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水戸戦レビュー~じゃんけん勝負は痛み分け~

固まってきた手の出し方、修正力に課題

勝ち点1を取れた試合なのか勝ち点2を取りこぼした試合なのか……阪野の言葉を借りて「今季1番に近いゲーム」といえるし、秋葉監督のコメントにもあった「仕留めることができた試合」という言葉もあながち間違いではないと思う。

アルウィンの地であまり状態が良くなかった水戸と今季ベスト級に良かった山雅というチーム状況を考えると、2-2という結果は満足できるものではないがこれまでいなかった選手のコンディションも上がってきているなどプラスの要素も多い。これを糧にして貪欲に上の順位を目指していきたい。

~戦評~

■裏への動きで最初のじゃんけんに勝つ

まずはビルドアップ、シュート数ともに手ごたえがあり、かなり押し込めていた前半。アンカーの佐藤和を中心にボール回しももかなり余裕を持って回すことができていて、水戸が狙うプレスもほとんど効果的にかかっていなかった。決して既存の選手が悪かったというわけではないが、加入して間もない佐藤和がこれだけできると後ろから繋いでいくのはチームの形以前にその選手の適性や思考能力が必要になってくるということを感じさせられる。

さらにこちらが優位にたてたのは試合10分以内での裏への抜け出しも大きかった。前半3分の藤田→高橋のシュート、前半5分の佐藤和→阪野の裏抜けからのシュートシーン。前半8分のセルジ→杉本のフリックなど…。

<前半5分のシーン>

ビルドアップ

積極的なプレスからのショートカウンターを狙っていた水戸だが、このあたりから水戸の最終ラインは前がプレスをかけてもなかなか押し上げられなくなってくる(山雅の442の時のよう……)。水戸の「前プレ」の手に対してこちらの「裏への動き」がうまくハマったことが前半で先手を取れた大きな要因だった。

■なぜ水戸の手を無効化できたのか!?

・捕まるわけがなかったセルジ

そこからは相手のDFラインは最前線の阪野の裏抜けや逆サイへの展開を気にして後ろに人が余っている状態に。

ビルドアップ2

特に左サイドではただでさえ、1人で2人3人と剥がす能力のあるセルジ・杉本・高橋をDF2枚で捕まえに行くというかなり無茶な状態になっていた。

囲みきるために前線の村田や奥田が戻っても、展開力のある佐藤和や常田が抜け道となっているのでこちら側からすると左サイドは"理論的には奪われるわけがない"盤石の布陣のまま試合を進める。

・優位性が生み出せないままプレスの餌食に

さらに守備の面でもこちらが優位に。山雅のハイラインに対して裏への動きが少なかった水戸の前線。そこで幅を使った組み立てを試みるも山雅の最終ラインは高めに設定できているため、サイドレーンはWBが対応する。532システムの一番の弱点である中盤の横幅は5人で守ることができたため、3DHの移動距離はそれほど多くなく、囲むのも容易かった⇩

守備

ここで捕まえやすかったのは水戸のゲームコントロールを担う山田康がいなかったのもあるかもしれない。後ろで繋げないし、裏もスペースも付けないというどん詰まりの状態に陥ってしまった

■後半の布石。給水後に手を変えてきた水戸の修正。

しかし、給水後には秋葉監督も露骨なまでに修正を加えてくる。SHはすぐに左右HVにプレスにいかず、セルジのコースを消せる位置からプレッシャーをかけ始める(専門的に言うとシャドープレスの動き)。高橋にボールが渡った後もSHがセルジに付いていたので圧縮してセルジのスペースを消そうという意図は明らかだった⇩

修正

しかし、それでも止まらねえ俺たち松本状態だった今日の前半。それを逆手に取った選手たちの「自主性」のある動きが先制点を生む。

■水戸の手を上回った1点目

・修正を裏返した2人の自主性

先制点はゴールにつながった連携も美しかったが、その前の高橋とセルジによる水戸の修正を逆手に取った突破も素晴らしかった。

カバーシャドウでコースが消されていたセルジだが、それを感じて高橋とポジションチェンジ。そこからセルジはボールを持っている常田に中央にいる高橋にボールを出すように指示をしているので、恐らく「自主的に」「2人の信頼関係で」この動きをしたのだろう

1点目

先ほども述べたように左サイドの3人は、1人で抜いていけるだけの実力はある。高橋が3人を引き付け、サイドを駆け抜けるセルジからシュートに迫る。これは得点にならなかったが、その次のリスタートがゴールに結びついている。

