大宮戦レビュー〜自分達だけの「良い内容」からの脱却〜
勝たなければいけない試合ではなかったのか
怪我人が多発している大宮とのホームでの1戦。琉球戦では主力数名を休ませたのに対して、大宮はアウェイ連戦で、使える選手の数的にも厳しい状況だったのでこちら側の方がいい条件のもとでの戦いであったが、またしても勝利は遠く……。
前半早々に先制されるという苦しい立ち上がりから追いつくことには成功し、ポゼッションでも上回ったがそこを切り取っていい内容だったというのは少々難しい。今できることをやり切ったと言えるのは恐らく大宮側だろう。ほぼ今日のメンバーで戦った水戸戦、メンバーを入れ替えて戦った琉球戦からの流れからしてもいい傾向とは言えない。
順位も上がっているが、少し上を見ると千葉、大宮、群馬との差は広がってきている(9ポイント差の大宮と直接対決で引き分けは順位表的には果てしなく負けに等しい)。
順位を意識すれば成績が上がっていけるわけでもないが、自分たちのサッカーだけにベクトルを向け続けることでほんとに来季に繋がるのかは自信を持ってイエスと言えない(次期監督を探している点やJ1経験を優先している点から)。「可能性がある限り」と言ってくれる選手がいる限り、サポもチームもそれに応え続けたいと思う。
■「ミス」で終わらせてはいけない1失点目
1点目はやや不運さや連携ミスにも取れるようなPK献上から。判定が微妙だったことからそちらの議論も盛んに行われた。しかし、高木監督にしてみればその前のフィードから裏狙いまでスカウティングで狙っていた形ではあったはず。磐田戦あたりから徐々に露点してきた今の守備の弱点を分析したい。
・CFvs橋内で勝つことを前提とした守備
ここ数節守備が固くなったと言われる要因として「役割分担が明確になった」ことがあげられる。(実際は6失点した琉球戦以前の5戦が6失点、直近5戦も6失点なので組織として失点が減ったと言っていいか微妙だが……)
しかし、その役割分担もかなり橋内の守備範囲や責任が大きい。前節は大野がその役割を全うしたが、前半は後ろに人数をかける戦い方をしており、結果としてラインが押し下がりすぎて上里のところに詰められなかった。
監督の理想とする守備ラインと5レーン全埋め守備を目指すなら橋内の裏勝負で勝てないとやられてしまう。これはこの試合に限った話ではなく、不在だった琉球戦、サイド攻撃にこだわってくれた山形戦以外は全ての試合で「橋内の個人能力で勝てたから守れた」というシーンは多い。
失点は「結果論」からいうとセーフティにクリアすればよかったという話になるが、橋内の判断に任せてコーチングが遅れてしまった村山や最初挟めていたのにそのまま身体を入れずに任せた大野も同じ「結果論」的な話だともう少しやりようはあった。個人を責めるような話ではなく、戦術的にも意識的にも「橋内次第」になりすぎているのは失点を招いた原因としてあげたい。
・水戸戦と同じ山雅の守備陣形の穴
さらにこの失点では水戸戦と同じような守備網の穴を利用された。完璧なシステムは世界のトップクラスでも簡単に構築できないので穴ができてしまうのは自然なことなのだが、フィード力のあるCBと馬力のある前線の選手がいるとかなり簡単に破られてしまうような穴になってしまっている。
始まりはスローインの直後の相手の繋ぎ。前半9分の体力的にも余裕がある状態で今の山雅の532の配置は崩していないにも関わらず、完全に逆サイドで数的優位を作られる⇩
ちなみにこれは水戸戦でも相手のスローイン直後に同じような形を作られていて、今回もIHの杉本が追ってはいるが一番近い選手が全力でスプリントしても間に合っていないのが分かる⇩
そこからは相手のCBは時間的にも位置的にもかなり余裕を持ってフィードを出せるのに対して、こちらは最終ラインに5枚残っていても、ほぼ橋内とハスキッチのかけっこ勝負に持ち込まれている⇩
5枚になったことで各駅停車でパスを繋いでくる相手には強くなり、最終ラインも横の動きには強くなった(例えば手前の渡部にパスがいっても高橋が対応できる)が、その分、ピッチの縦横を1人2人飛ばしで狙ってくる相手には弱い。さらにスカウティングがしっかりしているとCB→FWの意思疎通に迷いがない。
⇧村山もタイプ的に守備範囲が広いGKではないのでなおさら橋内の負担はでかくなる。
監督の「それほど大きな問題ではない」というコメントが戦術的な意味か橋内へのファローかは文脈からは分からないが、ここの修正するかしないかも含めて、今後の鍵になってくるので「このエリアは割り切る」か「守備のやり方を変える」かははっきりしたいところ。
■失点後に縦に早くなる意識と戦術のズレ
また、この試合では序盤はボールポゼッションの意識が見られたのにも関わらず、失点後縦に早くなってしまうという悪癖も見られた。縦に急ぎたくなる心理も分かる(理由は後述)のだが、監督の方針からするとこれは恐らく真逆の形。「縦に急いでしまうから」とサイドの選手に幅を取らせる配置を取るわけでもなく、服部やアウグストのような選手に「シンプルに使う」という采配もしないので、「前→阪野のような選手個人のアイディア」か「フレッシュな選手」でしか打開は難しい。
そして、なぜ縦に急いでしまうのか。その答えは「ポゼッションにまだ自信や成功体験を持っていないから」だと推察する。
