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町田戦レビュー~爆発したロマンと戦術を上回った個~

期待感の持てる5連戦のラストゲーム

多くのサポーターが駆けつけた町田GIONスタジアムにて完封勝ちとは行かなかったが高い水準のパフォーマンスを見せて見事な勝利。町田に対してリベンジを達成することができた。

これでこの5連戦は3勝1分1敗。選手からも聞かれるように「完璧な結果ではない」が結果としては立派な成績である。特に浦田や中美、塚川のようないわゆる柴田体制のベストメンバーではなかったメンバーたちが台頭してきたのは頼もしい。

残り8試合で若手を積極的に起用したり、色んな選手を試していくというよりは、勝つことを絶対としてチームも個人も成長を目指していくという指揮官の意志も伝わってきたのでこちらも全力でそれを後押しし、この位置に満足せずにさらなる高みを目指していきたい。

~個人的MVP~

得点を決めた常田はMVPに値する。ここ最近、期待感のあるシュートを放っていたのがついに結果に出た。メンタルがプレーにもろに影響するタイプではあるが、ここをスタンダードにしていけば1回り大きくなりたい。

次点はセルジ、佐藤
セルジの神出鬼没さは密集を作る町田を困らせていた。1点目に繋がったシーンもセルジが下りてきたことによる"数合わせ"を町田側がした結果、常田が空くことに。

佐藤については後述するが、加入の大きさを改めて思い知らされた試合になった。中盤から主体的にゲームを作る力によって前線やWBはやりやすさを感じているはず。

〜戦評〜

■チーム戦術が整理された町田と個で押し切る山雅

・運は戦術で引き寄せるもの

前半戦は7月末だったため、町田とは約3か月半ぶりの対戦になったが、序盤は特に相馬監督時代の"圧縮"要素が強めになったような印象を受けた。ボールサイドに人数をかけてすぐに囲み、取ったらシンプルにそちらのサイドの選手を使うという攻撃を繰り出してくる町田に対して、付き合ってしまう形になってしまった山雅は幅を使うことをせず、セカンドボールをなかなか拾えない時間が続く。

密集地帯でどちらにボールが転がるか?は運もあるが、この日の町田は戦術的にこの運を引き寄せるような人数のかけ方をしており、時には「運よく」山雅側が拾って突破するようなシーンもあっても大半は「戦術的に」運を引き寄せに来ていた町田が多く拾っていたので密集地では後手を踏むシーンが多かった⇩

セカンド

・町田の狙っていたサイドの数的優位性

また、442の町田と352の山雅、システム的には噛み合わないため、試合が落ち着いてきてからは「どのようにシステムのズレをついていくか」がポイントとなったが配置による数的優位性を試合を通して使おうと整理されていたのは町田だった。

2対1

⇧いつもだったらジョンチュングンを常田に任せて中美がスライドするのもアリだったが、町田の場合中島・平戸がともにボールサイドに集中するため、なかなか受け渡しができず。

中盤の3枚を削って迎撃にいかせるというシーンが多く作られ、中盤が薄くなったところを展開力のあるDHに使われ、逆に展開されるというシーンや26分のように中に侵入してきた逆サイドの岡田にほぼフリーで打たれるというシーンが発生する。

余っている酒井が攻撃的な選手ではない事や相手の決定力で事なきを得たが、ここの修正は前半はっきりとしなかった。中盤を薄くすると平戸の思う壺だったので最終ラインをスライドして数を合わせるという修正があっても良かったように感じる。

・左で突破し、空いた選手で仕留める

対して前半の山雅は選手の個人能力で優位性を作り出すシーンがほとんど。素早く距離を詰めてくる町田に対して杉本や中美、セルジのような「交わせる選手」が左サイドから密集を切り抜けるというような個人戦術でチャンスを作り出す。この試合においてはこの質的優位性を生かすような攻撃は有効といえ、2人3人と引き付けたところで阪野や浦田が空いてくるというシーンを多く作ることができていた。

この試合のレビューにおいては余談になるが、同じ戦術を控えの選手や若手にやらせるとなると厳しい部分もあり、J2ではエース級になれる選手たちがいることありきの戦術ではあったので来期以降にむけてもこの路線で行くなら「杉本やセルジらを残せるようにしなければ同じかそれ以上の事はできないな」ということを感じたということを、試合後に水を差すようなことを書いてしまった補足として述べておきたい。

■「演出家」の役割を90分できる佐藤の存在

そんなチームとしてシステムのズレを突くような攻撃を発揮できない中で、中盤の底にいる「レジスタ(演出家・指揮者)・ 佐藤和弘」からのゲームメイク力は輝きを放っていた。この役割ができるのはDHだと佐藤か米原のみ。後者はまだチームを動かすような役割は90分間できていないので佐藤が加入した効果は相当にある。前回と似たような話にはなるが、橋内ー佐藤ー前・杉本と中央ラインが安定していればチームも安定する。

