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栃木戦レビュー~貫いた闘争心と超えられなかった壁~

ぶつかり合いでは押されるも勝負は譲らず

独特なスタイルを持つ栃木を相手にスコアレスドロー。真っ向勝負でぶつかり合った試合となったが、相手の決定力にも救われつつも0で抑えたのはポジティブに捉えたい。

と同時にここ数試合継続的に続いている多くの課題もあった。田坂監督の「ほぼほぼ何もさせなかった」「点を決められなかっただけ」というコメントからも分かるように相手に与える"圧"や"怖さ"はあまりだせていない。刺されなくはなっていてもどう刺し切るのか。負けなくなったことに満足せずに改善する必要があるだろう。

〜個人的チームMVP〜

今回は中美。後述するが中盤省略の形が多く、チームとして難しい時間が続いた中で個人突破や中央とのポジションチェンジで持ち味を出した。

次点は守備で奮闘した常田、橋内

〜戦評〜

■やり合うサッカーと分断された前線

・メンバーからも推察できる縦への狙い

試合前から「真っ向からぶつかる」ことを宣言していた監督。戦う姿勢は元より山雅が大事にしてきたものであり、メンバー構成もFWの韓勇太を頂点に塚川・アウグストとパワフルなシャドーを配置、その後ろも当たり負けをしないことを念頭に置いたようなメンバーを揃えた

始まってみると前節・前々節と同様に持つところは持ちながらもかなり早めに前線にボールを供給。平均支配率39%台の栃木が支配率47%であったことからも支配率よりも縦への意識を強く持って臨んだことが分かる(もちろん両立させるのが最高だが……)。

・なぜ北九州・山口戦のようにいかなかったのか

ここ2試合はその縦への意識が得点、そして勝利に繋がっていたが今回は前半からほとんどその良さを出せたとは言えない。その原因としてはメンバーが変わったのもあるがただの「中盤省略」のサッカーになってしまった点が大きいだろう。

相手のプレスが早いためCB・DHのところでなかなか剥がせないためテンポが生まれず、本来優位性のできるサイドもなかなか高い位置を取れない。裏を取られる心配がない相手は次々に前がかりになってプレスをかけてきた。それが続いて時間が経てば経つほど生じた問題が「前の3枚と後ろの8枚の分断」。

⇩完全にハメられかけた30分50秒あたりのシーン

ハメられる

パススピードを変えないでそれを打開するためには①プレスをひっくり返すような裏抜けを狙う後ろが自力で剥がす形を変えてパスルートを作る(シャドーが下りてくる)あたりが考えられるが……

①は後ろがいい態勢で蹴れないためことごとく田代・柳に跳ね返され、その回収も数的に不利。
②後ろが自力で剥がすにも健闘したのは中美くらい。フルスプリントで突っ込んでくる相手に苦戦した。
③も後ろが形を変えても効果的ではなかった(というより本来の3421の34で回すのがプレス回避には一番効果的な形である)。こうなると2シャドーのどちらかが下りるか、DHが縦関係になって「経由地」になるしかないのだが、佐藤・米原はどちらかというと中盤の底で活きるタイプで、アウグスト・塚川も杉本やセルジのような動きは得意としていないので「真っ向勝負で挑む」形に持ち込むことすらできない時間が続いてしまった。

ピッチの選手たちの適性的にもなかなかプレス回避が難しかったので、中美や鈴木が中にズレて数的優位を生み出していたがやや渋滞気味。個人的には塚川を一枚落として中盤を3枚に増やしても良かったように思う。

■攻略法を提示していた4選手

その中でも戦術を超えて活路を見い出せていた選手がいなかったわけではない。特にそれがチャンスに結びついていたと感じたのは3選手。

1人は常田。この試合は全体を通して縦縦へ意識が向きすぎていたが、何本か常田から逆の鈴木へ一発でロングボールを入れ、幅を使った攻撃を狙っていたのは印象的だった。栃木はボールサイドに人を寄せての奪取が特徴的なので逆は手薄。前半戦の栃木戦も縦に早い攻撃は意識していたが、それと同時にサイド→逆サイドへの展開が非常に効いていたことを考えても今回も一発でサイドを変えられる常田のボールは非常に効果的だった。

⇩前半戦の特に綺麗に決まっていたシーン

前半戦のこの形と常田のプレーは同じような形ではないが、「縦に早い」=「幅を使わない」ではないという意識付けはチーム全体として必要だった。

次は中美。サイドから突破を試み、単純に個の力で互角以上の戦いを見せていたのは可能性を感じた。噛み合わせ的にもサイドは個VS個の勝負になりやすかったので攻撃で違いを見せられる中美を使って質的優位で交わすというのは突破法としてはありだっただろう。

そしてサイドから突破口を生もうとしていた選手としては同じく左サイドのアウグストも挙げたい。中美が中に入るとアウグストがサイドに開くというポジションチェンジは前半終わりあたりは特に何度か見られた。これがここまでやってきた経験則でこういう動きをしていたのか、最初から狙いがあったのかは不明だが、38分5秒あたりにスピードのあるアウグストが外に出て起点になったところから佐藤・アウグスト・中美の関係性で優位性を作り、左サイドを攻略したシーンは前半最大の見どころだった⇩

崩し

佐藤もいつもよりも前に出て攻撃に絡むシーンが多かったが、あえて比較すると似たようなタスクを与えられがちな米原もこのような佐藤の動きは参考にしてもらいたい。

ただこれだけ選手それぞれの打開策は見られても全て単発的。何かを変えられるだけの力を持つ選手たちが揃ってきているが、チーム戦術とまではいかず、HTでどこを突破口にするかの修正が必要であった。

