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山形戦レビュー~勝利にだけ価値を置き、掴んだ見事な勝ち点3。だが大事なのは次。~

若き山雅戦士たちが飛躍するきっかけになれば…

欲しくてたまらなかった久々の勝利。しかも、前回福岡戦の「復帰組の大きさを実感した勝利」と比べても「若いイレブンで掴み取った今回の勝利」というのは価値がある。

もちろん……課題をあげればまだまだ多くある。そこは見逃せない。
が、課題を解決するためのプロセスとしては"勝利や無失点の成功体験"が足りていないのは明らかだった。勝ちたいという気持ちは感じてもどこかで後ろ向きさがプレーににじみ出ており、「勝ちたい」と「負けたくない」は常に表裏一体の状態だった。

そして、相手の山形。順位こそ(試合前時点で)12位だが、最初に大きく躓いたにも関わらず、6試合負けなしという地力と勢いのあるチームだ。加えて相手は山雅をよく知る石丸監督らスタッフがいる。戦前から意識はしていると話し、弱点を突いてこようという気持ちは人一倍あったはず……。

そんな中で掴み取った勝利。例え綺麗な形じゃなくても勝利でしか感じられないものはある。これまでの負の感情を払しょくする1戦になっていることを願う。

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~素人採点~

<松本>

村山 7.5
MOM級の活躍。ミス絡みで早々に失点してしまった千葉戦では難しかったが、止めれば止めるほどさらにチームを引き締める声掛けは加速していった。正GK争いのレベルは高い。

大野 6.5
4バックのCBとしては初先発。粘り強い守備で要所を抑え、自身初のクリーンシートを達成。宣言通り飛躍の年になるか。

森下 6.5
同じくDFリーダーとしての仕事をこなしながらよく粘った。途中交代となってしまったのはその頑張りもあってだが、コンディション不良気味なのかと少し心配にはなる……。

吉田 5.5
守備はそう簡単に改善されるものでもないが、高い集中力と意識を持って臨むことができたのは良い傾向。次はクロッサーとして結果を残したい。

高木利 6.0
(相手から見て)左崩し右仕留めの形が多かったのでかなり危険に晒されるシーンが多かったので仕方ないが、良く守れていたがボロも出ていた部分も。トータル0で抑えたのは良かった。

藤田 6.0
クリーンシートの影にこの人の存在アリ。渋いプレーが多く見られるようになったのはボランチの選択肢が増えたおかげでもあるか。

米原 6.5
主にヴェニシウスと互角とまではいかないまでも何度も激しいぶつかり合い。元々サイズはあるので守備時にぶつかれるポジション取りをできるようになったということだろう。PK奪取アシスト前の展開もセンスを感じる。

杉本 6.5
タスクは多かったがそれを見せない姿はさすが。前半は特にフォローが少ない中でも時間を作り続けた。

セルジーニョ 7.0
PK奪取&決勝点。これまでは焦れて下りてきてしまうシーンも多かったが今日は後ろの選手に仕事を任せていた分、前線で力を使うことができていた。

髙木彰 5.5
出場すれば最低限の仕事をこなす献身性と技術はあるがもう一つ大きくなるためにはどこかで+αを生み出したい。勝利の1ピースとしてではなく、ストライカーとして成功体験を生み出したい。

服部 6.0
とにかく気持ちとエアバトル。シンプルなサッカーをしようとした時に(当初、CB構想の)服部が一番手になるのは手駒としては考えものだが本人と監督に非はない。できることをやれていた。

(途中交代)
前 6.0
攻守の安定感とゲームメイク力という観点ではリードがある。後は一人で何とかするタイプではないので味方とどれだけ合わせられるか。

久保田 6.5
後半頭から投入され、攻撃のスイッチ役に。守備でも気が利いていた。相手の好セーブに遭った一番のチャンスシーンを決めきれていればチームとしてもさらに理想の勝利になったが……。

阪野 5.5
あの時間から入ってくるには嫌らしい選手。勝利のために粘り強く、いい働きをした。

鈴木 6.0
ベンチ入りの時点でかなり安堵感。前線の阪野のサポートだけでなく、投入直後のボール回しから安定を与えていた。

乾 6.0
アクシデントから投入。少ない時間であったが最終盤の猛攻を村山、大野と中心になってよくしのいだ。

布監督
多くの選手を変えながら準備したプランを遂行。試合前には山形を「徳島と似ている」と評していたが、全く違う戦い方で今日は勝利を掴んだことで監督自身も反省を糧にできていたように感じる。これまでも決して熱さを感じなかったわけではないが、いつも以上にフィールド付近に出て声を張っていた姿は選手も奮い立たされたのではないか。

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<山形>

要所を抑えてウノゼロで終えた山雅だが、試合を通して上回っていたのは山形側。相手からしたら前半のいい時間に決めきれないとこうなるという典型的なゲームとなった。また、かなり現実的な策に出た山雅に巻き込まれたような形になり、PKのシーンも人数が揃っていたので岡崎にとっては不運なプレーだった気がする。

ただし、石丸監督はこの試合の出方に関して「拍子抜けした」とコメントを残しているが今の山雅の状況と前節山口戦の戦いを見ていれば十分に想定しておくべき戦い方だったのではないかというのが正直なところ。どこか古巣と真っ向からぶつかり合いたいという気持ちが空回りしてしまったのか、交代でも後手を踏んでしまったのも悔やまれそう。

