対応だと思われる。いずれにせよ、パウロのサイドで優位性を作らせなかった前個人の対応はDF全体の安定をもたらしていた。

■それを逆手に取る攻撃と山口が主導権を握ったわけ

しかし、それでも前半の主導権を握っていたのは山口。山雅も個の質で同等に近いチャンスは作り出せていたものの、攻撃の連携や守備でのプレスはいまいちハマっていなかったことを選手も口にしている。その要因の一つは山雅側の2トップの距離感の問題。そしてプレス面で大きかったのは山口側の池上丈二の存在だった。

山口の攻撃の理想としては「3トップに点を取らせる」ということがあり、実際イウリや浮田、高井、蓮もどちらかというとゴール前や個のドリブル突破に長けた選手が起用されることが多いが、池上はどちらかというとチャンスメイカー・パサー型の選手。数的優位を作り出すのを非常に得意としており、この試合でも時折中盤のエリアまで下がってきて、プレビューにも書いた山口の攻撃の「ノッキング」を修正。チャンスメイカーとして違いをもたらしていた。

池上

⬆特に先ほど書いた(相手から見て)左でのパウロ起点の攻撃がうまくいかないと見るとそれを利用した崩しを見せてきたのには苦労させられた。片方のDHが前の裏を突いてこちらのDHを引き付けるとその空いたスペースに池上が下りて中盤で1対2を作り出す。2CBはイウリの対応があるためなかなかついていけず、アウグストも対面のCBが持つとプレスに行くというシンプルなタスクが与えられていたためプレスを無効化する策としては非常に厄介に感じた。

■ビルドアップで違いを見せようとしていたが…

また、山雅側もこれまでとの違いは出していた。試合始まって数分はリスク回避も兼ねてセーフティな対応やロングボールが多かったがこの試合では繋ぐ意識が強く、的を絞らせないような入りを見せる

さらにそれが顕著に出ていたのは藤田のサリーダ(DHが最終ラインに下りて攻撃の入り口になる形)。これまでは主に塚川が下りるようなことはあったが、ボールが回らない、CBが安定しないなどネガティブな理由でそうなることが多かったが。そうしたポジション取りをあまりしない藤田がこの試合では主体的にこの形を作り出そうとしていたことからチームとしてビルドアップへのチャレンジ精神は感じた。

ただし、効果的だったかと言われればまだ今一つといったところか。それがでていたシーンは前半33分~34分頃。

<図1>

ビルドアップ1

⬆藤田がCB間に下りて大野からボールを貰い、逆に経由するも乾よりやや後ろに出してしまい、乾は村山へパス。

<図2>

ビルドアップ4

⬆イウリはそのまま村山にプレスをかけるも落ち着いて塚川→藤田と展開。

<図3>

ビルドアップ3

⬆しかし、ここでルックアップするも押し出されて高い位置を取っていたWBへのパスコースは無く、大野が狙われていることも恐らく見えていたのでアウグストにロングボールを入れることになった。

チャレンジとしては悪くなかったが、相手は完全に奪えると前がかりになっていたため、アウグストがファールを貰ってくれなかったら全体が間延びしていて非常に危ないシーンだったと思う。

画像8

・問題点としては

1つは「ボールの受け方・渡し方」。

図2の時点で(下りてきている塚川は仕方がないが)乾・藤田が視野が確保できていないため次の選択肢が非常に少ない。また大野が藤田と縦並びになり、図3のように視野が非常に確保しづらいポジション取りをしており、最終的に大野を頂点にする31ビルドアップのような形になっていた。

正直、藤田・塚川が最終ラインに入り、大野がアンカーの位置に入る戦術的なメリットは(少なくともこのケースでは)ないと言っていい。最低限視野を取るためにサイドレーンにポジションを取るべきだったし、仮に藤田が大野の背後の敵に気づかずにパスを出していたらさらに危ないシーンになっていたと思う。ここは今後整理していきたい。

