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甲府戦レビュー~松本に現れたカイブツ~

16年高崎以来のハットトリック

湘南のユースに昇格失敗後、高校で毎試合点を取るような点取り屋に覚醒。挫折の後に一気にポテンシャルを爆発させた「相洋の怪物」鈴木国友が松本の地で再び飛躍の時を迎えている。

プチブレイクしたと言われた昨季の北九州時代ですら41試合(先発は19)6得点だったが、この試合で早くも5得点を記録。この先の期待値からするとまだ褒めるには早いのかもしれないが、少なくともこの試合では高校時代の異名「怪物」と呼ぶにふさわしい活躍っぷりだった。

これまでなかなか得点源が見つからなかったチームとしても、これによりいいイメージを持って次以降の試合に臨めるのはポジティブな要素だろう。鈴木国友という存在を相手が意識することによって次は他の選手が空くというような好循環を他の選手も生かしていきたい。

しかし……また勝ち点は1に留まったのもまた悩ましい。得点面で光明が見えた一方、ここ5戦は12失点。失点をしてもその分得点を取るというのは本来目指していた(?)スタイルに近づいたとも言えるが、得点は7なので単純に釣り合ってはいない。

あえて、厳しい見方をすると、開幕直後の「失点は少ないので……」が「得点は取れてきたので……」に変わっただけで課題が右往左往しているとも取れるため、もう1段階大きくなるためには戦術なのか、メンバー構成なのか、もう1回り大きくなっていく必要があるだろう。

昇格を目標とするならばそろそろ連勝街道を進むだけの骨組みは見せていきたい。

システム

~勝手にMOM~

MOM:鈴木国友
→文句なし。以上。

次点:佐藤和弘、河合秀人
佐藤→中盤3枚の底に入ることで息を吹き返す。前半のプレーはとても褒められるものではなかったが、後半それを取り返すような活躍を見せた。
河合→この人も言わずもがな……。良い意味で平常運転。

~戦評~

■横山の初先発、阪野はベンチスタートに

前節磐田戦の敗戦を受けて、山雅はスタメンを野々村→大野、阪野→横山に変更。前者は決めかねている左のCBの人選や篠原・橋内の共存を考えてか、ここまでCBで最長出場だった野々村がベンチスタート。後者はここまでノーゴールの阪野を(温存も兼ねて?)横山になった。横山は山雅での最年少スタメンとなった。

対して甲府は三平→鳥海、野澤→中村に。大卒ルーキー鳥海はこの試合でプロ初先発。鳥海・関口・長谷川は1年目、中村は生え抜き2年目、荒木は3年目、岡西は9年目、山本は10年目。11人中7人と、生え抜きの目立つスタメンとなった(ちなみに新井もデビューは北九州だが、甲府で9年目である)。
基本システムは3バックを採用しているが、流れの中で4バックに可変するのは19年に伊藤監督就任後から継続的に取り組んできており、この試合でも変わらず。違いと言えばCFに鳥海が起用されたことで0トップ気味になっていた。

■溺れていくことに気づかず沈んだ前半

・横山にとっては難しい試合に

序盤から積極的にボールを保持し、ゲームを支配したのは甲府。3バックと4バックのスイッチ役になるCB中央・山本には横山がつくことになったが、カバーシャドウの動きでケアさせているわけではなく、CBへのプレスはシャドーが担当していたため、プレス距離は長く、その分のしわ寄せは佐藤・前の両DHがすることに。

5分のシーンでは中村が佐藤を引き付け、空けたスペースを長谷川がうまく使うことで、新井からボールを引き出し、フリーでボールを運ぶシーンを作り出す。1人で2人を見なければいけない佐藤はもちろん、篠原が行くにも距離があり、山雅の守備陣が後退せざるをえないシーンを序盤から作られていた

ビルドアップ (3)

このシーンではその後、中に入ってきた荒木のミドルシュートが大きく外れ、致命的な形は作られなかったが、逆サイドでの泉澤・荒木の中⇔外の入れ替えも甲府らしいデザインされたコンビプレーだった。

こうしたシーンを作られないように、山雅も途中からは下りていくシャドーの選手にCBがついていくような修正を見せるも、その裏のスペースを鳥海や泉澤の飛び出しに使われ、前半だけ見ると甲府の準備してきた対策が終始山雅の修正能力を上回っていたのがスコアという結果に出ることに。