■再びちぐはぐに戻った後半の入り

そして後半は鈴木→杉本、佐藤→前と交代。セオリー通りに考えるなら右に前、DHにアウグスト、シャドーに杉本か、あるいはこのような形になると思われる

システム

が、アウグストが右に移り、前がDH、杉本がシャドーという形に。

恐らく杉本をシャドーに、前をDHにしたいというのが前提としてあり、余る形になったアウグストを右に入れたというのが濃厚ではないかと思うが、案の定アウグストは迷子状態に。そこから栃木は右サイドを意図的に狙うような攻撃を繰り返し見せてきたのでそこから失点せずに済んだのははっきり言うとラッキーでしかない。1点勝負のような展開で致命的になりかねない選択であった。

もし厳しいと感じたとしても上に書いたように前を右に置くなり、対処法はあったものの、わずか8分でアウグストは下げられてしまった。前節の山本龍もシャドーに入ってからわずか8分での交代になったが根本的な問題はあまり変わっていない。琉球戦の久保田の左WBも同様である。

せっかくのチャンスが回ってきた若手や来日1年目の外国人選手の起用法としては特に厳しいように感じてしまう。本来のポジションでなくても使うのはチャレンジとして肯定するとしても(実際、浦田のように想定以上に好プレーを見せている例もある)起用したからにはそこから我慢してあげるのも責任である。

余談ではあるが、柴田監督は「編成部長」という立場もあるのでそこから不信感に繋がってしまうと今後に響いてきかねない。

■「勝ちにいけない」が示されたデータ

後半落ち着きを取り戻してからは杉本が「経由地」になったり、フレッシュな阪野が違いを生み出すようなシーンを作ったが、得点に値するような形は作れず。組織としては偶発的な形が多く、その形の数でも相手を上回れなかった。栃木は"偶発"を意図的に作り、多くのチャンスを生み出そうというやり方をしているので向こうの土俵で押され続けた試合といえる。

最初にも書いたようにこの1試合だけを見れば粘りに粘ってよく勝ち点を取れたゲームというのが正直な感想である。ほとんどの時間劣勢にたたされながらもGK含めた後ろの4人はよく粘りきり、プランミスでも崩れることはなく無失点で守りきった。

・リスクを取らないことで生じるリスク

ただ「勝ちに行けない」課題は引き続き変わっていない。引き分けで御の字の試合が続いているが”デッドライン”が近づいている状況なので「撃ち合うリスクを冒してでも勝ち点3を取りに行く」選択をすべき時期になっている。単純に昇格への姿勢を持ち続けたいのが1つ、もう1つは”来季のJ2残留”が確定したチームから来季に向けて選手が狙われやすくなる。特に現状は「降格争いのチーム」である。少しでも草刈り場の対象になる可能性は減らしたい。

・残り15分の課題が表れるデータ

データの話に戻ると今年の山雅はシーズン通算では32試合31得点を記録。時間帯別だと残り15分での得点が最多となっているので終盤にスパートをかけられるチームということが分かる。

そして、柴田体制がスタートしてからは10試合10得点を記録。時間帯別の得点を見てみると……

<前半0-15> 2点(山口戦1点目・2点目)
<前半15-30>
<前半30-終了>2点(水戸戦1点目・北九戦1点目)
<後半0-15>3点(山形戦1点目・2点目・大宮戦1点目)
<後半15-30>2点(徳島戦1点目・山形戦3点目)
<後半30-終了>1点(水戸戦2点目)

後半30分以降の約15分での得点は1のみ。しかも水戸戦の2点目も後半31分(実際のタイムでは30分44秒あたり)なので、全得点の4分の1の得点が入ると言われている76分以降の時間帯(SPAIAより)でいかに得点をあげられていないかが分かる。※今季は5人交代なのでもう少し終盤の割合は増える可能性はある

得点率(約1.0点)自体は変わっていないので、「前後半の序盤に得点をあげられるようになった」「失点も大幅に減っている」というプラス面も無視をしてはいけないが、勝ちに行くことを考えた時に「残り15分で勝負をかけられない」というのはデータからも露点している。

走力面は変わっておらず、怪我人も前半戦よりも少なくはなっているので選手起用や采配面でやはりもう少し改善を見せていきたい。

■次は万全の福岡、勝負の1点を取りに行けるか

次は首位と同勝ち点の2位・福岡。失点は最少の22で山雅(失点44)のちょうど半分である。得点は13位(36点)とそれほど多くないのでいかに効率よく、さらに言うと「ウノゼロ(1-0勝利)力」が抜群のチームである

しかし、これまでの山雅と福岡の対戦と言えば18年の飯田、ジネイ、前半戦の塚川など終盤の劇的なゴールがお馴染みとなっているなどポジティブなイメージも強い。先ほど「残り15分」の課題を挙げたが、同じようなシチュエーションになった時に勝ちに行けるか。首位相手でも臆さずに勝ち点3を狙いに行きたいところだ。

そして、前回との一番の違いは2DH。広島からレンタルした松本泰とキャプテン前寛之である。兄である前貴之もここ最近はチームの中で存在感がぐんと上がり、リーダーシップを発揮しているので中盤の前兄弟のマッチアップは注目となる。

ここ最近は4戦負け無し。良い流れは継続して首位相手に意地の勝ち点3をもぎ取りたい。

END

(写真は松本山雅公式、サッカーマガジンwebより)

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