~戦評~

■レベルアップはなくとも徹底は見られた守備

サッカーという競技の性質上「相手に助けられた」という勝因はつきものであるが、この勝利にも間違いなくそれはあった。山雅の守備強度が格段にレベルアップされたかと言われたら(相手の強度が落ちた後半はまだしも)前半は「そうでもなかった」というのが正直なところだ。明確なレベルアップがあるとしたら村山の活躍くらいに思う。

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ただし、ただの「ラッキー」によるウノゼロではなかった。守備の狙い・共通認識としてはDHとCB間、相手のハーフスペースの横断にはかなり気を遣っていたのが見て取れた。

DHとCB間は普段より1~2mほど狭く、極力圧迫するのが基本に。それでも最終ラインが下げられた直後にはスペースができてしまうシーンもあったが完全に自由を与えてしまったのは2、3度に済ませた。圧迫によりこれまで詰め切れなかった場面でも藤田か米原がプレッシャーをかけることができ、奪うか相手のミスを誘うことに成功(※もちろんそれでもやられかけてたシーンは多いがこの試合においては無失点の要因である)。DHの基本ポジションが下がることでFW、SHも下がることになってしまうが、そこで"際"での失点を防いだことがウノゼロ勝利に(逆に前半シュート0にも)つながった。

さらにハーフスペースの横断(カットインなど)も失点パターンとして続いていたが違いは見せた。「外からオーバーラップしてくる相手SBには、戻ってくるSHにボールホルダーを受け渡してSBが(下図)」、「ハーフスペースに侵入した相手SBにはこちらのSHが着いていくこと」を徹底し、これまでの試合で何度か見られたハーフスペースへの侵入、マークの受け渡しによる混乱を防いだ。

中央

ここまではサイドにいくとDHがここに加わり、3人で対応。しかし、誰が行くか中途半端になっているところで空いた中の選手を使われるというシーンが多くあったが、いくらか整理はされていた。その分、クロスをあげられてしまうケースは増えたがDHを中央に回すことでいつもより厚くなったゴール前はフリーでシュートを打たせず、角度のないシュートは村山がなんとか抑えることに成功していた。

守備組織が向上されたというよりはサイドレーンの対応を割り切って中央でやられる確率を減らす守備だったという印象だが、そこをやりきれたのはお互いに声を掛け合って「徹底しあえた」ことはとにかく大きかったに違いない。米原や大野の混乱もそれほど見られなかったのも、今後に繋げていきたいところだ。

■好調山形の攻撃が停滞したわけ

逆に山形目線ではどうだったか。序盤は石丸監督も満足そうな表情を浮かべていた通り、下りてくる山岸やボールを握れるDHの中村・岡崎を中心に山雅の中央守備を上回る地上戦を披露。その中でも二列目の飛び出しも絡んでくる攻撃には1番やられそうな悪い予感はさせられた。

ただ後半には反撃を受けることも増え、徐々に攻撃に手数をかけることができなかったせいか、攻撃は手薄なサイドレーンからのクロスに。実際、山雅の最終ラインには高さがあるわけではない。下手に手数をかけるよりもプレッシャーの少ないサイドからクロスを上げ続けるのが確実性のある選択であるという見解だったかもしれないが結果としては単調さにはつながった。さらに薄いところ(サイド)から攻めたつもりがその先(逆サイド)に人(DH)がいるのも決めきれなかった要因か。

個人的には南や北川ら交代選手を使いながら、無理やりにでもバイタル侵入やハーフスペースを横断するような攻撃を見せたほうがこちらとしては受け渡しにエラーが生じやすく、守りづらさはあったかもしれない。

■米原とセルジの成長が見られたPK奪取

再び山雅の話に戻す。PKでの1点という非常に渋い勝ち方ではあったがその前のシーンにはこれからにむけて明るい兆しを感じた。米原の課題として、ここまでは序盤でいいシーンを見せても疲労と余裕のなさによって視野が狭まり、なかなか本来の攻撃で持ち味が出せないことがあった。

1度そうなってしまうと、セルジがどんどん本来のポジションから最終ラインのほうまで下がってきてしまい、前線に人がいなくなるという状況ばかりになることで、本当に連携も何もないような状況に陥るのがこれまでだった。

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その点、今日は2人とも最後までよく余裕を持って自分の役割を全うしたといえる。PK奪取シーンではまさに大きな展開を得意とする米原、(いい意味で)自由自在に動き回るセルジのお互いの特徴を理解しての連携だった。これまでのレビューで『相性が悪い』と言い切ってしまおうか迷ってしまうほど、どこか合わなかった2人で取ったPKはなかなか感慨深く感じる。2人のプレースタイル自体は相性など悪くないはず、これからも互いを信頼し合っていい関係性を築いてほしい。

■勝つことに意味がある。大事なのは次。

さて、選手・監督・サポともに強く感じたはずだが、勝つことがもたらすメンタル的な効果は大きい。たとえ内容が良くても負け続けていてはストレスが溜まり、チャレンジや自信には繋がらない。その点、今節はどんなに不格好でも"勝とうとして勝った"素晴らしい試合だった。

ただし、これでようやく立て直しへのスタートに立てたところだ。少しずつこの自信と勇気を形にしていきながら次も勝ち続けなければ、福岡戦後の二の舞になってしまう。連敗のたびにサッカーを簡略化し、この現実的なサッカーに戻していては前体制からの進歩はない。数歩譲ってそれで勝ち続けることができればいいが、そういう退路も経っている編成でもある。

Twitterにも書いたので☝繰り返しにはなるが、なんとしても次、アウェイ山口の地で勝利を収め、その場繋ぎの勝利ではなく本当の意味で変わっていくんだということを示せる「内容」と「結果」を持ち帰りたい。

END

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