見出し画像

磐田戦レビュー〜近くて遠いあと一歩〜

理不尽があっても最後に笑うのが強いチーム

前節の勝利を追い風にして「4月は逆襲の月」というジンクス(?)を確かなものにしたかった今節の磐田戦。

得点を取ることが最優先のサッカーにおいて、この試合を「内容が良かった」と言っていいのかは微妙なところではあるが、スタッツを見るとシュート21本で今季最多を記録。チャンス構築率は19.1%(今季平均10.6%)、パス成功数も千葉戦に次ぐ約500本の数字を記録するなど、能動的に攻撃を組み立ててシュートまで繋げることにフォーカスするなら最も良い内容を残せた試合と言える。

それ故に惜しまれる。モノにできていれば大きな自信になりそうな試合だった。昇格した2018年にも優勝を争っていた大分を相手に、そこまでの時間は優勢に試合を進めていくも不当な判定がきっかけとなり、1-4での大敗となった。この試合で点差がついてしまった原因も同じような部分があり、18年山雅のような優勝チームであっても"外的要因で動いてしまったスコア"をひっくり返すのは難しい。

ただし、勝負は勝負。前前節ちゃんとした(?)PKで先制点を奪われた水戸戦とは違って、"自らその好機を手放した試合"というには無理があるが.......そこから落ち着きを取り戻した相手を前に「それをひっくり返す力がなかった」と言われればそれまでではある。負けは負けである。

問題はここから。18年のように短い目で見ると胸糞の悪いような試合が起きてしまったとしても最終的に勝ち点を最も積めるチームが昇格に値するチームだ。そして、逆の立場に立った時には大分や磐田のように確実にモノにして勝ち点を積んでいくしたたかさを見習わなければならない。

「この試合があったから昇格できなかった」ではなく、「この試合のおかげで昇格できた」とシーズンを終わって言えるようにシーズンを戦っていき、ホームアルウィンでは絶対にリベンジを果たしたい。

~勝手にチームMVP~

MVP:鈴木国友
→前半からDH脇でボールを引き出し、磐田守備陣を混乱される。簡単にボールを奪われないキープ力・推進力も魅力的だった。唯一の得点を記録したのはポジティブだが、欲を言えば2点目も……。

次点:前貴之
→前半から攻勢を仕掛けられた影のMVPは前のサッカーIQがあってこそ。絶妙な顔出しと活動量で相手の前線のプレスを迷わせた。

~戦評~

■優位性を作ることができていた序盤

まずはメンバーから。前節から山雅は大野・米原を経験のある橋内・前に変更。磐田はここまでフルタイム出場の山本義が負傷して中川が今季初出場。システムも互いに3421(3412)だったため、山雅にとっては今季初の90分通してのミラーゲームになった。

お互いにどこで優位性を生み出すかがポイントだったが、序盤でゲームを優勢に進めたのは山雅側。

まずは前線3枚がプレッシャーをかけたところにDHが加わり、高い位置から奪取するシーンを作る。磐田側が1つ飛ばしのパスもそれほど使ってこない(使えない)ということもあり、特に逆脚配置になる中川・松本の左サイド(こちらの右サイド)でハメて奪い取るシーンは多かった

ダウンロード (7)

そして、課題としていた自陣からのビルドアップも相手が前がかりになっていたことや前貴之の復帰で改善

こちらの31ビルドアップに対して、磐田は523ブロック(2は縦関係)で対応していたが、DHの一角の前が右サイドに位置取り、数的優位を作ってプレスを回避。

ダウンロード (6)

そこから河合(鈴木国)に通すことで、磐田の縦関係になるDH脇で何度もボールを通すことに成功した。

この形にしばらく有効な対策を打つことができなかった磐田は主に両WBが内に絞ることでスペースを消そうとはしていたが、それにより今度は山雅の両WBにはかなりのスペースと時間が与えられていた。

それでも1得点に留まったのは.......基本的にはそこからの精度で相手を上回れるかどうかや選手同士のフィーリング、時の運などで片付けることもできる。続けていけば徐々に点は取れるようにはなるだろう。

ただ、効率は悪い。大量得点をするには難しく、相手がミスをしたり、個の質で上回った時でしか点を取ることはできないだろう。やや結果論的な話も多くはなるが、どういう改善が必要だったのかを考えていきたい。

■どういうチャレンジが必要だったのか?

