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スタートアップの質問箱 ― 営業って、どう進めたらいいの?

スタートアップから寄せられる悩みにHAX Tokyoチームがお答えする「スタートアップの質問箱」。

今回のテーマは、スタートアップの営業活動の進め方。最初にアプローチすべき営業先や、サポートする人々とのつながり方、営業管理のコツなどを伺います。

営業は準備と調整が8割。身近なところから確度を上げていく

――スタートアップはどのように営業を始めれば良いのでしょうか。

市村:やみくもに営業を始める前に、まずは自分たちのプロダクトやサービスを使うお客さんの姿を明確にすることが必要です。toBにせよtoCにせよ、もし実際に利用するユーザーが思い浮かばないのであれば、そもそもその事業は筋が悪いかもしれません。

ユーザーの姿がはっきりしたら、モデルになりそうな個人や会社を調べて、リストを作っていきます。最初のうちは営業先で製品を売り込むというよりも、自分達が作ったものを紹介しながら、想定していた機能や価格とユーザーの感覚にズレがないかを確認してください。ヒアリングを通じて調整していけば、後の営業の確度も上がっていくでしょう。

――営業とは言いつつも、セールスよりもマーケティングのような内容ですね。

市村:営業は事前にかけた時間で実際直接話す際の打合せの質が変わってくるので準備は非常に大切です。ただ、慎重になりすぎても前に進まないので、「知り合いがいる」「ツテがある」といった当たりやすい企業を調べてみると良いでしょう。

岡島:開発中のユーザーテストの被験者は、ある意味で最初のお客さんであり、最初の営業先候補にもなるはずです。そのような人から得られたフィードバックは具体的な実績になるので、その他の営業先へのアプローチにも役立ちます。身近な個人から企業へと、軸足を移していくような順番で進めるのがおすすめです。

一般的な企業とのつながりは、たとえば大規模な展示会などで得られます。展示会に参加している方々は比較的コミュニケーションに積極的なので、いきなりのメールなど露骨な営業よりは成功率が上がるでしょう。

営業相手のことを知り、業界の頂上から攻めていく

――営業先の候補には大小さまざまな企業が含まれそうですが、どんな順で声をかけていくべきでしょうか。

市村:同じようなグレードの企業が複数ある場合、もちろん全てに営業をかけても良いのですが、まずはそれぞれの企業を丁寧に調査してください。売上が立っている部署や中期経営計画などをはじめ、インターネット等を活用して個別の対策を立てながら、自分達のビジネスと相性が良い相手を見極めましょう。

岡島:規模の違う企業がある場合、極力大きい方からアプローチすることを勧めます。押し切れるか少し不安なくらい大きな企業だとしても、まずは行ってみる。なぜかと言うと、きわめて小規模な企業への営業が成功したとしても、そこから積み上げて上流に辿り着くことは難しいからです。

逆に、もし業界のトップに認めてもらえれば、そこからドミノ倒しのように関連会社につながっていきます。そのため、まずはどうにかして最上流にたどり着く戦略を考えてアプローチした方が、最終的な効率は良い。金融機関や行政、アクセラレータなども活用しながら、ツテを辿っていきましょう。

サブウェポンとして「自分自身」を売り込む

――営業のために新しいコネクションを作るのは、なかなか難しそうにも思えます。

岡島:事業そのものを売り込むのとは別に、自分という人間を売り込むスタイルの営業もあり得ます。通常の営業と並行して、自分自身をフックにしてコミュニケーションを仕掛けていく。具体的には、自分が手がけているプロジェクトや考えていることを、想定されるユーザー以外にもどんどん発信していくべきだと思います。

市村:営業と聞くだけで身構えてしまう人もいますが、誰彼構わずやりたいことを伝えていくことは、最初の一歩としてはとても良いですね。スーツを着て足で稼ぐだけでなく、SNSに自分の考えを書くことも一種の営業と捉えて、そこから始めてみるという提案ですね。

岡島:そうですね。異業種の友人をはじめ、VCや行政関係者、自分が法人口座を持っている銀行の担当者などにも話をしてみる。事業と直接のつながりは薄くても、金融機関や大手起業に勤める人、部長クラスの人々などとは日頃からコミュニケーションをとっておく。異業種交流会に抵抗があったとしても、しっかり目的を持って、自分をどの業界・どういう人に売り込むかを意識して参加すれば、将来的に自分の営業をサポートしてくれる人とつながれるかもしれません。

自分の会社だけでアプローチできる範囲には限界がありますから、社外の協力を集めるための種まき、あるいはひとつの投資として、自分をフックにした営業活動を考えてみてください。その際には、プロジェクト自体の良し悪しはもちろん、「こいつが話すなら聞いてやっても良いか」と思われるような関係性を築くこともポイントです。

――情報発信や異業種交流会への参加の他に、なにか良い方法はありますか?

岡島:ハッカソンやアイデアソンに参加すると、同じチームになった人が別会社の営業担当だった、なんてことが起きます。そこから縁がつながるケースもあるので、一見関係なさそうな場であっても顔を出してみましょう。効率は悪く、確度も低いかもしれませんが、意外と一発逆転のネタが眠っているかもしれません。

とはいえ、あくまでメインの武器は自分達のプロダクトやサービスなので、そこは外さずに。個人を全面に出した売り込みは、あくまでサブウェポンだと意識しておきましょう。

議事録だけでなく、営業先のリストを作って管理せよ

――すぐに使える営業のコツなどあれば、教えていただきたいです。

市村:確実にやった方が良いのに、やられていないことのひとつが、営業先のリストを作って一覧で管理することです。営業を本格的に始めたら、「いつ行ったのか」「どういう話をしたのか」「脈の有無」「ネクストアクション」などの情報を会社ごとにまとめておいてください。営業が1回で終わることはまずないので、最適なタイミングを逃さないためにも、常に明瞭なリストとして残しておきましょう。

岡島:取引先の数が多い大企業は当たり前にやっていることですが、そうでないスタートアップはリストでの管理を蔑ろにしがちです。たとえ営業先が指折り数えられる程度の数であったとしても、貴重な思考のリソースが割かれてしまうので、リストとして外部化することで負担を減らしましょう。

「議事録を作っているから問題ない」と考える人もいますが、打ち合わせのディテールをまとめた議事録と、複数の案件を俯瞰できるリストは別物です。リストに記載するパラメータが洗練されていけば、新規営業先での初回打ち合わせやアジェンダも明確になるので、新規営業開拓にも役立ちます。
(聞き手・文:浅野義弘)

回答者プロフィール
株式会社プロメテウス代表取締役 市村慶信

国内電機メーカーの半導体営業・企画部門にて営業業務を通じて電子機器製造のサプライチェーンの理解を深める。その後2007年から電子部品商社の経営企画部門に移り会社経営に従事。経営の立て直しを行いながらベンチャー企業への経営支援や提案を実施。2014年に株式会社プロメテウスを創業。これまでの経験を活かし国内外で複数のベンチャー、広告代理店など、非メーカーのプロジェクトの立ち上げ・経営サポートを行う。

ファストセンシング株式会社 岡島康憲
大学院修了後、動画配信サービスやIoTシステムの企画開発に従事。2011年にハードウェア製造販売を行う岩淵技術商事(株)を創業。企業向けにハードウェアプロトタイピングや商品企画の支援等も行う。2017年には、センサーにより収集した情報の可視化プラットフォームを提供するファストセンシング(株)を創業。並行して、様々なスタートアップ支援プログラムの立上げ・運営を行う。

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