またパススピードが遅いのは大前提の問題としてはあるが、次の選手がボールを受けやすい、渡しやすいポジション取りをすることは塚川の「寄り添い合う」というコメントにも繋がってくるだろう。

そして、問題点に話を戻すともう1つは「サリーダを行う戦術的な妥当性」。

山口はこちらの2CBに対して前線を2枚にすることもあったが、基本的にはイウリを頂点にして塚川藤田をシャドーがみるという形を取っていた。図1のシーンではイウリ1枚に対して最終ラインが3枚で回すことになっており、山口の選手がプレスをかけやすいような形になることで最終的に自分たちの首を絞めていたように感じた

最終的にロングボールを蹴らざるをえない状況になったが、村山・藤田・大野・乾と長い距離を繋ぐのには長けていない組み合わせだったことを踏まえても前線との距離ができてしまうのは苦しい。SBやSHが全体が下がって作り直すかDFで剥がしながら運ぶところまでいかなければかえって危険になってしまう。

ビルドアップ6

⬆今日の相手の特徴やプレスのかけ方に合わせるならシャドーカバー(背後の選手へのコース消し)に難があるといわれるイウリに対してCB2枚、あるいはGK入れて3枚で回して、シャドーが前に出にくいような形を取るのがビルドアップとしては理想だったとは感じられた。(図1と比べても数的には変わりない)

ミスが失点に直結し、相手によって形を変えなければいけないので簡単な話ではないが、米原、常田らビルドアップ、フィードに長けた選手も織り交ぜながら徐々にクリアにしていきたい。

■決める時に決めないとやられる

そして、サッカー界の常識だが1点1点が重く、90分の中で流れがはっきりしている中で決める時に決めないとやられるのを改めて実感させられた。確かに簡単なシュートではなかったが、完全に流れができていたことを考えるとあまりに惜しまれる。

2点リードできていれば試合をクローズさせる選択肢もでてきて、そもそも不要なファールを与えるリスクも低くなっていく、セットプレーの確率も減る。守備はよく耐えてきただけに決めて楽にしてあげたかった、逆に山口はこの間を耐えきり、交代カードで完全に息を吹き返すことになっている。

このことに関しては1、2失点目を喫した原因になったと言わざるを得ないが、こうした失敗もプラスに持って行くのが真のストライカーでもある。ここから吹っ切れてチャンスをものにしてくれると信じている。

■オープンな展開は正解だったのか

そして、決める時に決めるということにも繋がってくるが、終盤はどちらも点を取ろうとカウンター合戦のようなオープンな展開になってしまったのは山雅としては悪手だったと思う。

先ほども書いたように村田、高井のように長い距離をドリブルで運べるタイプの選手が投入されたことを考えても、スピード合戦をすれば相手の方が上手。山雅としてはセルジ、杉本を使ってじっくりと陣地を挽回し、ツインタワーを生かすような攻撃をするべきだった。その状況を落ち着かせることができる米原を出すという手もあったが、このあたりは守備を重視したか。

結果としても先に点を取ったのは山口側だったし、山雅側が点を取れたのもパワープレーだったことからもエキサイティングな展開ではあったが、勝ちに徹するならゲーム運びには課題を残した試合となった。気持ちの表れともいえるものの、「点を取ること」と「じっくり攻める」ことを両立できるようにはしていきたい。

画像7

----------------------------------------------------------------

レビューは以上です。

課題も多く見えましたが、新たなことにチャレンジしたからこそ見えた課題が多かったことは今後に向けてポジティブに捉えたいです。今季初の連勝は叶いませんでしたが、「2戦勝ち無し」か「3戦負け無し」かだとチームの士気も大きく変わってくるはず……。

栃木は元コーチの田坂監督、岩間など関係の深い人物も多く、逆にこちらも古巣戦となる選手も多いですが、山形戦のようにそうした選手・監督の前でガッツを見せてもらいたいです!

END



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?