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長崎戦レビュー~多くの学びを得た"先を行くチーム"との対戦~

多くの山雅攻略法を見せてきた相手に喰らいつく

突然ですが、修理中でいつものPCが使えず、いつもに増して読みづらい点があるかもしれません。すいません。(読んでくださっている方からしたら知ったこっちゃない話です……)

そんな記事を書くのにモチベーションダダ下がりの状況でも書こうという活力を与えてくれたのが水曜日の長崎戦。

はっきり言って8割9割長崎の試合であった。いい守備が出来ていたと言っても最後の悪あがきがなければ完敗で終わっていたゲームだっただろう。しかし、そんな試合でも勝ち点1以上の価値のある試合だったようにも感じる。多くの課題と今後に繋がる光明の見えた試合を振り返っていきたい。

~個人的MVP~

個人的チームMVPは杉本。次点は塚川

生観戦ができていれば塚川を即MVPにしていた可能性はあるが、保持時の流れが生まれたのは杉本が入ってから。山雅一の優等生の一面を生かして中盤を支配した。

塚川は運動量の必要なIH(シャドーボランチ)でまたしても終盤に得点力と勝負強さを発揮。今季は何度救われたことか……笑

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~戦評~

■前回対戦の教訓が活きた序盤のプレス

・31ビルドアップをどのように捕まえるか

長崎442と松本352の噛み合わせとなったこの対戦。しかし、ビルドアップ時に長崎は3142のような形を取っていたので「組み立てをしっかり行いたい長崎とそれをプレスで阻止できていた山雅」という構図になった序盤は特に「いかにして31ビルドアップを捕えるか?」というここ数節の442のチームとの対戦とは違う様相となっていた。

噛み合わせ的には31の1(アンカー役)を捕まえるのに前回は「2トップで消しながらプレスをするやり方」と「後ろの1枚が捕まえに行くやり方」を併用していたが、前者だと守ることはできても守備一辺倒になってしまっていたので、今回は前回対戦の反省を踏まえて後者のみでほぼ1試合やりきる⇩

守備

・プレスがハマった要因

メンバーを固定する傾向のある柴田体制で、ジャエルとセルジという2トップに変更したのはもしかしたら前回先発した組み合わせだったのもあったかもしれない。

「ビルドアップで頼ってきた」とまで指揮官が話す高木和ではなく、セービングに長けた徳重を起用したのも大きく影響した。本来であればこちらが前線を3枚で合わせてくる場合は長崎はGKも参加して4枚で回すこともあったが、そこのリスクは極力侵さず、出てきたIHの裏を突くような構築をしてきた。

■数的優位ができるポイントが整理できていた長崎

・確立されたビルドアップの抜け道

序盤はそのプレスの早さからロングボールを使うことも多かった長崎だが、この長崎対策自体は慣れっこで徐々にそこに対する攻略法も使用し始める。

片側のIHが前線までプレスをかけると、3DHのように横一線で守る山雅の中盤は中央の佐藤がカイオを潰しに行くことになる。これがハマっていた時間もあったものの、当然リスクも大きい。その時にSHの名倉・氣田、さらには2トップの1角・玉田が中央のスペースに入っていくので、こちらの2枚に対して常に長崎は数的優位を作り出し、パスコースを作っていく⇩

守備②

氣田や名倉はもちろんだが、厄介だったのはカイオ。あそこに位置する選手の中ではJ2トップクラスのパワーと推進力があるので独力で突破されることもしばしば。数的優位性だけではなく、こうした個の力にも手を焼いた前半であった。

・ハーフスペースを使った山雅攻略法

こちらは前半25分のシーン。この後の失点シーンのように玉田に縦パスを入れられたときに「53ラインを守るのか?IHがついていくのか?」の判断はまだ甘く、塚川がついていた氣田が名倉のパスと同時に抜け出し、大野のところで1VS2を作られている。これまでも似たようなシーンでは3DHはついていかないor追いつかないことが多いので一概に塚川が悪いとも言えないが、誰も抜け出す氣田についていく素振りが無く、少し離れた橋内・前がいち早く対したことで事なきを得た。

守備3

53のブロックはかなり整うようになった一方、スペースを埋めているだけで相手の狙いに対しての柔軟性に関してはまだ課題が残る。ベストメンバーが揃ってからは個のクオリティでやられるようなことは少なくなってきているため、誰かしら構えていれば最低でもシュートコースは消すことができるということが多いが、長崎はそこを突破する個とクオリティを持ったチームだったことからこのシーンと失点シーンはやられても仕方ないような、狙いを持った攻撃になっている。

■問題の得点シーン

得点シーンは玉田のゴラッソ。村山のリアクションからも「あそこからシュートがくるか」と驚くような外れたタイミングからのシュートだったが、玉田があそこで迷いなく振りぬいたのも個人の判断だけではなく、事前にどこに運べばDFに引っかからないかがスカウティングされていたからのように思える⇩

得点

問題だったのは失点の前のシーン。カウンターから2度3度とFW⇔MFでのパス交換が行われており、3DHは完全にプレスのベクトルが定まらず、振り回されている。

直前の局面も、先ほどの25分のシーンのように下りてきた玉田にDFがついていくのかDHがついていくのかがはっきりせず、同じように53ブロックを作ることで完結してしまった感はある。そしてやはり向こうのキーワードとしてあった「数的優位性」である⇩

