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スタートアップの質問箱――現職をいつ辞めて、フルコミットするべき?

HAX Tokyoチームがスタートアップの抱える悩みに回答する本企画。

今回のテーマは「現職をいつ辞めて、フルコミットするべきか」です。組織に勤めながら起業の準備を進めている人にとって、本格的に舵を切るタイミングは悩ましいもの。辞めるメリットとデメリットを整理し、今から取るべきアクションについて考えます。

業態によってフルコミットのタイミングは異なる

市村:結論から言うと「フルコミットしないと事業が立ち上がらない状態」までは現職を辞めなくて良いと思います。プロダクトを開発している最中や、ビジネスを始めようとしている段階では、まだ辞めなくてもなんとかなる。事業の拡大を狙うフェーズでは、時間もスタッフも必要になるので、フルコミットしないと事業が回らなくなるでしょう。

ただし、ハードウェアの場合は、ほとんどのケースで早い段階から資金確保が必要になるため、製造前の段階でフルコミットして資金調達活動を行わないと、事業が立ち上がらない可能性が高いです。

岡島:ソフトウェアであればプロトタイプ段階でも出資の検討などしてもらえますが、簡易的、あるいはコンセプトレベルのハードウェアでは、事業内容にもよりますが出資判断に直結する事業の有望さについて相手は何も判断できません。そういう意味では、ハードウェアは覚悟が必要な領域と言えるかもしれません。

会社を辞めるメリット・デメリット

市村:会社を辞めるメリットのひとつは、自分の時間的リソースを100%以上投入できることです。また、法人を作ることで、銀行からの借り入れや投資家へのプレゼンなど、資金調達を行いやすくなります。

岡島:投資家の目線では、いわゆる「二足のわらじ」状態では投資を検討しづらい面があります。例えばアカデミア領域にいて事業にフルコミットしていないと、「本当は事業ではなく研究がしたいのではないか?」と思われがちです。事業成長のために行うべきことを避けている、と思われないためには、お客さんの候補を見つけるなどのアクションを先んじて行う必要があります。

市村:もう一方で会社を辞めることの分かりやすいデメリットは、個人としての収入が一時的に下がることです。会社としての資金力やランウェイ(資金が尽きるまでの残り期間)を考えるのと同じように、個人としてのランウェイも確保しておきましょう。

市村:「貧すれば鈍する」という言葉もあるように、資金的に余裕がない状況では正常な判断をしづらくなります。具体的には、長期的視野やビジョンに沿った判断や行動よりも、直近の成果や売上に繋がるものを重視する傾向が強くなってしまいます。

岡島:確保しておくべきランウェイは人によって違います。技術があり、何かあってもすぐ転職できる人であれば数カ月分で良いかもしれないし、起業に失敗したダメージを引きずってしまう人には2年分くらい必要かもしれない。一定期間給料がなくても生活できるレベルのランウェイは、それぞれの個人がきちんと考えておくべきです。

市村:また、それまでの職場を離れてフルコミットすると、勤務先の情報網や研究室の装置、アカデミアの補助金など、使えなくなるアセットも出てくるでしょう。起業の準備をしている様子を可能な範囲で人に伝えておくことで、アセット面でのサポートが急に断ち切られるリスクはある程度下げられます。

スパッと辞める前に、周囲にやりたいことをアピールする

岡島:現職の環境が嫌で辞める場合は別ですが、応援されるようなかたちでフルコミットに向かうのであれば、在職中にさまざまな準備をすべきです。普段は関わらないような別部門の人も含め、欠かさず話をしてみると、思わぬところから経済的なサポートを受けられたり、まだ見ぬお客さんを紹介してもらえたりするかもしれません。全てを声高に喧伝する必要はありませんが、離職前にアクションを起こすことで、いざという時に支えてくれる関係を作れる可能性があります。資本政策に詳しい人や、投資家や製造業とのつながりも構築できれば、ハードウェア領域でのフルコミットにも役立つでしょう。

僕自身の感覚としても、会社を辞めて起業し、自分のポジションを確保している人たちは、情報発信の上手い人が多いです。人的ネットワークを効率的に使うために、取捨選択をしながら自分をさらけ出している。逆に、一切の情報を隠すスタイルは、ストイックな研究開発型のベンチャーでもない限り、あまりメリットを感じません。

―― 創業準備中というある意味中途半端なステイタスで、どのように自己アピールすれば良いのでしょうか。

岡島:あくまで起業は手段でしかないので、「いずれ起業をしたいです」という自己紹介は筋が悪い。何を生業にするかが明確になっているのであれば、「こういうものを作りたい」というアピールが最初で、その上でプロダクトに価値を感じる人が多ければ法人化するかもしれない、という語り口や見せ方が自然です。

市村:自分と相手の関係をよく考慮して、自分の見られ方を考えた上で言葉を選べると良いですね。今の肩書きに興味を持つ相手であれば、それを軸に話しても良いし、ライトニングトークのような場であれば、所属よりもやりたいことや作っているものを優先すべきです。

また、普段から「こういう人を探している」「こういうことをやりたい」と口に出していると、思いがけないところから人を紹介されたり、助けてくれたりします。やりたいことは日頃からどんどん口に出していくと、実現する可能性が高まります。

(取材・聞き手:淺野義弘 / シンツウシン)

回答者プロフィール
株式会社プロメテウス代表取締役 市村慶信

国内電機メーカーの半導体営業・企画部門にて営業業務を通じて電子機器製造のサプライチェーンの理解を深める。その後2007年から電子部品商社の経営企画部門に移り会社経営に従事。経営の立て直しを行いながらベンチャー企業への経営支援や提案を実施。2014年に株式会社プロメテウスを創業。これまでの経験を活かし国内外で複数のベンチャー、広告代理店など、非メーカーのプロジェクトの立ち上げ・経営サポートを行う。

ファストセンシング株式会社 岡島康憲
大学院修了後、動画配信サービスやIoTシステムの企画開発に従事。2011年にハードウェア製造販売を行う岩淵技術商事(株)を創業。企業向けにハードウェアプロトタイピングや商品企画の支援等も行う。2017年には、センサーにより収集した情報の可視化プラットフォームを提供するファストセンシング(株)を創業。並行して、様々なスタートアップ支援プログラムの立上げ・運営を行う。

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