それをさせないためには①出し手(CB)のプレーを限定する、②前線が撤退してスペースを圧縮、中盤の数的不利を作らせないようにする、という1つ2つ手前のプレーを妨げる必要があったが、ここの解決が前半45分でされなかったことで押し込まれる時間が増え、甲府が得意だと分かっていたクロスを容易にあげられてしまった。

まだまだこれからの高卒ルーキーにそれだけのことを求めるのは酷なようだが、横山はまだ攻撃でその分を補うだけの計算はできていない。彼を使って前からハメに行く戦いをする場合はたとえ前半で体力が尽きようとも横山に2度追い3度追いをさせて、スピードと運動量でいつも阪野が行っている守備のタスクをカバーしてもらう必要があるかもしれない。

・練習だけで止められたら苦労はない

それでも押してるほうが勝つわけではないのがサッカーの面白さ。その後、前半8分で先制したのは山雅だった。前がファールを貰ったところからのリスタートでゴールが生まれたが、あの位置から質の高いクロスを供給した外山とファーストチャンスで仕留めた鈴木を褒めるべきゴールだろう

これまでの試合ではアタッキングサードへの侵入はある程度できても、その後のクロス→シュートのデザインまでいってないことが多かったので、セットプレーやリスタートで、いわば"クロスを上げて合わせるだけ"のシーンを作れたのは良かった。荒木-メンデス間に不安を抱える甲府の弱点を突いた形にもなり、一瞬のスキを突いた。

甲府も鈴木のことは最重要選手として警戒していたはずだが、分かっていても止められない(エラーが起こりやすい)からセットプレーからの攻撃は怖い。王者・川崎であっても塚川のような空中戦に強さのある"人"を変えることでセットプレー・パワープレーに備えるのはこうした側面があるはずだろう。

それを防ぐだけのロジックがなければいくら練習しても決められるときは決められるということは、このシーンからも、そして1失点目3失点目からも学んでいかねばならない

・数的不利を作られ続けた前半

しかし、先制点を決められた甲府もやることは明確に決められていたのでそれほど動じることはなく、山雅はその後もアタッキングサードへの侵入を許し続けた。クロス対応の練習に時間を割いてきた今週の山雅だったが、これだけその手前のシーンで混乱を起こされていてはそうそう練習通りとはいかない。

特にライン際にポジションを取っていた泉澤の得意とするドリブルはJ1でも通用するレベルにあり、そこを武器に海外に渡った経験があるほどの選手なのでそこへの対応が整理されていない(具体的にはカットインにも縦への突破に対しても下川が1人で対応していた)のは混乱が起きるのは当然である

前半31分の泉澤のカットインのシーンでもまずは下川のところで1VS2を作られ⇩

泉澤 (2)

慌てて3人の選手がケアに行ったことで泉澤のカットインへのケアも、ニアの選手が引っ張られることによるファーのケアもできていなかったシーンだった⇩

泉澤2 (3)

クロスからの失点は単純なマークの甘さということもあるが、クロスの前の甲府の得意パターンである大外の泉澤のカットインと荒木のインナーラップに対してどれだけの対策ができていたか。

まずここに気を取られ、バランスを崩されていたことによるしわ寄せでファーサイドが空いていたようにも思う

実際に失点を喫したこの直後の35分でも、泉澤のカットインには人数をかけるようになっていたものの、ファーサイドの野々村のところで1VS2を作られていたところは数分前のシーンから変わらず。

さらに監督コメントで

前半は逆サイドへのクロスでやられていましたが、外山が対応できていなかったと思います。泉澤選手と対峙する選手を変えるというよりは、そこの対応をしっかりとするためです。クローズにゲームを進めていくことを覚えてないと、また同じような失点をしてしまいます。そういう意味では、彼にも高い授業料を払ったと思います

とあるように単純に外山が戻り遅れていたというのもあった。後半は下川と外山を変えることで対処できるようになっていたが、本来はもっと早く修正できていなければ致命的な展開になっていた。順位表を見ると授業料が返せないくらい溜まってはきているのも考えていかねばならない。