実際、後ろからのビルドアップによって「試合の安定性」は得られても「得点」に繋がったシーンはほぼない。徳島戦のジャエル(PK)、山形戦の大野(CK)前(ショートカウンター)セルジ(プレスから)、水戸戦の杉本(スローインから)阪野(クロスから)と「後ろからの組み立て」による得点はない。もちろん、繋ぐこと自体は否定したくない。ただ「得点」ということにフォーカスすると「プレスからのショートカウンター」「縦に早い攻撃」が意識として強いのは自然なようにも感じる。
それはこれまでの山雅のサッカーも背景としてあるはずで今日の13人のうち前・佐藤・鈴木・常田以外の9人は反町監督時代からのプレーヤー。特に阪野・セルジの前線や杉本・高橋ら崩しのキーになる選手たちがそうであるので縦に早くなるのは当然にも思う。選手の現在の適性よりも監督の志向にサッカーを合わせていくのならば、以前の「意識を上書きできるような強烈なロジック」か「ポゼッションへの意識付けの時間が必要になる」ので、すぐに結果を出すのはハードモードである。
ポゼッションへの意識付けをしていくのはこのタイミングなのか?今シーズンのうちにある程度の手応えを掴めないと現レギュラーの選手が出て行って元も子もなくなってしまわないか?などの疑問点は残るが、ボールを動かしていくサッカーに舵を切ることと結果を両方手にするには「我慢するしかない」といった感じかもしれない。
■選手起用に対する疑問
・交代でギアをあげたのは大宮側
そして、この試合で最も疑問だったのはベンチに5人(フィールドは4人)の大宮に対して、交代枠を2つしか使わなかった点。例えば反町監督もバランスを重視するタイプなので交代は遅くなりがちor引き伸ばしがちだったが、すでにオープンな展開になっている状況、勝負に出るしかない順位関係、コンディション的にも厳しい中で最後まで交代を使う様子がなかったのは疑問でしかない。
確かに残りの交代枠は浦田・米原・藤田・アルヴァロと得点に直結するタイプではないという点は考慮したとしても、大宮が前節もベンチに5人しかいなかったことや後半運動量が落ちたことを考えると、(勝ちにこだわるなら)終盤にギアを上げて点を取りに行くことはプランとして想定すべきだったし、「ここで切れるカードをベンチに入れてない」ことがそもそもミスに思える。
しかも、後半の、特に終盤は双方の運動量は落ちていても大宮の方が攻撃に勢いがあって、交代で入った菊地やイバが得点まであと一歩のチャンスを作り出している。何かを変えなければならない、変える選択肢を多く持っているのはこちら側だったはずだがそのまま試合は終わってしまった。
※ちなみにこの点に関してはこうコメントしているので今後にむけてと言ったところか
「もっとフレッシュな選手を入れる算段は、さんざんベンチでもしました。どこかでもう一つギアを上げたいとは思っていましたが、なかなか交代は難しかったゲームだったかなと思います。相手の高さやリスタートの怖さも含めて、高い選手を下げるのもどうか、ここに入れるとどうなるかみたいなやり取りをしましたが、結果的には交代枠を残したまま試合終了となってしまいました。もう少しゲームプランというか、ハーフタイムで最初の交代をしなかったことなど含めて、またスタッフで話し合っていかなくちゃいけないかなと思います」
・戦略的に破綻してるのでは
これだけ選手を絞ると、TMや練習時間もない中でサブ組の底上げも連携向上もできず、戦術を維持するために少数精鋭で戦うしかなくなってくるわけだが、まず主力選手の身体、コンディションが持たないのは誰しも思う。
琉球戦は「(選手の身体の限界でストップがかかり)連れて行こうにも連れていけなかった」とのことだったので、ここからサブ組も加えて戦術の浸透を図るのかと思われたがそれとはむしろ逆方向に向かっているため、このサイクルで選手が無理することにならないか、サブ組のメンタル面はどうなっているのかだいぶ心配である。
かなりの走行距離を出している戦術面、もしくは選手の起用の幅を広げる、Bプランを試すなどで戦略面を改善しなければならないようにここ3、4節で感じている。
■次は北九州戦。どのようにして勝負をかけるのか
そして、次節はまたしてもアウェイ北九州戦。琉球、大宮に続き、ここ数試合では結果が出せていないチームとの対戦になる。琉球戦のようにサブ組中心になるのか、はたまた強行させるのかはまだ見えてこないが、山雅もこの5連戦では負けこそ少なくても結果が出せていない(3分け1敗)ので勝って次の1週間を迎えたい。
前半戦とは違って不調の北九州ではあるが、ハイプレスと保持しながらの縦に早い攻撃は健在。大前提としてハイプレスを交わせないと勝負にならない(ビルドアップでもロングボールでも)。
システム的には山雅と噛み合っていないので相手が慣れるまではセルジのところが空くはず(そもそもセルジが出れるかは分からないが)。早い時間はプレス回避がうまくいく→シュートまでいける可能性は大いにある。これまで立ち上がりは押し込める時間が多いので内容がいいのでOKではなく、先手を取らなければならない。
しかし、相手の保持に対しては不用意にプレスをかけるとアンカー脇を使うのが得意な選手が多いので注意。3421の京都戦もディサロが3バックを引っ張り、そこでできたスペースをうまく活用してシュートまで結び付けていた。
(このポーズ好きです。山雅戦で見たくはないけど。)
これまで通り保持できるところは保持しつつも、落ち着いてきた時間帯にどう変化を加えていくのかは早急に答えを出さなければ「内容は良かった」で終わり続ける。大変な時期だが、久々の勝利にむけて良い変化を期待したい。
END
(画像は山雅・ギラヴァンツ北九州公式より)