・ボックスへの侵入が少なかった

先ほど書いたようにこの試合ではWBが前を向いてボールを受けれるシーンが多く、余裕のあるシーンが多かった。

縦にも横にもいけるが故にアーリークロスやカットインなど選択肢は多かったが、相手のポジションにズレを生むことは出来ておらず、攻撃が素直すぎたというのは反省点になるだろう。磐田側も劣勢に立たされたことで多少割り切りは見せていて、サイドからのクロスやシュートはルーズだった。

ペナルティエリア外からのラストパスやシュートが多いのはスタッツにも出ており、PA内の侵入回数は(磐田)8-(松本)11。回数では上回ってはいるがこの試合でのチャンス構築率で約2倍の数値がでていることを加味するとチャンスは作れているが、PA内への侵入はそれほどできていないことが分かる。

例えば前半27分のシーンは相手の守備の懐まで侵入できていた。WB外山がサイドで受けたところで、大森がボールを追いかけてそちらについていったのでマークに付かれていた佐藤和はフリーに⇩

ダウンロード (8)

こうなるとCBは中川はスライドせざるをえないことを感じ取った佐藤和はほぼノールックで河合に(ここのお互いの意思疎通のレベルは高かった)⇩

ダウンロード (11)

そして受けた河合は、中に侵入してくる外山にスイッチするような形になってボックス内でほぼフリーでシュート打つことができた。相手がマークを捨ててシュートブロックに向かい、鈴木国はほぼフリーになれていたので「ゴール前でドフリーの味方を作れた唯一のシーン」だったかもしれない⇩

ダウンロード (12)

相手の懐に入る分、相手のプレッシャーは早くなり、高いレベルの連携は必要になるが、相手はブロックを動かさざるを得なくなり、エラーも起きやすくなっていたはず。それを全くできない選手たちではないのでこうしたチャレンジをチームとしてもっと積極的に起こしていくべきだった。

ちなみに……磐田はこの試合こそPA侵入回数で山雅を下回ってはいたが、攻めていた回数で考えると多くの侵入を試みていたと言える。リーグ戦での平均回数でも(この試合のデータにしても)19.3回でリーグ1位。山雅は9.4回でリーグ17位。スタイルの違いもあるとはいえ、「シュートは打てているのに入らない」という課題を抱えているのであればできればあともう1刺し、PAに侵入するような攻撃を見せたい。

・大外狙いが妥当だったのではないか

また、プレビューでは磐田の最終ラインのスライドに難があるという話はしたが、もう1侵入する機会がごくわずかだったことで、クロス時にはサイドはWBが担当、中ではCB3人が待ち構えているという、阪野や鈴木国が使えるスペースがほぼないという中の状態になっていた。"よほどのピンポイントクロス"と"それに合わせる中の動き"がないとシュートを枠に飛ばすのは難しい状況になっていたのはことごとくクロスが跳ね返された原因の1つにあげられる。

もしももう1侵入して相手を混乱させることが難しいのであれば、相手のマークをずらす・目線を変えるために大外狙いのクロスをあげるという選択肢もあった⇩

クロス) (2)

外山・下川ともにサイドの選手としては背丈はあるので折り返すのも直接ゴールを狙うのも確率の悪いプレーではない。あるいはゴールシーンのように鈴木国が大外に回ってもいい。

そして、磐田のこれまでの試合を見ても逆WBが戻り遅れているようなシーンは多くあった。逆WBを狙うのは前がかりになる分、山雅側にもリスクのあるプレーだが、スカウティングに基づくチームとしての狙いがあれば、リスクをかけて逆WBを狙うだけの価値はあったと個人的には感じている。