・ゴールシーン

2トップ+1SH+1DHでの中央で連動した動きは今季チャレンジしていた崩しの形だったが、2トップ+2IHによって最高の形で実った。

ゴール

何といっても良かったのは全員がボールを貰う動きを怠らず、最少タッチで繋ぐことができていたこと。去年から一緒にプレーをしていた阪野・セルジ・杉本・藤田だったこともあってか、最初からイメージが共有できていたかのような連動性のある再現性の高いゴール……。

この先制点はケチのつけようのないクオリティの高いものだったが、本来であればこのゴールの勢いに乗ってもう1点取らなければいけないような前半だった。

■手が読まれ始めた532守備

後半はガラッと内容が変わる。狙い自体は前半給水後からあまり変わっていなかったと思うが、相手の選手交代とビルドアップの変化、より明確になった意識の共有で「出す手」を変えられたまま、こちらは修正を加えられず、じゃんけんで負け続けているような状態でゲームが進む。特に失点シーンは山雅の532の攻略法を打ち出されたかのようなやられ方だった。

・サイドを無効化された1失点目

まずは1点目の左サイドを攻略されたシーン。

相手SBにWBが出ていき、潰していたのは前半まではこちらの強みであったが、相手がはっきりと3バックでのビルドアップを試みるようになったことで高橋がプレスをかけても、IHの前にも後ろにも敵がいるという状態ができあがり、囲み切れない状態が続く。失点シーンは杉本の裏を突かれたところから始まる⇩

1失点

このシステムの弱みとしては高橋や鈴木の裏を取られると案外もろい。そのため、個が強く、経験もある2人を置いているのは理にかなっているのだが、数的不利になるとさすがに苦しいというシーンだった。

1失点目2

常田高橋VS相手3枚になったので橋内も出ていかざるを得なくなり、後手後手を踏み、中が2対2になったところで中山にやられた。

強いて言うなら常田が奥田に付いていくくらいしか改善策が見つからないが、ここまで崩されるとついていくのは容易ではない。常田でなければ止められたかと言われると難しかったと思うので①中盤3枚にさらなるハードワークを強いるか②できるようなやり方を選ぶか③このレベルの崩しは割り切って中が粘るところから選ぶことになるかもしれない。

・今後も狙われそうなリスタート

また2点目も構造上の弱点を狙われた感はある

杉本が1列前にいったところでスローインからサイドを変えられ、逆サイドで優位性を作られたが、スライドするには山本・佐藤の中盤2枚で逆サイドまで移動する必要がある。まず間に合わない⇩

2失点目

スローインのリスタートの早さ、平塚が杉本を引き付ける動きをしてきた点、CB瀧澤が逆まで運んできたところを考えるとHT、もしくは試合前から狙ってきていた可能性は高い。ここも「3枚の中盤のうち1人を無力化」「WB裏」を取られての失点となってしまった。

確かに鈴木の対応も最善ではなかったがサイドで2vs3を作られ、フリーであれだけいいボールを出されるとサイドの選手からするとなかなかきつい。

結果論にも近くなるが相手のイケイケ展開を考えると、それほど意味もなく、523の形にしたのは悪手だったようにも感じる。疲れてくるような時間帯に前線が出ていってピッチの横幅を使われる試合はこれまでにもあった(橋内が制止しようとしている)。それを狙って突くような1手を出してくるチームは今後出てきそうだ。

■手が勝ってるうちに決める、勝てる時に勝つ

そこからアウグストの推進力、山本真のピンポイントクロス、阪野の豪快ヘッドで追いついたのは気持ちが感じられ、見事な同点弾を決める。が、試合を通しては「良い時間に取れなかった」ことが悔やまれる。

それはリーグ戦を考えても同じで、解任直後で、メンバーが揃ってきていて、まだ分析も進んでいないうちに勝ち点は積み重ねていくしかない。1勝3分け1敗をどう捉えるかは分かれるところだが、「以前より良くなった」で半年を終えると来年のさらなるハードモードが待っている。

貪欲に上の順位につけていくのか、今から来季に向けての土台を築いていくのか。はたまた新監督を迎えていち早くスタートを切るのか……。監督交代を機にチームに活気と安定性を与えられているうちに先手を打っておきたいところである。後出しじゃんけんで有利にたってるはずが、気づいたら後手後手の後出しになっていたにならないようにしたい。

END

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