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スタートアップの質問箱――採用がうまく進まない→スペックを落としたほうがいい?

HAX Tokyoチームがスタートアップの抱える悩みに回答する本企画。今回のテーマは、「採用がうまく進まないので、スペック(採用条件)を落とそうか悩んでいる」です。

スタートアップが前に進むためには、同じ目標に向かって進む仲間が不可欠。ただし、常に条件にぴったりの人が見つかるとは限りません。さまざまな判断軸があるなかで、スタートアップの採用で優先すべきことについて伺います。

スペックよりも文化のマッチを優先すべき

―― 採用活動がうまくいかず、悩んでいるスタートアップは多そうです。Webサイトでの募集などのほかに、どのような手段があるでしょうか。

岡島:チームメンバーからのリファラル(紹介)に頼るのは一つの手段です。それでも出会いがないのであれば、VCのネットワークを活用してみてはいかがでしょうか。

VCはスタートアップと優秀な人材を繋ぐ目的でイベントを開催したり、独自のネットワークを持っていたりします。付き合いのあるVCであれば、直接相談してみるのもよいでしょう。その際には、資金調達のためのプレゼンテーションと同じように、「現状の課題としてチームメンバーが足りないので、こういう人を紹介してほしい」と論理立てて伝えることで、普段の付き合いの延長のようなコミュニケーションができるはずです。

―― 採用をするにあたって、個人のスペックはどこまで重視すべきでしょうか。

市村:そもそも、スキルで人を採らない方がいいと考えています。小さなチームではエンジニアや営業など、「特定の業務ができる人物」を求めてしまいがちですが、スキルで採用した人がチームの文化にマッチしないと、あっという間に溝が生まれてしまいます。スタートアップの規模によってチームの文化もさまざまですが、たとえば創業者との相性を測ってみるのもよいでしょう。ある経営者は「その人と出張先のホテルで同じ部屋になったとしても大丈夫か」を採用の基準にしていると言っていました。

岡島:相性よりもスキルを優先したせいで、チームが瓦解してしまう話はよく耳にします。

市村:会社として成し遂げたいことや創業者のビジョンに、候補者がどの程度共感できるかも確かめるべきです。スキルは努力すれば習得できますが、人間関係やビジョンへのマッチ度を高めていくのは、なかなか難しいですから。スペック云々よりも、チームとの相性やビジョンへの共感度へと、判断の物差しを変えてみてはいかがでしょうか。

―― スペックの高さではなく、文化とのマッチングを優先した採用に切り替えた方が、結果として長続きするということですね。

正社員としての採用は慎重に

―― 採用形態についてはどうお考えでしょうか。正社員以外にも、業務委託やアルバイトのような選択肢がありそうです。

岡島:お互いが全力で仕事ができるのであれば、契約の形態はなんでもよいと考えています。業務委託は割高になりがちなので、そのコストを抑えたり、他の会社に流れるのを止めたかったり、といった理由で正社員にシフトすることもありえるでしょう。ただし、一般的に、正社員を採用すると解雇しづらいということは認識しておくべきです。

市村:僕は「正社員の雇用は、慎重になった方がよい」と強く考えています。いずれ正社員として一緒にやっていく人であったとしても、業務委託でお試し期間を作るべきです。これは文化とのマッチを見る意味もありますが、会社としての二つのリスクを減らすことにもつながります。

一つめは、チームを率いることのリスクです。採用によって課題を解決しようとすると、人が増え続け、最終的に人のマネジメントが仕事になってしまう。こうなると、本来すべきことのスピードが落ち、業務が回らなくなってしまいます。複数人をマネジメントした経験があるなら話は別ですが、未経験でチームを率いることの難易度は決して低くありません。

もう一つは、金銭的なリスクです。正社員を雇用することで、バーンレート(一ヶ月あたりの支出)は確実に上がります。特定の業務を遂行するためだけに人が必要なら、正社員でなくスポットで入ってもらった方がよいでしょう。「労働力が欲しい=正社員採用」という考え方は改めるべきだし、本当に正社員としての採用が必要なのかは、会社が抱えるリスクの面からも慎重に考えてください。

相性を見るために、まずは小さく一緒に働く

―― 正式採用前の段階で、チームや企業文化との相性を測るための手段があれば教えてください。

岡島:お互いにいつでも解消できるようなリスクの低い契約にして、一緒に小さなプロジェクトを回してみてください。短期間でプロジェクトを進めながら、お互いの長所や短所を見出し合うようなイメージです。そのなかで契約を続けるか否かを判断する以上に、お互いの相性を確かめる方法はないと考えます。

市村:僕は初めて付き合うスタートアップと仕事をする際、最初の1ヶ月はお試しとして無償で働くことがあります。お互いのことがわからないと貢献の仕方もわからないし、フィーも算出できない。1ヶ月の間一緒に働くなかで、その後の契約や付き合い方を判断しています。

さらなるスモールステップとして、焦らずにコミュニケーションを取ることも大事です。一緒にお茶を飲んだり、ご飯を食べたりしながら、その人のコミュニケーションの流儀や事象に対する考え方を見たり、こちらも会社の情報をきちっと伝えて判断してもらう。そういったステップもないがしろにせず、時間をかけて確かめていくとよいでしょう。

取材・文:淺野義弘 / シンツウシン

回答者プロフィール
株式会社プロメテウス代表取締役 市村慶信

国内電機メーカーの半導体営業・企画部門にて営業業務を通じて電子機器製造のサプライチェーンの理解を深める。その後2007年から電子部品商社の経営企画部門に移り会社経営に従事。経営の立て直しを行いながらベンチャー企業への経営支援や提案を実施。2014年に株式会社プロメテウスを創業。これまでの経験を活かし国内外で複数のベンチャー、広告代理店など、非メーカーのプロジェクトの立ち上げ・経営サポートを行う。

ファストセンシング株式会社 岡島康憲
大学院修了後、動画配信サービスやIoTシステムの企画開発に従事。2011年にハードウェア製造販売を行う岩淵技術商事(株)を創業。企業向けにハードウェアプロトタイピングや商品企画の支援等も行う。2017年には、センサーにより収集した情報の可視化プラットフォームを提供するファストセンシング(株)を創業。並行して、様々なスタートアップ支援プログラムの立上げ・運営を行う。


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