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憲法を作ってみました

医療において「原則」とは何でしょうか? 「いきなり何?」と思われるかもしれませんが、コロナ禍で殺伐とした医療現場において、これが最も重要かつ求められるものと思いました。

「原則」について、フランクリン・R・コビー博士はそのご著書『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』の中で、「原則は人間の行動を導く指針」であり、「実りのある人生を支える基本的なもの」と捉えておられます。

わたしの考える「医療における原則」とは、「患者さんとそのご家族が笑顔になること」です。治療結果はともかくとして。「人は必ず死ぬ」もある意味「原則」ですが、これは「生物の原則」であって「医療における原則」とは分けて考えております。

ある日、救急外来に次々と救急患者受け入れ要請が入って、ベッドもマンパワーも限界に近づき、看護師をはじめスタッフがこれ以上患者を受けられないと思っていたときに、もう1件要請が来ました。ここで必ず行われる議論として「医療安全上、これ以上患者は受け入れられません。」とか「患者を待たせるわけにはいかないし。」など、「受け入れられない理由探し」が始まります。そこで「何とか頑張って受けようよ」と言おうものなら、「病院が儲かれば、職員はどうでもいいっていうことですか?」とか、「患者に何かあっても、私は責任取りません!」などと感情的に返される始末。残念ながら、そこに患者はおりません。

しかし、職員たちは(人にもよりますが)みんな、患者さんを受け入れて治そうと一生懸命に努力してくれています。にもかかわらず、このような感情を湧き起こさせ、現場が殺伐となってしまうのはなぜなのだろうかと以前から考えていました。

コビー博士はご著書の中で、ミッションステートメントを作成することを推奨しておられます。「ミッションステートメントとは、信条あるいは理念を表明したもので、どのような人間になりたいのか(人格)、何をしたいのか(貢献・功績)、そしてそれらの土台となる価値観と原則を書く。」とあります。

どこの病院でも病院理念はあります。ちなみに当院の病院理念は、「こころとからだの全人的医療を通して、愛し愛される病院を目指します。」です。素敵な文言だとは思うのですが、若干抽象的なことと、「目指す」という部分がやや意志の弱さを感じました。

コビー博士はまた、「ミッションステートメントは、その人の憲法と言える。正しい原則を土台としていれば、その人にとって揺るぎない基準となる。その人の憲法となり、人生の重要な決断を下すときの基礎となる。変化の渦中にあっても、感情に流されずに日々の生活を営むよりどころとなる。それは、不変の強さを与えてくれるのだ。」と仰っておられます。そこで、わたしも自分の病院の憲法を書いてみました。

地域住民がメンタルで困ったらときに「当院に相談してみよう!」と最初に選ばれる病院になる

家族や友人などあなた(職員)の大事な人がメンタルで問題が発生したときに、自分の病院に相談するのが一番安心な病院にする

これを職員に提示したら、みんな「は?」「また変なこと言いだした」という感じです。(笑) ちなみに事務長から「憲法」だと表現が硬いので、「医療憲章」にしましょうと言われ、変更しております。

ただし、このまま提示するだけでは押しつけっぽくなり、以前の病院理念と機能的には何ら変わりありません。そこで職員みなさんにお願いしたのが、「各部門で何か問題が発生した時、まずこの医療憲章に沿ってその問題の対応策を考えてみてください。」でした。この憲章が職員自らの気づきとなり、全体が良い方向に向かうようファシリテートしていきます。さて、これからどうなるか楽しみです。


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