開始1分の右の浦田への展開に始まり、前半のベストシーンだった13分の中美のドリブルから浦田のシュートに繋がったシーンも佐藤のサイドチャンジからいい形で中美が持てたのが始まり。これは佐藤のアイディアや視野の広さからだが、あらかじめ幅を広く取り、こうしたシーンをチームとして意図的に多く作れれば前半も得点する可能性は広がっていただろう。

実際は無理して杉本や前にいれて囲まれるというシーンや中美や浦田が密集地でボールを受けるシーンが多く、相手のカウンターを受けたが、これは町田の得意とする戦い方やテンポであってアンカーの佐藤や常田の展開力を生かしながら352の優位性を生かせるような前半にしたかった。

■爆発するロマン

そして、後半7分、待望の先制点が生まれる。その前の3分にはポストに当たった岡田のヘッドがあったように相手にもあと一歩のシーンもあったが、35m級のミドルをディフレクションもありながら一発で沈めたのはここ最近の常田のシュート意欲と「持っている男」だったということだろう。

得点

相手としては右サイドのジョンチュングンまで駆けつけて「圧縮」したサイドでセルジ・杉本に寄せきれず、酒井も中美に釘付けにされたことにより、CB(深津)VSCB(常田)の形を作られ、対応が遅れたことによりディフレクションが生じた。恐らく想定していない形だったことも要因としてはあるはず。

両監督からラッキー要素があったことも触れられているが、この形を作れたことは先ほど書いた「運を戦術で引き寄せる」ことに繋がってくる。

■左WB鈴木への見方が変わらない点と変わった点

そして、2点目は後半27分。給水タイムの直後に生まれた。

今季は前後半の開始直後だけではなくて給水タイムも流れの変わるポイントとして新たに加わっており、この試合でも少なからず影響はあったと感じる。鈴木の右足の精度、塚川の得点センスが光った得点によって決定的な得点を取ることに成功した。

これまでの試合でも何度か触れてきたが「鈴木は左右どちらもできるが右のほうが最適ポジションである」という考えは変わっていない。この試合でも何度か左足でクロスをあげられそうなシーンで躊躇している感じがあり、得点シーンも利き足であれば切り返す前にあげることもできていた。チーム事情も関係しているとは思うが、より分析が進み、拮抗した相手とも戦っていくことを考えるとまだ判断するには早計であるように感じる。

だが、考えが変わった面もある。ある程度押し込めて、アタッキングサードで仕事ができると見込めた際にはWG的な役割を求めて左起用をするのもありかもしれない。その際は中で優位性を持つ必要がある。常に左で使うにはデメリットも出てくるが、相手を見た時に狙いを持てそうな時には左で使ってみたい。

■大事故を防ぐために……

しかし、完封勝利で試合を締められなかったことで、試合としてはケチがついてしまうことに。もしももう少しこの1点が早く入っていたら2点差を守り切れない「大事故」もありえそうな展開となってしまった。

2点取っても攻勢を緩めず、残り10分くらいからは5バック気味になり、541ブロック→下げたら532のような守り方になったが、引くのであれば相手の狙いを消さなければ意味がない。

水本を下げて前線を増やしてこちらは後ろに数が足りなくなっている。にも関わらず、前に2人、その後ろに3人選手が出てきていたので相手は後方に下げてこちらの前線を引き出し、主に高さのない右サイドに放り込むというパワープレーを仕掛けてきていたがそれに対しての対策は一切見られず。

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⇧失点シーンも右サイドに4人も人数をかけてきているが、こちらは大野・隼磨のみ。この状態で前に人数をかける必要があったか?と考えると答えは明確であった。

しってん

⇧米原も遅れてしまっているが、正直全速力で戻っても間に合っていたかは怪しい。そもそも中盤とDFのギャップをあれだけ作る必要はなかったので放り込みに対して塚川や米原も絡めるようなポジション取りをさせていれば最後の1点はなかっただろう。

■最後の5連戦へ

苦しい連戦続きのシーズンも残りあと8戦になり、次が最後の5連戦になる。この5連戦は良い結果を残すことができたので、引き続きこの調子を維持してどれだけ順位を上げられるかが最大のテーマになってくる。

そして、柴田監督の「サポーターに勝利」を届けるという思いは伝わり、今のサッカーの成熟、最適解の模索も大事ではあるが、同時にチームの総合力の引き上げ、誰が出ても勝てるチームを作っていく必要性も感じる。

今オフも不安定なものになることが予想されるが、スタメン・控えの線引きがはっきりしてしまうとオフを考えると良いことはない。誰もが残りたいと思えるようなクラブ・体制にした上で最適解を打ち出し、勝利を目指していきたい。

次節は山本大・パウロらのいる岡山をホームに迎える。勝ち点44で13位に位置しているので山雅との勝ち点差は5(19位)。8差がついてしまうと抜くのは難しくなるが、逆に2に近づけるチャンスでもある。この5連戦の良い流れを引き継いで、来季に期待の持てる終盤にしていきたい。

END

(画像は松本山雅公式より)

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