失点

長崎側の意識として、後ろ5枚で守る山雅に対して「ピッチを広く使ってフリーの人間を作り出す」というよりは「局面局面で数的優位性を作り出して突破する」という意思統一がされていたように思う。たまたま決まったのが玉田のゴラッソであったが、そこまでのプロセスは狙い通りと言ってもいいゴールだった。

■手のひらの上で転がされるような展開

・こちらの出方を見て時間を進める長崎

そこからHTを挟んでこちら側はジャエル→阪野に変更、前線からのプレスがより活性化されるようになる。が、リードしている長崎もリスクをかける組み立ては行う必要はない。肝となる中盤3枚の疲弊で前に出ることができず、相手のミスからのチャンスも前半ほど生まれることはなく、逆にこちらが保持から違いを生みださなくてはいけない時間が続く。

しかし、こちらの31ビルドアップに対して2トップは佐藤の監視を重視。両CBが空くので持ち運ぼうともどちらもそれを得意とするタイプではないので前に進めず。杉本や最前線のセルジが持ち運びに下りてくるという悪い時の山雅のパターンに陥る。

プレス

・柴田監督が下した大きな選択

そこで最後の交代カードで柴田監督はこれをひっくりかえすための「大きな選択」にでる。セオリー通りであれば高橋→隼磨(鈴木を左に)、塚川→中美という交代が行われそうだが、CBを一枚削って4バックにシステム変更。これまでの頑なな交代策を見てもこれがいかにこれまでと違う交代策か分かる。これによってプレスも前のめりになった⇩

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はっきり言うとこの交代もすぐにハマったわけではなく、「遅すぎる」というのが素直な感想ではあるが、完全に山雅の特徴を掴んでいた長崎に対して「考える時間を与えず、よりオープンな展開に展開に持ち込む」ことには有効だった。

かなり挑戦的ではあったが、やっていかなければ戦術の幅は生まれないし、それも実を結ばない。この大きな選択が結果と直結したかははっきりとは言いきれないが、システム変更によってオープン展開にもちこんだことが気持ちのこもった同点弾につながったとも考えられる。後半30分以降の動きの少なさをたびたび指摘していた立場でもあるのでこのチャレンジは柴田体制の大きな前進としてとらえたい。

■試合を通して感じた長崎の変化

結果としては山雅が勝ち点1を拾ったゲームになったが、改めて言うと試合そのものはほとんど長崎のゲームだった。相手の立場になってみても試合運びは悪くなかったように感じる。

そして何より山雅がクラブとして学ぶことが多かった。手倉森監督以前は高木監督のもとでJ1昇格を果たし、ハードワークを重視する3421システムのサッカーを6年ほどやってきたが、降格を機に現監督にシフト。大きく若返りしながら見事にモデルチェンジを果たしている。今期ブレイクした秋野や毎熊、ここ最近頭角を現している氣田や名倉あたりも長崎がここまでに育て上げたと言っていい。

もちろんそれぞれのチーム事情があり、モデルチェンジをするのが正解とは限らないが、今年の当初の方向性を振り返ると「育成と強化」「外国人との融合」「柔軟な戦術」「長期体制からの転換」「システムのアップデート(3421→442)」という点で山雅がやりたかったことを2年かけてやれているチームではないかと思う。長崎もすべてが順風満帆というわけではなく、去年は一時期20位まで順位を落としているが、我慢した末に今があるという背景があるのも無視できない。長崎とは同期という立ち位置とはいえ、1つのモデルとして謙虚にチーム作り・スタイル転換の過程を学んでいきたい。

■次節は似たシステムの京都。鍵を握るフリーマン。

そして、次節は10位京都戦。残り6戦で勝ち点差は8なので1桁順位にのせるのにはかなり厳しい状況になっているが、この直接対決を制すればまだ可能性はそれなりに残る。

前半戦は東京V戦の大敗を受けて3421から442にシステム変更し、積極的なプレスを展開。ウタカに一瞬のスキを突かれて先制されるも途中から入ったセルジが躍動。阪野へのアシストとスーパーFKで逆転に成功。最後の最後で放り込みから中野に同点弾を決められて勝ち点3を得ることはできなかったが、真夏の京都で非常にアグレッシブな試合を見せた。

今節は山雅が352、京都は3421のシステムになることが予想される。使うシステムがこの逆だった時期もあるなど形としては似通っていて、システムが噛みあいやすいことから各ポジションで1対1が起こりやすいが、その1vs1をすり抜けてチャンスを作っていきそう、作っていかなければならないのが両チームのフリーマン的な役割のセルジと仙頭。

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前やエジカルのようにマリノスからレンタルで途中加入し、13試合で4G2Aと”J2の生態系を壊す”活躍を見せている1人である。ウタカのようなタイプのストライカーを擁するチームがよく陥る「その他の選手の数字がなかかなか伸びてこない」という問題を京都も抱えていた中でこの結果なのでそのポテンシャルの大きさを表している。

スペースを見つけ出してボールを受けてそこから出し手にもなれる戦術眼と高い技術を持っているため、こちらの352の泣き所であるアンカー脇を玉田のように使われるとこちらとしては苦しくなってくる。強力な個を持つウタカとバイスに気を取られることは仕方ないが、この2人をより輝かせる仙頭という存在をCBと中盤3人で監視しながら常にプレッシャーをかけられるようにしておきたい。

残り6戦中4戦はホームゲーム。移動も最小限に抑えられる強みも生かしながら全勝を目指して戦い続けたい

END

(画像は松本山雅公式、京都サンガ公式より)



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