TAM・SAM・SOMの正しい使い方——それらしい数字に頼らず市場規模を考える
スタートアップがピッチや壁打ちで事業を説明する際、市場規模をTAM・SAM・SOMに分類して伝えることがあります。これらは市場規模を性質別に分けた用語ですが、それぞれの意味を理解し、適切に使えているでしょうか?
深く考えずそれらしい数字を当てはめただけでは、事業の狙いやチームの視点が伝わらず、曖昧な印象を与えてしまいかねません。そもそも市場規模は定義が難しいもの。TAM・SAM・SOMを絶対的な指標ではなく、事業やチームの魅力を伝えるためのツールとして捉え、正しく利用する方法についてお伝えします。
市場の見方は営業戦略に直結する
市場規模を評価する際に伝えるべきポイントは、市場のサイズ自体と、その市場をどう捉えているかの二点です。先行する企業があり、分野として既に確立している市場ならば、その規模は伝えやすいでしょう。しかし、スタートアップはまだ未開拓のビジネス領域に挑戦することもありますから、その場合は「何を市場と定義しているのか」から明確に説明する必要があります。
市場の定義は、ビジネスディベロップメントや営業戦略にも直結します。直近の営業戦略や売り上げの拡大、将来的なシェアを伸ばしていくための指針にもなりますから、その定義が不適当であると、長期的にも悪い影響が出かねません。市場規模の設定は、スタートアップに長期的に関わるもの、という認識を持っておきましょう。
そもそも、ピッチや壁打ちの資料は、資金調達をはじめ他者の協力を得るために作成されるものです。相手に動いてもらうためには、自分たちが何から着手して、どこまで事業を大きくするつもりなのか、つまり直近の行動予定と将来的な目標の話が欠かせません。極端に言えば、この二つを正しく伝えられるのであれば、表現の方式はなんでも構いません。しかし多くの場合、TAM・SAM・SOMというフレームワークを使用することで、聞き手に伝わりやすい説明が可能になるのです。
TAM・SAM・SOM を思考の補助線にする
ここからは、TAM・SAM・SOMの内容を具体的に見ていきましょう。
上記が一般的な説明です。より感覚的にいうならば、比較的早く取れそうな市場(SOM)、頑張ったら取れそうな市場(SAM)、自分たちでは届かない領域も含んだ市場全体(TAM)となります。
Amazonを例に考えてみましょう。AmazonにとってのTAMはEC全体ですが、まずアプローチしたのは本のECでした(SOM)。ここを獲得したのち「嗜好性が強く在庫リスクが低い」という共通点を持つ、CDのECへと市場を拡大していきました(SAM)。最終的には、EC全体まで広げてサーバーリソースなども提供する……という展開が可視化されます。
TAM・SAM・SOMを使う目的は、聞き手にチームの視点や戦略を分かりやすく伝えることです。図上に数字だけ載せても伝えられる情報は少ないですから、それぞれの領域に「提供するプロダクト」「顧客になりうる相手」「競合になりうる相手」の情報を盛り込むと良いでしょう。Amazonであれば街の本屋やCDショップ、その他IT企業も競合になります。個別の社名も含めて具体的に記載することで、現状の認識を高い精度で伝えられるでしょう。
事業の進め方や競合などを具体的に想像し、それらをTAM・SAM・SOMに落とし込んでいくと、自然と説得力のあるストーリーが生まれていきます。ただ作業的に数字を埋めるのではなく、目の前の顧客やプロダクトの未来の姿を落としこみ、相手に想いを伝えるための補助線としてTAM・SAM・SOMを活用しましょう。
誰かの確かな数字より、自分だけが知る積み上げを
「フードビジネスに取り組むので、地球上70億人の3食×365日が年間のTAMです」と言われても要領を得ないように、定量的な数字の全てに意味があるとは限りません。これは極端な例ですが、たとえば介護市場を対象としたとしても、その中には健康食品や介護用おむつ、サービス付き高齢者住宅など、多岐にわたる事業領域が含まれています。それら全てに取り組む想定ではないのに、業界の規模をそのままTAMに採用すると不自然さが生じます。
大事なのは、定めた数字の意味を正しく理解しているかどうか。検索して出てきた「それらしい数字」をそのまま入れるよりも、自分たちの思考や体験から積み上げた、手触り感のある数字にこそ価値があります。聞き手はTAM・SAM・SOMを通じて学術的・公的な根拠だけを知りたいのではなく、経営者やチームの体験や思考を理解したいのです。
そもそも市場は定義が難しく、立場や時期によっても変わるものです。一度TAM・SAM・SOMを立てた後に、市場の見え方が変わることもあるでしょう。事業を進める中で適切にアップデートできれば、その変化はポジティブに受け止められるはずです。単純な数字に振り回されるのではなく、自分たちがTAM・SAM・SOMを定めた根拠を語れることや、変化させていく柔軟性の方が重要なのです。
(取材・文:淺野義弘 / シンツウシン)
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