・得点は3人目の関わりから

そして、この日唯一の得点シーンはなぜか(?)CB中央の篠原が下川の大外を回ってクロスを上げ、良い流れの中から鈴木国がヘディングを叩きこんでのゴールだった。

この試合では高い位置をとったWBが対個人での勝負を何度も仕掛け、クロスまで行くシーンが多かったが、対面の磐田側の選手も飛び込まずに抜かれないことを重視していたので対応はしやすかった。逆にもう1人、2人と選手が関わってきた時にそちらに気を取られて目を離すシーンが目立った。

そのため、相手の裏をつく=惑わせるために、パスを出した選手、受けたサイドの選手、それに加わる3人目が関われれば良かったのだが、そこのフォローは少なかったと思う。鈴木国・阪野はボックス内にいるべきで河合は出し手となることが多いので、今の前線の組み合わせで行くならば、できればHV(左右CB)が追い越していくプレーをするのがベター。後ろからの追い越しがあることで得点シーンのようにサイドの選手も選択肢が増え、ドリブルも生きてくるだろう。

得点シーンでも磐田WB(山田)は対面のWB(下川)に抜かれない意識が強かったので篠原を追いかけていくような素振りは見られず。

篠原

その分、篠原には中央のDH・CB鈴木雄が引き寄せられ、鈴木国のマークをしていた中川がボールに釣られたのにも少なからず影響を及ぼした。相手を惑わし、動かすプレーを行うことで中央の選手のシュートが楽になる。

篠原2

この試合のCB野々村篠原橋内はみんな追い越していくプレーが得意な選手ではないので、CBの人選であまりそうしたプレーは重視していないのかもしれないが、相手を分散させ、得点の確率を上げるためにはこうした点も考えていかなければならない。

■心理面・戦術面で相手に余裕を与えた痛恨のPK

そして、この試合の大きな分岐点となった失点シーン。ワンチャンスをPKに繋げられたシーンだったが、前半7分にもルキアンにマイナス気味のボールを納められているので試合前からチームの共通イメージがあったのかもしれない。

不運さもあったが、2点目のオウンゴールも含めて、今年の磐田の得点パターンである意表を突いたグラウンダーのクロスへの対応は足りてなかったのは結果として現れてしまった。

しかし、この日優位に試合を進めていた山雅にとって厄介だったのはスコアが動いたこと以上に、磐田が攻撃も守備も、山雅の動きを"受けていなすような余裕を持った戦い"に切り替えてしまったこと。

保持時はプレスにかからないように深い位置からボールを回して、前進することよりもプレスに引っかからないことに比重を置くようになり、非保持時もCBには自由を与えてブロックを組んで要所を締めるように。監督のコメントにもあった攻め疲れも相まって、終盤にエネルギーの差が出てしまったのも妥当な結果だった。

さらに2点取られた後に即座に1点差に追いつけたのは良かったが……3点目を決められてしまったのは精神的なダメージは大きかったように感じた。

■改善されない交代策とウィークを突く攻撃

終盤は毎度の話になってしまうが……交代によって失速してしまう悪癖はこの試合でも改善されなかった。小手川に放り込んでしまったり、横山がサイドまでボールを貰いに行って中が不在になったりと攻撃の形がいまいち見られず。途中から入る選手からしても難しいシチュエーションとなった。

そうして、逆にカウンターでとどめを刺されていよいよ万事休す。ストレスの溜まる敗戦を喫し、降格圏から抜け出すことはできなかった。全部が全部悪いわけではなく、むしろ良かった要素も多かったからこそ、舵の切り方が難しい。

ただ一つはっきりしているのは相手を困らせるようなプレーがまだまだ少ない。試合をやりながら選手が弱点を見つけていくようなスタイルのチームもあるが、今季のように先行逃げ切りのような試合運びをするのであれば肝心の前半から相手の弱点を突いていけないのは致命的であり、選手が感覚を掴んできたころにはそれを実行するだけのエネルギーを使えないという現象が起きうる。采配や修正については自分は丸々1試合見た上であれこれ言っているので後だし感はあるが、根本的な見直しは必要なようには思う。

次節の甲府戦は今節をうけて、どのような取捨選択をしてくるか。サポも選手も監督も願うところはただただ勝ち点3である。絶対に離れ離れになることなく、1つになって強敵を迎え撃ち、1戦必勝のつもりで全力で目の前の試合にぶつかりたい。

END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?