・想定以上にハマっていた甲府の山雅対策

こうして前半で1-3と先制しながらも2点のリードを与えて折り返し。失点ごとに問題点は様々だが、大枠は同じやられ方と言ってもいいだろう。いずれも山雅の悪癖をよく分析し、より再現性の高い手段で3得点奪ってみせた。

ただし……前節の山雅のように今節の甲府もハマりすぎたことによってイケイケになって攻め疲れのような現象は起こってしまう。こうなると局面をひっくり返された時に同じだけのギアをいれて攻撃するのは難しい。極めて結果論だが、前半のうちに3点差をつけられなかったことで完全に沈めきることはできなかった。

■再び山雅を引き上げた男達

・試合に均衡をもたらした阪野の献身性

そこから後半。2点差でまだ追いつく可能性はあるスコアとはいえ、前半と同じことをしても果てしなく可能性が低いのは明らかだったので、阪野投入に加えてシステムを352に変更する大舵をきる

監督コメントからも分かるようにまずは中盤の人数を増やし、外山と下川も入れ替え、まずはトドメとなる4点目を阻害することに力を入れる。この修正策は理にかなっており、先ほどの①出し手(CB)のプレーを限定することによって後半は相手の前進を防げるようになり、クロスに対しても左の大外がフリーとなるシーンはなくなった。

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そして、このシステム変更に応え、自分の存在価値を改めて示したのが阪野。守備で穴を空けることなく、アンカーの位置に入る山本を消しながらコースを限定。攻撃でも後半1人だけ体力のある状態からスタートしたこともあり、前半では相手に処理されていたロングボールをマイボールにすることができていたのは大きかった。結局この試合でも得点は取れていないのは残念ではあったが、チームに安定を与え、同点劇の影の立役者にもなっている。

・甲府の疲労とラストのピースとなった鈴木国友

甲府側の前進が難しくなったことで奪取の位置も高くなる→攻撃も高い位置から始められる。さらに奪った後のプレーの保持時も佐藤が浮くようになることで押し込む時間が増えた。2点目もクロス自体は何でもないものだったが、そこから下川、阪野がフィジカル勝負を制して、佐藤のミドル→鈴木のこぼれ球をゲット。バランスよく保持できたことで前線の厚みが増したのを象徴したような攻撃だった。

そして、このあたりから甲府の疲労の色も濃くなり、前線に有田、山田陸を投入。この日の前半でキーになっていた鳥海、長谷川の大卒ルーキーコンビを下げて活性化を目論んだが、有田・野津田・泉澤の前線は前半の上手くいきすぎていた前線とは全く別物になってしまう。

"1点差となって勢いを増した山雅"と"CF阪野とアンカー佐藤の登場で攻守に混乱の様子が見えた甲府"。後は山雅側が1点2点と決めきれるか?という展開だったが、その問いに応えてみせたのもまたしても鈴木国友。パスを出した前を信じて、走りをとめなかったのは乗っている証拠。

アタッキングサードをどう攻略して、どのように点を取るかはまだ解決されてはいないとはいえ、この男が勝負できるシチュエーションを作るというのは1つの解決策として生み出すことが出来た試合となった。

■天国になるか?地獄になるか?下位との4連戦

一転、逆転も見えてきた試合となったが、結局(もう何度目か分からない)"絶対に負けられない試合"はドローで終わる。まだまだ降格圏にいる山雅は次節、監督交代後1勝1分けと好調の愛媛と対戦。愛媛とは去年H&Aでダブルを達成したものの、元京都の實好監督とは昨季2分け。出方のまだ分かりきっていない愛媛に対して山雅は手の内を知られている状態にはなるが、それを乗り越えるだけの対応力、底力を見せたい。

いよいよドローも許されない逆天王山。負ければ順位がひっくり返るとあって相手も並々ならぬ意気込みで向かってくるはず。

しかし、より高いものを目指すためにも、次に希望を繋ぐためにも、平日アウェイということは関係なく"絶対に勝たなければならない"。もっというとその先の群馬、北九州、相模原相手にも勝ち続ける必要がある。

1つ1つの結果が天国にも地獄にも直結するこの4連戦。笑って乗り越えられるようにチームを信じていきたい。

END

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